13 / 21
第一章 アッシー始めました
第十二話
しおりを挟む
翌朝、鐘の音で目を覚まし、早々に朝食を食べ、準備をして宿を出る。
アルカは肩の上でまだ半分寝ているが、そのまま門へと向かう。
まだダフス達との約束の時間まで一時間以上はあるけれど、遅刻をするよりは良いし、待っている間にアルカも目を覚ますだろう。それに、少し作業もある。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう。早いな?」
門番に挨拶し、二人分のギルドカードを渡す。
「えぇ、遠出をするので、早く出ます。あ、そうだ。申し訳ないんですが、ダフスさんが来ますので、来たらリュートは門の外に居る、と伝えていただけませんか?」
「おう、その程度なら構わないぜ?」
「ありがとうございます」
伝言を頼み、お礼を言った後、カードを返してもらい、門の外へと出る。
そのまま、外壁沿いに人目の付かない目立たない場所へと移動する。
「ほいっと」
丁度良い場所を見つけ、そこに魔力で印を刻む。
「んぅ……りゅーとぉ、それなにぃ?」
「あぁ、これな? 転移魔法のポータルだ。空間魔法で、このポータルを置いた場所ならどこでも移動することができる印だよ」
「ふぁぁ……ん? それ、まほー? みせて」
「うーん、さっき宿の裏にも設置してきたから、見せても良いんだけど、魔力がそろそろ尽きそうだから、また今度な」
「んむー……はい」
「はぁ……。一回だけだぞ?」
「ん」
頭の上から魔力を送り込まれ、いや、叩き込まれ、お姫様の要望に応える為、ゲートを開き、宿屋の裏手に出る。
「んぉー! りゅーとすごい!」
「だろう? さ、もういいだろう? 戻るぞ?」
「ん、ありがと」
宿裏のポータルから表通りに出た後、宿を一周して街の外のポータルに戻り、ダフスと合流し易いように、門の近くまで移動し、近くの木陰で座って待つ。
「おう、早かったな!」
「あ、おはようございます。ちょっとアルカと遊んでました」
「あっはっはっ! 朝っぱらから元気が良いなぁ!」
「ダフスさんも十分元気じゃないですか」
「そりゃあ、冒険者だからな!」
「理由になってませんけど……ははっ」
「おう、そうだ。これから一緒に行動するんだ。その、あまり畏まった感じにならなくて良いぜ? こいつらもやりにくいだろうし、普段通りに頼む」
「はい。あ、あぁ、分かった。じゃあ、遠慮なく」
他の三人とも合流し、砕けた口調で挨拶を交わし、早々に出発する。
まずはオークと遭遇した所まで移動し、そこから森の中に入って行くという事になり、サハルナに来た時と同じ道を通り、目的地を目指し、談笑しながら先に進む。
「それにしても、お前さん達……本気で遊びに行くつもりじゃないだろうな……?」
「え、どういう事だ?」
「そりゃあ、ねぇ? アルカちゃんは良いとしてさ、リュートさん、荷物は?」
ダフスに訝し気な目を向けられ、アルカを強奪したルーナから指摘が入る。その後も、立て続けにカールやメナスからも指摘を受ける。
「食料はどーすんだよ!?」
「装備は、まぁ、それでも良いとして武器が棒って……」
「あぁ、そこか……食料はちゃんと持ってきているから大丈夫だ。それに前言った通り、そもそも俺達は魔法使いであって、戦士じゃない。アルカは武器を持っても下半身がアレだし、俺は杖術が少しだけで、今までも武器はほぼ使ってこなかった。だから、牽制の為一応持っているだけだ」
「アルカちゃんは風魔術を使っていたみたいですけど、リュートさんは?」
「俺は知識だけなら全属性持っているんだけど、使えるのは空間かな」
インベントリの事を説明しても良かったけれど、話が逸れたので、保留。
「へぇ……」
「りゅーと、すごい」
「そうなの? もしかして、高名な魔術士だったり……する?」
「違うよ。ただの研究バカだ。それに、もし高名だとしたら、ギルドやルーナが俺の事を知らないって時点で高名じゃないだろう?」
「そりゃそうだね。あはははっ、面白いねーアルカちゃん!」
「ん……?」
アルカは意味が分からず何が面白いのか分からないのだろう。元の世界では、そこそこ名前は売れていたけれど、この世界では名前が知られているわけがない。
