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オールスターゲーム

心中

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ちょうどその頃、休養宣言して指揮を財前に譲った櫻井は自宅のテレビでオールスターゲームを観戦していた。


「…オールスターゲームか…本来ならば、ボクがネプチューンリーグの監督で采配してたんだよなぁ」


今は何も考えたくない。

とは言うものの、どうしても思い出してしまうのは野球の事ばかりだ。


ヘッドコーチ時代は斬新な選手起用でチームを優勝に導いたが、監督になってからはその采配が空回りしていた。


「やっぱりボクは監督に向いてないんだろうな」

天才と謳われた櫻井だが、必ずしも名選手が名監督にはならない。


辞意は表明してないが事実上の辞任で、リフレッシュしたら復帰するという名目だが、これでは何時になったら復帰出来るのか。


このまま辞意を表明して次期監督を誰かに任せた方がいいのか、それとも復帰して再び指揮を執るか。


どっちが正解なのか。


それが分からずにモヤモヤしたまま一日が過ぎてゆく。



「決めた…オールスター明けにでも意志を伝えよう」


櫻井の肚は決まった。




さて、オールスターゲームは5回が終わって3対0でアポロリーグがリードしている。


ネプチューンリーグ先発の天海は2イニングを投げて無安打無失点、2奪三振の好投を見せたが、二番手ピッチャー、レッズの金が4回にランナー二塁の場面で高橋にツーランを打たれ、5回の表には三番手ピッチャー、99ersの松井が陽凪にソロホームランを打たれ3点を献上。


それに対してアポロリーグのピッチャーは小橋―猪木―澁谷と繋いでネプチューンリーグの強打者を0点に抑える。


6回の表、アポロリーグの攻撃は途中出場の2番斐川から。

この回からマウンドにはGlanzの片山が上がっている。


片山はオールスター初出場。


外崎は初回からマスクを被る。



【6回の表、アポロリーグの攻撃は…2番ライト斐川 背番号3 北九州ドジャース】


左対左という場面だが、斐川はアポロリーグを代表するヒットメーカー。


野球の能力は超一流だが、人間的にはゲスな部類に入る。


吉岡をパワハラで虐め、それが原因で無期限の二軍降格を命じられた。


もう少し考えを改めないといけないんだが、この性格ではムリな気がする。


「…」


「おぅ、何だお前か!これならアウト一つ貰ったようなもんだ」


「何っ!」


片山の挑発に斐川がムキになる。


「お前じゃオレの球は打てねえよ」


「もし打ったらどうする?」


「ん~、そうだなぁ…何でも言う事聞いてやるよ」


「おい、絶対だな?」


「ウソは言わねえよ」


片山は自信満々で答えた。


(ヨシ、どんな形であれヒットはヒットだ…となると、アレしかないよな)


斐川は打席でほくそ笑む。


(何やってんだ、コイツら)


2人のやり取りを他所に外崎がサインを出した。


しかし片山は首を振る。


(首振るなって言ったろ!)


しかし外崎も同じサインを出す。


またしても片山が首を振る。


(あのヤロー)


じゃあ、これはどうだと別のサインを出した。


片山は頷き、初球を投げた。


インコースベルトの高さへストレートが。


「へっ、貰った」


斐川は咄嗟にバントの構えをした。


「バカが!」


しかし、ボールは内側に食い込み、バントの構えをひていた斐川の脇腹を直撃。


「グボォ…」


片山はツーシームをインコースギリギリに投げていた。


苦悶の表情を浮かべる斐川、しかし球審のコールはストライク。


「…おい、ちょっと待て…オレは当たったんだぞ!それなのに、何でストライクなんだ!」


「バントの構えでボールに当たらなきゃストライクだろ!そんな事すらも分からないのか!」


「あぁ~あ、バカだねぇ全く…」


球審にドヤされ、顔を真っ赤にしている。


「ルールすら分からないのかよ…ったく、どうしようもねぇヤツだな」


斐川はその後も打席に立ったが、3球目のチェンジアップを引っ掛けセカンドゴロでアウト。


続いて3番ボーンが左打席に入る。


「この次は鬼束さんか…そうなると、ここでアウトにしておかないと」


初球ボール、2球目スライダーが決まりストライク。

3球目は縦のカーブでツーストライクと追い込み、4球目は高めの釣り球でツーナッシング。


5球目は外に沈むチェンジアップを引っ掛けてサードゴロでツーアウト。


【4番セカンド鬼束 背番号5 新潟パイレーツ】


この試合まだノーヒットの鬼束が右打席に入った。


オールスターゲームでの成績は13打数2安打と良くない。


結局鬼束は初球のストレートを打ち損じ、ライトフライでツーアウト。


5番上田は空振りの三振でスリーアウトチェンジ。


6回の裏、ネプチューンリーグの攻撃は3番浅倉から。

マウンドには四番手ピッチャー、マリナーズの中継ぎ黒沢にスイッチ。


浅倉はフルカウントまで粘り、フォアボールで出塁。


4番ロドリゲスの打席で二盗を敢行。


間一髪セーフとなり、ロドリゲスが3球目の高めに入ったストレートを捕え、レフトスタンドへツーランホームランを放ち1点差にする。


その後は両チーム無得点のまま、最終回となる。


9回の裏、ネプチューンリーグの攻撃は2番白石から。

ここで財前監督代行がベンチを出て、バッターの交代を告げた。


ネクストバッターズサークルには唐澤が素振りをしている。


【ネプチューンリーグ、選手の交代をお知らせします!バッター白石に代わり、唐澤。3番ショート唐澤 背番号1 SAITAMA Glanz】


歓声が沸き起こり、唐澤が打席に入った。


マウンド上はドジャースの守護神橘。


唐澤は初球勝負と読み、真ん中高め153km/hのストレートを弾き返した。


打球は右中間を深々と破るツーベースヒット。


3番浅倉はここまでノーヒットだが、財前監督代行は代打を出さず浅倉に託した。


その浅倉は4球目のチェンジアップを上手く捕え、センターオーバーのタイムリースリーベースヒットで同点に追いつく。


土壇場で同点に追いつき、尚もチャンスは続く。


一打サヨナラの場面でバッターは先程ツーランホームランを打ったロドリゲス。


ここは敬遠策をとり、ロドリゲスを歩かせる。


だが、浅倉はこの敬遠を虎視眈々と狙っていた。


2球目にアウトコース高めに大きく外れた敬遠球のスキにホームスチールを敢行。


キャッチャー保坂が咄嗟にタッチするが、判定はセーフ。


サヨナラホームスチールでネプチューンリーグが逆転勝利をおさめた。


場内割れんばかりの歓声で、ベンチも狂喜乱舞している。


MVPは勿論、ホームスチールを成功させた浅倉が受賞。


賞金300万をゲットした。


かくしてオールスターゲームは盛況のうちに終了し、4日後からペナントレースが再開する。


Glanzの初戦は京都スーパーフェニックスとの三連戦だ。
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