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インターカンファレンス(交流戦)

ワガママなピッチャー

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片山は初回を三者凡退に抑える。


「1回の表は三者凡退で終了。
玉井尻さん、片山の調子はどうでしょうか?」


「どうって言われてもなぁ…初回何球投げたんだ?」


「そうですね…先頭の結城には2球、清水に対しては僅か1球、3番の村上には3球でアウトにしてますね」


「て事は、初回は7球で抑えたのかよ…」


「いえ、玉井尻さん、6球です」

計算も出来ないとは…


「ええ、6球ぅ?だって、2球に1球に3球だろ…あ、6球だった…ガハハハハハ!オレァ、中学高校と数学の成績は良かったんだが、歳のせいか、計算間違えしちまったぜ」


うそつけ!


「さぁ、1回の裏Glanzの攻撃はトップバッターの藤村。
玉井尻さん、この藤村は今シーズン打率.283 ホームランが4本で盗塁はリーグ2位の12個。
これはどう思われますか?」


「よくやってる方じゃないのか?
1番バッターは塁に出てナンボだし、コイツの出塁率はどのくらいなんだ?」


「えぇーっと、出塁率は…0.362と高いですね」


「ほぅ、打率と比べると随分高いな」


「それだけ球をよく見てるという事でしょうか」


藤村は昨年のシーズンオフに選球眼を養うためにバットを持たず打席に入り、ピッチングマシンの投げる球をひたすら見る訓練を行った。

そのお陰でボールの縫い目までハッキリ見えるようになったらしい。


「選球眼を養うトレーニングするのはいいけど、目が疲れて逆効果になるんじゃないのか?」


「そのへんはどうなんでしょうかね?」


分からない。


マウンド上のジェファーソンはサイドスローに近いスリークォーターから腕が遅れて出るせいで、バッターのタイミングを狂わすのが持ち味。


「ジェファーソンが第1球を投げた!
インコースにストレートが決まってワンストライク!」


「随分と変則的なフォームだな…あれじゃ腕の振りがよく見えないよな」


「ジェファーソンはフォームを研究して、一番理想的なフォームがコレだったようです」


「これで?確かに腕の振りは見えにくいけど、これだとランナーいる時に走られるんじゃないのか、腕の振りが大きいじゃん」


ジェファーソンはクイックが苦手だ。


「ジェファーソンはランナーがいてもあまり牽制をしないし、クイックも苦手だというから、ランナーは気にせずバッターに集中して投げるみたいですよ」


「大雑把なヤツだな…」


そのジェファーソンがキャッチャー青田のサインに首を振る。

二度、三度とサインを出すが、ジェファーソンはどれも首を振る。


「マウンド上のジェファーソン、キャッチャー青田と息が合わないのか、何度も首を振ります」


「何を投げたがってるんだ、こいつは」


「ジェファーソンはストレート、スライダー、カットボールにカーブとチェンジアップの球種を投げますが、何を要求してるんでしょうか」


堪らず青田がタイムをかけてマウンドに駆け寄る。

同時にピッチングコーチと通訳もベンチから出てきた。


「ああっと、どうやらジェファーソンが怒ってるように見えますが、青田の出すサインに不満があるのでしょうか」


「キャッチャーってのは、つくづく大変なポジションだと思うぜ。
ピッチャーなんて、お山の大将ばっかだし、機嫌を損ねると面倒臭いからな」


多分、玉井尻は榊の事を言ってるに違いない。


「青田は困り果てた顔をしてますね」


「こんなガイジンはさっさとクビにすりゃいいんだよ!
遅延行為じゃねえか、これじゃ」


何が気に入らないのか、ジェファーソンは通訳に対して早口で捲し立てる。


「あぁ、コーチがジェファーソンをなだめてますね」


「こんな事してるヒマがあったら、さっさと投げろってんだ」


話し合いが終わり、コーチと通訳はベンチに下がった。


「青田がジェファーソンの肩をポンポンと叩いてホームに戻りました、試合再開です」


「これで打たれたら、大笑いだぜ」


玉井尻の予想は意外と当たる。


「ジェファーソンが2球目を投げた!藤村打った!打球はレフトへグーンと伸びる!清水が懸命にバック!
…入った~っ!レフトスタンドへ第5号の先頭打者ホームランっ!」


「何の変哲もない、ただのストレートじゃねぇか!コイツはストレート投げたいために何度も首を振ったのかよ?
それで打たれたんだから、バカ丸出しだな!ウワハハハハハハハ!」


藤村はゆっくりとベースを回ってホームイン。

Glanzが早くも1点を先制した。


「玉井尻さん、今のは真ん中やや外寄りのストレートですけど、藤村はそれを読んでたという事でしょうか?」


「そうだろうな、自信のある球を投げたかったんだろうが、それがストレートで藤村にはお見通しだったんじゃないか」


ジェファーソンは自慢のストレートをスタンドに運ばれ、顔を紅潮させながらプレートを蹴った。


これでジェファーソンは平常心を失い、Glanzは初回に打者一巡の猛攻で一挙5点を奪う。


ジェファーソンはアウト一つしか取れずにノックアウト。


その後も出て来る投手を滅多打ちにしたGlanzが14点を取って大勝。


片山はこれで5勝目となり、トップのマクダウェルに並んだ。


唐澤の9号ツーラン、森高の12号ソロ、13号スリーランでレボリューションズを退けた。



Glanzはその後、キングダムに三連勝、レッズには1勝2敗、スーパーフェニックスに2勝1敗、マーリンズには1勝2敗という成績で東地区の首位をキープ。


そしてインターカンファレンス、交流戦がスタートした。
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