ルーナからアルカを奪い返し、火と水の魔法陣を教えながら、炎風の盾四人とも親睦を深めていると、第一の目的地に到着した。
「さて、ここから少し入って真っ直ぐ東に歩いた所に少し開けている場所がある。今日はそこで野営地としよう。この調子なら、日が沈む前には到着できるはずだ。モンスターが出たら、先程話し合った陣形で戦う。良いか?」
「分かった」
森の中は視界が狭い為、事前に戦い方を話し合った。初心者である俺達を、彼等の陣形に組み込むには些か不安があるということで、俺達二人は遊撃担当。炎風の盾のバック、もしくはサイドから魔法で攻撃を仕掛け、モンスターの気を引いている内にダフスが先頭で指揮を執り、全員で仕留めるのだという。
その為、アルカには火の魔法陣作成を一旦保留にしてもらい、戦闘の無い時に風と水の魔法陣を量産してもらった。魔力が有り余っているってのは羨ましいね……。
それから目的地までの間、何度かモンスターと戦闘になるも、基本的にアルカの一撃で全て片が付き、何事も無くダフスの指定した目的地に到着した。
「いやはや、何だよあの威力。俺達って必要なのか?」
「前回、アタシ達ってルーナの炎壁で実際に見てないからね。正直驚いたわ……」
「な、俺の言った通りだろう? 威力がやべーんだって」
「アルカちゃんは可愛いし!」
そういえば、ダフスとメナスは前回簡易な陣の攻撃しか見ていなかったっけ。
褒められたアルカは満更でもなさそうな態度だし、何も言わずにおこう。
「それで、お前さん達はどうするんだ?」
「どう、とは?」
「いや、だから食料だよ。アルカのお陰で少し時間もあるし、今なら手伝うぞ?」
「あぁ、それなら大丈夫。携帯食料も持ってきたし、何よりさっき猪を仕留めたからな。どうせだから、皆で食べよう。捌くの手伝ってくれないか?」
「えっ……いつだ……? ってか、どこだ……?」
「ほら、さっきゴブリンが四匹現れた時」
「確かにリュートさん、少し後ろを向いて変な動きしてましたね。あの時?」
「そうそう。まぁ、あの位置だとルーナしか気付かないよな」
「いやいや、仕留めたからってどうだってんだよ。あそこまで取りに行くのか!?」
先程は保留にしておいたけれど、もう良いだろう。
「アルカ、お願いできるか?」
「んっ!」
アルカに、インベントリ経由で仕留めた猪を出してもらう。
「「「「はぁっ!?」」」」
「いや、そんなに驚かなくても……ほら、結構大物だから数日持ちそうだよな」
「ん……あるかも、てつだう、しお!」
「おう。こういうのはな、焼くだけってのが一番上手かったりするんだよ」
炎風の盾は、アルカの小さなポーチから出てきた大きな猪を見て、驚いている。
その間にナイフを使って、猪を部位別に切断する。
「ここは美味いから、アルカな。後は皆も好きな部位を取ってくれ。皮剥ぎとかは各自よろしく。俺はここかな。ふんっ! よし、アルカ。そこに火を点けてくれ」
「ん」
「「「「はぁっ!?」」」」
「驚きすぎだろ……」
切断した猪の旨そうな部位をアルカ用に回収し、森の中に入ってからずっと回収し続けていた薪をインベントリから出し、そこにアルカから火を点けてもらう。
今度は突然解体された猪や、突然現れた焚き火に驚く四人。
そんな四人を眺めながら、雑貨屋で購入したナイフで猪肉を加工する。
「だから、驚きすぎだろうよ……」
「はぁ……説明くらいしてくれよ……」
「おいおいおい、驚いたってレベルじゃねーぞ! おい!」
「え、何、なにが起こったの!? 何、そのポーチ!」
「アルカちゃん……すごかわ……」
「ほら、それより先に肉だ、肉!」
「にく! しお!」
ダフスは諦めた風にこちらを見つめ、カールとメナスは猪とアルカのポーチを交互に見ており、ルーナはアルカをウットリした目で見つめて両手を広げている。
「これは、アルカの魔法。はい、説明終わり。さ、飯にしようぜ飯」
「めし」
「『アルカちゃんっ……!」
「んぅぷっ……」
「おいルーナ! 抱き付くのは良いが、俺の顔に股間を擦り付けるのは止めてくれ」
「はぅっ!?」
ルーナを窘め、加工した猪肉を棒に刺し、焼き具合を確かめながら、今起こした現象を一つ一つ説明していく。但し、アルカの<源泉>は秘密だ。
