The Baseball 主砲の一振 続編4

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交流戦 序盤

性格を利用する

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前日はスミ1(1回の裏に1点取って、1-0で終わる事)で敗れたスカイウォーカーズ。


今日もマシンガンズとの一戦が控えている。


「ん~、スタメンを誰にしようか…」


打線は機能しない、テコ入れをしようにもこれと言っためぼしい選手が見当たらない。


「打線ってのは水ものなんだよ。いくら調子が良くても、次の日には全く打てないって事があっても不思議じゃないだろ」


打線は水もの…昔からよく言うが、相手投手の出来次第で打てる時もあれば打てない時もある。


分かってはいるのだが、どうやりくりしてチームを勝利に導くのかは監督の采配に懸かっている。


「打線は水ものだけどよ、守備や走塁は水ものじゃないだろ」


「まぁ…そうですけどね。
やっぱり野球は攻めよりも守りが重要なんですね」


「分かりきった事言うなよ。打てなきゃ打てないなりに、工夫しなきゃいけないんだから」


工夫…どう工夫すれば点は取れるのか。


「ヨシ、この打線にしよう!」


櫻井はスタメンのオーダーを決めた。


今日の先発はスカイウォーカーズが左の片山。

マシンガンズはボーンと共にメジャーから移籍して3年目のルーガー。


片山は今季ケガから復帰して3勝1敗、防御率は3.54とまずまずの成績を残している。


対するルーガーは、4勝負け無しと好調。



スカイウォーカーズのスタメンは、

1ライト唐澤
2ショート石川
3ファースト結城
4セカンド森高
5サード鬼束
6レフト庵野
7キャッチャー保坂
8ピッチャー片山
9センター財前


あれこれ考えてもしょうがない、櫻井は開幕当初のスタメンで挑む。


マシンガンズのスタメンは、

1ショート照屋
2セカンド下平
3ファースト知念
4ライトボーン
5センター平良
6キャッチャー新垣
7サード仲間
8レフト玉城
9ピッチャールーガー


マシンガンズは前日と同じオーダーで挑む。




「今日は何がなんでも勝たなきゃ優勝は遠のく。
何をするべきか、各々の力を最大限に引き出して欲しい!
控えの選手も、いつ出場してもいいように準備は怠らないでくれ、以上!」


【ハイ!】


ミーティングで櫻井がスピーチする。


「今日はルーガーが先発だ。あのスライダーは打ってもファールになる程のキレの良さだ。
スライダーは捨てて、ストレートに的を絞るんだ、いいな!」


【ハイ!】

ヘッドコーチの中田はルーガーのストレート狙いを指示する。




ゴールデンウィークが終わり、徐々に陽が長くなってきた。


間もなく午後6時を回るところだが、空は太陽と月が半々に顔を出している。


マウンド上のルーガーはいつもの様に忙しない動きをして、試合開始を今か今かと待っている。

ルーガーが投げる日はテンポが速く、普段よりも試合時間が短い。

投げたらすぐにボールを返し、またすぐに投げるというスタイル。

試合時間が早いのは問題ないが、キャッチャーの出すサインがもたつくだけで早くサインを出せ、と急かす。


短気なのか、せっかちなのか分からないが、とにかく忙しなく動いている。



トップバッターの唐澤が打席に向かおうとする。


「おい、トーマ!ちょっと待った!」


「エッ」


財前が呼び止めた。


「トーマだけじゃなく、皆集まれ!」


財前はベンチにいる全選手を呼び寄せた。


「どうしたんですか?」


「いいから、いいから!これから作戦会議を行う!」



【作戦会議っ?】


一同唖然とする。


「ほら、早く輪になれ!皆集まったか?」


ベンチ前で全選手が円陣を組んだ。


「いいか、これからアイツ(ルーガー)の攻略法を教えるから、よく聞けよ!」


「攻略法?」


唐澤はすぐにでも打席に入らないといけない。

「いいから黙って聞け!」

「あ、ハイ…」


財前は輪の中心で攻略法を授けた。


「…というワケだ。分かったな?」


「それ…ホントに大丈夫なんですか?」


結城が半信半疑に聞く。


「やってみりゃ分かるよ!トーマ、今言ったやり方で先制パンチぶちかまして来い!」


「あ、ハイ!」


唐澤は早足にバッターボックスに入った。



















財前の目論見通り、ルーガーは自滅した。


現在5回表、6対0とスカイウォーカーズが圧倒している。



「言った通りだろ?ああやりゃ、アイツは勝手に自滅するんだよ」


「まさか、あんな方法で自滅するとは…」


鬼束は信じられないといった表情をしている。


「アイツはせっかちだろ?せっかちなヤツにワザとゆっくりさせるのもいいけど、後になって【オレはアイツらの遅延行為で打たれた!これはフェアじゃない!】とか言われるのもイヤだろ?
だったら、そのせっかちを利用すればいいんだよ」



「とは言え…ホントに上手くいくとは」


結城も首を傾げる。


「おかしくねぇって!せっかちならば、更にせっかちにさせればいいんだよ!
タダでさえ、キャッチャーの出すサインにさえせっかちに要求するんだから、コッチはもっと早く投げろって煽れば向こうは勝手に自滅するんだ」


財前の作戦は、ルーガーのせっかちな性格を利用して、更にせっかちにさせようと打席で煽る事だ。


別に挑発しているワケでもないし、コッチも早く打ちたいとアピールすれば、ルーガーのせっかちさは拍車がかかる。


キャッチャー新垣が落ち着けとジェスチャーしても、頭に血が上ったルーガーには焼け石に水だ。


ロクにサイン交換もせず投げるものだから、フォアボールを連発して、ストライクを投げようと焦るものだから失投が多くなる。

スカイウォーカーズのバッターは失投を狙って打てばヒットになる。


この作戦で、ルーガーは3回でノックアウトとなった。


反対にマシンガンズの攻撃では、片山がゆっくりと時間を掛けて投げる。

1球毎にロジンバッグを手にし、サインは何度も首を振る。

序盤に点を取られたせいで、早く反撃しなきゃと攻撃陣は焦る。

焦れば焦る程、思うツボとなる。



この作戦でスカイウォーカーズは序盤で勝負を決めた。


終わってみれば、11対0というワンサイドゲームでスカイウォーカーズが圧勝した。


唐澤の3安打2打点の猛打賞、森高はスリーランを打ち、財前は走者一掃の3点タイムリーツーベースを打つ。

そして結城は4安打3打点の活躍を見せた。


「こんな勝ち方ってあるんだ…」


櫻井は試合前にルーガーのスライダーは捨てろと指示したが、そんな事せずに優位に立つ方法を考えた財前の作戦に驚くばかりだった。
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