「――ってわけだ。まぁ、基本はアルカだから、俺次第でいざという時には使えないかもしれない。だから、戦力には加算しないでくれ」
「なるほどな……それにしても驚いた。アルカがそこまでの使い手だったとは……」
「すごいじゃない! その魔術で……って、常には使えないんだったわね……」
魔法に関しては全てアルカということにしておいた。
その説明をしている際、ちょっとした違和感に気が付く。
俺が“魔法”という言葉を使っているのに対して、全員が“魔術”と言っている。元の世界では“魔術”とは古い時代に使われていたものだ。もしかしたら、この世界では魔導の分野において、そこまで発展していないのかもしれない。一先ず、俺も魔術と言うようにしておこう。
「俺にも! 俺にもその便利な魔道具を作ってくれ!」
「あぁ、すまない。これは俺とアルカの魔力にしか反応しないんだ」
「ぬぁ! マジか……」
当然嘘である。今ここで袋やバッグを加工してあげることはできる。でも、そこを俺のインベントリに繋ぐわけにはいかない。自前で空間魔法が使えるのなら、使い方を教えてあげても良いが、カールでは魔法使いではないし、無理だろう。
「それにしても、収納の魔道具は聞いた事あるが、それを魔法で実現するとは……」
「そうですよ! さすがアルカちゃんの師匠を自称するだけはありますね!」
「ルーナ、言い方、言い方! あんたそんなキャラだったっけ……」
「あぁ、アルカちゃん……」
「ダフス、この魔道具知ってるのか!? 俺達も手に入れようぜ!」
「いくらすると思ってんだよ……カール、お前聖金貨何枚か持ってるか?」
「よし、諦めよう!」
「はぁ……」
四人は、インベントリの話から収納魔道具の話などで盛り上がっている。そんな彼等を眺めながら、アルカ用の肉を加工していく。
待っている間口寂しいだろうと、雑貨屋で購入した携帯食料をアルカに渡したところ、不評だった。これは死蔵決定だな……。
「よし、そろそろ交代で休憩するか」
「あぁ、それなんだけど……こっちはアルカが戦力だから一番で良いか?」
「まぁ、戦力といっても子どもだしな……あぁ、構わないぜ」
「ありがとう。じゃあ、皆先に休んでくれ。交代は適当に起こすから」
「分かった。ただ、少しでも危険だと思ったら、即起こしてくれよ?」
「もちろん」
「じゃあ、頼んだ」
皆に許可を貰い、皆がテントに入って行ったのを見て、初めの見張り番を始める。
数時間後にカールでも叩き起こしてやろう。
「みんな、ねる?」
「あぁ、今はこの火が消えないよう守る時間。俺が見てるからアルカは寝てて良いぞ」
「んーん。れんしゅーする」
「偉いなー、アルカは。じゃあ、俺も召喚の練習するかな」
「!? ちょーみりょー!」
「はははっ、俺は料理人じゃないぞっと!」
以前塩を出した事を思い出したのだろう。少し興奮したアルカから魔力が流れ込んでくるのが分かる。期待に応えたいところではあるが、今優先すべきはテントだ。野営をするってことが分かっていたのに、テント購入を忘れたからな。バカだよな……。
そんな事を考えながら、召喚魔法を発動させ、陣の中から召喚物を引き出す。
「今度は何だ……?」
「しお!」
「いやいや、どう見ても塩じゃないだろう……黒い液体?」
「たれ!」
「うーん、塩の瓶に似ているが……あっ、おい!」
以前召喚した塩に似た瓶で、中には黒い液体が入っている。上部には蓋が付いており、その蓋の左右に小さな穴が開いている。そこから液体を出すのだろう。毒なのか、可燃性なのか掌に一滴垂らして眺めていると、アルカがペロっと舐めてしまう。
「ん……あまい? しょっぱい?」
「おい! まだ何かも分かってないのに、危ないだろう!?」
「んぅ……ごめん……」
何でも口に入れるなこの子は……次からは解毒の魔法陣を作り置きしておこう……。
「はぁ……で、大丈夫か? 毒だったりしないか?」
「ん。たれ?」
アルカが何ともないようだったので、同じく舐めてみる。
「どれどれ……ふむ。塩辛い? でも少し甘みが……魚醤? 試してみるか」
余っていた猪肉を小さく切り棒に刺して、黒い液体を掛けた後、炙ってみる。
「ん……おいしそう?」
「旨そうな匂いだな……」
肉の刺さった棒をクルクル回しながら、全体に火が通るように焼いてみたが、液体自体焦げ易いのか、少し焦げてしまう。
それでも美味そうなので、解毒の魔法陣を端材に書きつつ食べてみる。
「んぐっ、うむ。旨いな」
「あるかも! んっんっ……お、おいしい」
「調味料……なの、か? まぁ、いいか。じゃあ、これアルカのな」
「ん!」
また役に立たない調味料を召喚してしまった事に、少し落ち込み、焚き火を眺めながら見張り番に戻ったが、アルカから何度も何度もねだられ、結局六回程召喚したところで、アルカが眠ってくれた。
結局、武器の類は一切出ず、出てきたのは塩、塩、砂糖、魚醤、塩、胡椒。何でこうも塩率が高いのか……。しかも、初めて塩が出た時にも思った事だが、こんなに純度の高い塩や砂糖などは生まれて初めてみたし、容器の瓶だってそうだ。とても透明度が高い。
まぁ、それもこれも全てはアルカの魔力の影響――食い意地のせいだな。うん、きっとそうだ、間違いない。
そう考えるとガラクタは俺のせい……? いやでも、全てが野営で使えない事はない。そう考えると俺のせいではなく、俺のお陰だ! はぁ……。
近付いてきたモンスターに八つ当たりしていると、魔力が尽きそうになった。
「ダフス、そろそろいいか?」
「……ん、ふぁぁぁっ……あぁ、そろそろ時間か。おい、カール起きろ」
「……ふがっ、んあ? お、おぉ、交代か」
「お前さん達、テントは無いんだろう? ここを使って良いぞ」
「助かる。ありがとう」
「いいってことよ。飯貰ったしな。次はあっちのテントで寝るし」
「ふあぁぁぅ……んじゃ、いくか」
ちょうど魔力も無いし、ご厚意に甘えてテントで寝よう。
テントを借りて、召喚した毛布に二人で包まる。
アルカは肩の上でまだ半分寝ているが、そのまま門へと向かう。
まだダフス達との約束の時間まで一時間以上はあるけれど、遅刻をするよりは良いし、待っている間にアルカも目を覚ますだろう。それに、少し作業もある。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう。早いな?」
門番に挨拶し、二人分のギルドカードを渡す。
「えぇ、遠出をするので、早く出ます。あ、そうだ。申し訳ないんですが、ダフスさんが来ますので、来たらリュートは門の外に居る、と伝えていただけませんか?」
「おう、その程度なら構わないぜ?」
「ありがとうございます」
伝言を頼み、お礼を言った後、カードを返してもらい、門の外へと出る。
そのまま、外壁沿いに人目の付かない目立たない場所へと移動する。
「ほいっと」
丁度良い場所を見つけ、そこに魔力で印を刻む。
「んぅ……りゅーとぉ、それなにぃ?」
「あぁ、これな? 転移魔法のポータルだ。空間魔法で、このポータルを置いた場所ならどこでも移動することができる印だよ」
「ふぁぁ……ん? それ、まほー? みせて」
「うーん、さっき宿の裏にも設置してきたから、見せても良いんだけど、魔力がそろそろ尽きそうだから、また今度な」
「んむー……はい」
「はぁ……。一回だけだぞ?」
「ん」
頭の上から魔力を送り込まれ、いや、叩き込まれ、お姫様の要望に応える為、ゲートを開き、宿屋の裏手に出る。
「んぉー! りゅーとすごい!」
「だろう? さ、もういいだろう? 戻るぞ?」
「ん、ありがと」
宿裏のポータルから表通りに出た後、宿を一周して街の外のポータルに戻り、ダフスと合流し易いように、門の近くまで移動し、近くの木陰で座って待つ。
「おう、早かったな!」
「あ、おはようございます。ちょっとアルカと遊んでました」
「あっはっはっ! 朝っぱらから元気が良いなぁ!」
「ダフスさんも十分元気じゃないですか」
「そりゃあ、冒険者だからな!」
「理由になってませんけど……ははっ」
「おう、そうだ。これから一緒に行動するんだ。その、あまり畏まった感じにならなくて良いぜ? こいつらもやりにくいだろうし、普段通りに頼む」
「はい。あ、あぁ、分かった。じゃあ、遠慮なく」
他の三人とも合流し、砕けた口調で挨拶を交わし、早々に出発する。
まずはオークと遭遇した所まで移動し、そこから森の中に入って行くという事になり、サハルナに来た時と同じ道を通り、目的地を目指し、談笑しながら先に進む。
「それにしても、お前さん達……本気で遊びに行くつもりじゃないだろうな……?」
「え、どういう事だ?」
「そりゃあ、ねぇ? アルカちゃんは良いとしてさ、リュートさん、荷物は?」
ダフスに訝し気な目を向けられ、アルカを強奪したルーナから指摘が入る。その後も、立て続けにカールやメナスからも指摘を受ける。
「食料はどーすんだよ!?」
「装備は、まぁ、それでも良いとして武器が棒って……」
「あぁ、そこか……食料はちゃんと持ってきているから大丈夫だ。それに前言った通り、そもそも俺達は魔法使いであって、戦士じゃない。アルカは武器を持っても下半身がアレだし、俺は杖術が少しだけで、今までも武器はほぼ使ってこなかった。だから、牽制の為一応持っているだけだ」
「アルカちゃんは風魔術を使っていたみたいですけど、リュートさんは?」
「俺は知識だけなら全属性持っているんだけど、使えるのは空間かな」
インベントリの事を説明しても良かったけれど、話が逸れたので、保留。
「へぇ……」
「りゅーと、すごい」
「そうなの? もしかして、高名な魔術士だったり……する?」
「違うよ。ただの研究バカだ。それに、もし高名だとしたら、ギルドやルーナが俺の事を知らないって時点で高名じゃないだろう?」
「そりゃそうだね。あはははっ、面白いねーアルカちゃん!」
「ん……?」
アルカは意味が分からず何が面白いのか分からないのだろう。元の世界では、そこそこ名前は売れていたけれど、この世界では名前が知られているわけがない。
ルーナからアルカを奪い返し、火と水の魔法陣を教えながら、炎風の盾四人とも親睦を深めていると、第一の目的地に到着した。
「さて、ここから少し入って真っ直ぐ東に歩いた所に少し開けている場所がある。今日はそこで野営地としよう。この調子なら、日が沈む前には到着できるはずだ。モンスターが出たら、先程話し合った陣形で戦う。良いか?」
「分かった」
森の中は視界が狭い為、事前に戦い方を話し合った。初心者である俺達を、彼等の陣形に組み込むには些か不安があるということで、俺達二人は遊撃担当。炎風の盾のバック、もしくはサイドから魔法で攻撃を仕掛け、モンスターの気を引いている内にダフスが先頭で指揮を執り、全員で仕留めるのだという。
その為、アルカには火の魔法陣作成を一旦保留にしてもらい、戦闘の無い時に風と水の魔法陣を量産してもらった。魔力が有り余っているってのは羨ましいね……。
それから目的地までの間、何度かモンスターと戦闘になるも、基本的にアルカの一撃で全て片が付き、何事も無くダフスの指定した目的地に到着した。
「いやはや、何だよあの威力。俺達って必要なのか?」
「前回、アタシ達ってルーナの炎壁で実際に見てないからね。正直驚いたわ……」
「な、俺の言った通りだろう? 威力がやべーんだって」
「アルカちゃんは可愛いし!」
そういえば、ダフスとメナスは前回簡易な陣の攻撃しか見ていなかったっけ。
褒められたアルカは満更でもなさそうな態度だし、何も言わずにおこう。
「それで、お前さん達はどうするんだ?」
「どう、とは?」
「いや、だから食料だよ。アルカのお陰で少し時間もあるし、今なら手伝うぞ?」
「あぁ、それなら大丈夫。携帯食料も持ってきたし、何よりさっき猪を仕留めたからな。どうせだから、皆で食べよう。捌くの手伝ってくれないか?」
「えっ……いつだ……? ってか、どこだ……?」
「ほら、さっきゴブリンが四匹現れた時」
「確かにリュートさん、少し後ろを向いて変な動きしてましたね。あの時?」
「そうそう。まぁ、あの位置だとルーナしか気付かないよな」
「いやいや、仕留めたからってどうだってんだよ。あそこまで取りに行くのか!?」
先程は保留にしておいたけれど、もう良いだろう。
「アルカ、お願いできるか?」
「んっ!」
アルカに、インベントリ経由で仕留めた猪を出してもらう。
「「「「はぁっ!?」」」」
「いや、そんなに驚かなくても……ほら、結構大物だから数日持ちそうだよな」
「ん……あるかも、てつだう、しお!」
「おう。こういうのはな、焼くだけってのが一番上手かったりするんだよ」
炎風の盾は、アルカの小さなポーチから出てきた大きな猪を見て、驚いている。
その間にナイフを使って、猪を部位別に切断する。
「ここは美味いから、アルカな。後は皆も好きな部位を取ってくれ。皮剥ぎとかは各自よろしく。俺はここかな。ふんっ! よし、アルカ。そこに火を点けてくれ」
「ん」
「「「「はぁっ!?」」」」
「驚きすぎだろ……」
切断した猪の旨そうな部位をアルカ用に回収し、森の中に入ってからずっと回収し続けていた薪をインベントリから出し、そこにアルカから火を点けてもらう。
今度は突然解体された猪や、突然現れた焚き火に驚く四人。
そんな四人を眺めながら、雑貨屋で購入したナイフで猪肉を加工する。
「だから、驚きすぎだろうよ……」
「はぁ……説明くらいしてくれよ……」
「おいおいおい、驚いたってレベルじゃねーぞ! おい!」
「え、何、なにが起こったの!? 何、そのポーチ!」
「アルカちゃん……すごかわ……」
「ほら、それより先に肉だ、肉!」
「にく! しお!」
ダフスは諦めた風にこちらを見つめ、カールとメナスは猪とアルカのポーチを交互に見ており、ルーナはアルカをウットリした目で見つめて両手を広げている。
「これは、アルカの魔法。はい、説明終わり。さ、飯にしようぜ飯」
「めし」
「『アルカちゃんっ……!」
「んぅぷっ……」
「おいルーナ! 抱き付くのは良いが、俺の顔に股間を擦り付けるのは止めてくれ」
「はぅっ!?」
ルーナを窘め、加工した猪肉を棒に刺し、焼き具合を確かめながら、今起こした現象を一つ一つ説明していく。但し、アルカの<源泉>は秘密だ。
「――ってわけだ。まぁ、基本はアルカだから、俺次第でいざという時には使えないかもしれない。だから、戦力には加算しないでくれ」
「なるほどな……それにしても驚いた。アルカがそこまでの使い手だったとは……」
「すごいじゃない! その魔術で……って、常には使えないんだったわね……」
魔法に関しては全てアルカということにしておいた。
その説明をしている際、ちょっとした違和感に気が付く。
俺が“魔法”という言葉を使っているのに対して、全員が“魔術”と言っている。元の世界では“魔術”とは古い時代に使われていたものだ。もしかしたら、この世界では魔導の分野において、そこまで発展していないのかもしれない。一先ず、俺も魔術と言うようにしておこう。
「俺にも! 俺にもその便利な魔道具を作ってくれ!」
「あぁ、すまない。これは俺とアルカの魔力にしか反応しないんだ」
「ぬぁ! マジか……」
当然嘘である。今ここで袋やバッグを加工してあげることはできる。でも、そこを俺のインベントリに繋ぐわけにはいかない。自前で空間魔法が使えるのなら、使い方を教えてあげても良いが、カールでは魔法使いではないし、無理だろう。
「それにしても、収納の魔道具は聞いた事あるが、それを魔法で実現するとは……」
「そうですよ! さすがアルカちゃんの師匠を自称するだけはありますね!」
「ルーナ、言い方、言い方! あんたそんなキャラだったっけ……」
「あぁ、アルカちゃん……」
「ダフス、この魔道具知ってるのか!? 俺達も手に入れようぜ!」
「いくらすると思ってんだよ……カール、お前聖金貨何枚か持ってるか?」
「よし、諦めよう!」
「はぁ……」
四人は、インベントリの話から収納魔道具の話などで盛り上がっている。そんな彼等を眺めながら、アルカ用の肉を加工していく。
待っている間口寂しいだろうと、雑貨屋で購入した携帯食料をアルカに渡したところ、不評だった。これは死蔵決定だな……。
「よし、そろそろ交代で休憩するか」
「あぁ、それなんだけど……こっちはアルカが戦力だから一番で良いか?」
「まぁ、戦力といっても子どもだしな……あぁ、構わないぜ」
「ありがとう。じゃあ、皆先に休んでくれ。交代は適当に起こすから」
「分かった。ただ、少しでも危険だと思ったら、即起こしてくれよ?」
「もちろん」
「じゃあ、頼んだ」
皆に許可を貰い、皆がテントに入って行ったのを見て、初めの見張り番を始める。
数時間後にカールでも叩き起こしてやろう。
「みんな、ねる?」
「あぁ、今はこの火が消えないよう守る時間。俺が見てるからアルカは寝てて良いぞ」
「んーん。れんしゅーする」
「偉いなー、アルカは。じゃあ、俺も召喚の練習するかな」
「!? ちょーみりょー!」
「はははっ、俺は料理人じゃないぞっと!」
以前塩を出した事を思い出したのだろう。少し興奮したアルカから魔力が流れ込んでくるのが分かる。期待に応えたいところではあるが、今優先すべきはテントだ。野営をするってことが分かっていたのに、テント購入を忘れたからな。バカだよな……。
そんな事を考えながら、召喚魔法を発動させ、陣の中から召喚物を引き出す。
「今度は何だ……?」
「しお!」
「いやいや、どう見ても塩じゃないだろう……黒い液体?」
「たれ!」
「うーん、塩の瓶に似ているが……あっ、おい!」
以前召喚した塩に似た瓶で、中には黒い液体が入っている。上部には蓋が付いており、その蓋の左右に小さな穴が開いている。そこから液体を出すのだろう。毒なのか、可燃性なのか掌に一滴垂らして眺めていると、アルカがペロっと舐めてしまう。
「ん……あまい? しょっぱい?」
「おい! まだ何かも分かってないのに、危ないだろう!?」
「んぅ……ごめん……」
何でも口に入れるなこの子は……次からは解毒の魔法陣を作り置きしておこう……。
「はぁ……で、大丈夫か? 毒だったりしないか?」
「ん。たれ?」
アルカが何ともないようだったので、同じく舐めてみる。
「どれどれ……ふむ。塩辛い? でも少し甘みが……魚醤? 試してみるか」
余っていた猪肉を小さく切り棒に刺して、黒い液体を掛けた後、炙ってみる。
「ん……おいしそう?」
「旨そうな匂いだな……」
肉の刺さった棒をクルクル回しながら、全体に火が通るように焼いてみたが、液体自体焦げ易いのか、少し焦げてしまう。
それでも美味そうなので、解毒の魔法陣を端材に書きつつ食べてみる。
「んぐっ、うむ。旨いな」
「あるかも! んっんっ……お、おいしい」
「調味料……なの、か? まぁ、いいか。じゃあ、これアルカのな」
「ん!」
また役に立たない調味料を召喚してしまった事に、少し落ち込み、焚き火を眺めながら見張り番に戻ったが、アルカから何度も何度もねだられ、結局六回程召喚したところで、アルカが眠ってくれた。
結局、武器の類は一切出ず、出てきたのは塩、塩、砂糖、魚醤、塩、胡椒。何でこうも塩率が高いのか……。しかも、初めて塩が出た時にも思った事だが、こんなに純度の高い塩や砂糖などは生まれて初めてみたし、容器の瓶だってそうだ。とても透明度が高い。
まぁ、それもこれも全てはアルカの魔力の影響――食い意地のせいだな。うん、きっとそうだ、間違いない。
そう考えるとガラクタは俺のせい……? いやでも、全てが野営で使えない事はない。そう考えると俺のせいではなく、俺のお陰だ! はぁ……。
近付いてきたモンスターに八つ当たりしていると、魔力が尽きそうになった。
「ダフス、そろそろいいか?」
「……ん、ふぁぁぁっ……あぁ、そろそろ時間か。おい、カール起きろ」
「……ふがっ、んあ? お、おぉ、交代か」
「お前さん達、テントは無いんだろう? ここを使って良いぞ」
「助かる。ありがとう」
「いいってことよ。飯貰ったしな。次はあっちのテントで寝るし」
「ふあぁぁぅ……んじゃ、いくか」
ちょうど魔力も無いし、ご厚意に甘えてテントで寝よう。
テントを借りて、召喚した毛布に二人で包まる。
0
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】
ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!
どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。
kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。
前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。
やばい!やばい!やばい!
確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。
だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。
前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね!
うんうん!
要らない!要らない!
さっさと婚約解消して2人を応援するよ!
だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。
※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~
ゆるり
ファンタジー
☆第17回ファンタジー小説大賞で【癒し系ほっこり賞】を受賞しました!☆
ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。
最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。
この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう!
……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは?
***
ゲーム生活をのんびり楽しむ話。
バトルもありますが、基本はスローライフ。
主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。
カクヨム様にて先行公開しております。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
司書ですが、何か?
みつまめ つぼみ
ファンタジー
16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。
ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。
みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!
沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました!
定番の転生しました、前世アラサー女子です。
前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。
・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで?
どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。
しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前?
ええーっ!
まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。
しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる!
家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。
えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動?
そんなの知らなーい!
みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす!
え?違う?
とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。
R15は保険です。
更新は不定期です。
「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。
2021/8/21 改めて投稿し直しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる