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櫻井は掲示板を見終わると中田の部屋に向い、翌日の試合を欠場する旨を伝えた。
「何ィ、試合休むって…何処行くんだよ?」
「ちょっとこの目で確かめたいんです。
藤村という選手がウチに必要かどうか」
「たかが育成選手の為に試合を休むのかよ?ウチはそんな呑気な事やってる場合じゃないんだぞ!」
そりゃ誰だって驚く。
監督が試合を観る為に試合を休むなんて絶対に有り得ない。
「采配は中田さんに任せますし、全責任はボクが負います。ですから、どうかお願いします!」
「そんな事言ったって、お前…」
「交流戦までには戻ってきますから、どうかそれまでの采配をお願いします!」
こうと決めたら、何がなんでも実行するのが櫻井だ。
「ヒロト…お前、段々アイツ(榊)に似てきたな」
「優勝を諦めたワケじゃないんです、むしろ優勝する為に試合を観に行くんです」
「その藤村ってのがホントに使えそうならいいけど、観に行ってダメだったらどうすんだよ?」
「いえ、ダメという事はありません。この選手は必ずウチの主力選手になります」
その目に迷いは無い。
「…わかったよ、お前の好きにすればいいじゃん!」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げると、自分の部屋にもどって荷物をまとめた。
ウォーリアーズの二軍は明日キングダムと下町にある二軍球場で試合を行う。
櫻井はホテルをチェックアウトし、東京へ向かった。
翌日、櫻井は球場のバックネット裏で観戦した。
キングダムの二軍球場は一軍が使用する東京ボールパークと違い、今時手書きのスコアボードという、老朽化の激しい人工芝の屋外球場だ。
差別化をはかるために敢えて粗末な球場にしている。
「高校生だって予選ではもう少しマシな球場でプレーするのに、これはヒドイ…」
それだけ一軍と二軍は雲泥の差だという事を思い知らせる為だ。
櫻井が注目する藤村は2番レフトでスタメン出場する。
「さぁ、どんなバッティングをするのやら…動画だけでは分からないしな」
試合が始まり、先頭バッターがあえなくサードゴロに倒れ、藤村が右打席に入った。
【2番レフト 藤村。背番号126】
公式プロフィールでは181cm 83kgとなっているが、肩幅が広く均整のとれた身体付きだ。
「身体能力が高そうに見えるけど、実際はどうなんだろうか」
櫻井の視線を背中に受け、バットを目いっぱい長く持って前傾姿勢で構える。
「何故、前傾姿勢なのか?もう少し背筋を真っ直ぐにした方がいいと思うんだが」
前屈みでバットを垂直に立てている。
キングダムのピッチャーが初球を投げた。
藤村は初球から積極的に振る。
カシッ、とチップした音が響き、打球は櫻井のいるバックネット裏のフェンスに当たった。
ガシャーン、という音と共にフェンスが揺れている。
「単打が多いのに、随分と大振りだな。あれじゃ長打はムリだ」
すると三塁側ウォーリアーズベンチからコーチの大きな声が響く。
「藤村ぁ、もっと脇を締めてコンパクトなスイングをしろと何べん言えば分かるんだ!」
すると藤村はベンチに向かって言い返す。
「うるせぇ、どんなスイングをしようがオレの勝手だろ!黙って見てろ、このヘボコーチ!」
コーチのアドバイスを無視するどころか、怒鳴り返す。
「うわぁ…こりゃ、手に負えないタイプだな。
何で、あんなに逆らうんだろうか」
櫻井はその点が気になった。
2球目は外に外れてボール。
「こっからじゃコースがよく見えないな…」
藤村の真後ろに座ってるせいか、球種やコースが分からない。
「場所を変えて見るか」
櫻井は一塁側スタンドに移動した。
ピッチャーが3球目を投げた。
この球も見送る。
「ボールツー!」
インハイのストレートだが、僅かに高かった。
「掲示板に書いてあった通り、選球眼は良さそうだな」
藤村はグリップを握り直し、また前傾でバットを構える。
「アレじゃヒットは打てない…いくら反発するとは言え、根気よくアドバイスすればいいものを」
ウォーリアーズの首脳陣に疑問を持つ。
4球目は低めに落ちる変化球、藤村はこれをアッパー気味のスイングですくい上げた。
「あのスイングは…」
打球はライトへグーンと伸びるが、右に切れてスタンドに入った。
「ファール!」
カウントはツーナッシングとなった。
「あれじゃ、アイスホッケーのシュートを打つスイングと全く同じだ」
藤村はグリップを持つ左右の手の隙間をかなり開けている。
アイスホッケーのクセが抜けきらないみたいだ。
するとまた、ベンチからコーチの怒鳴り声が響く。
「このバカタレが!何度言えば分かるんだ!そのスイングは止めろと言っただろ!」
しかし藤村も負けてない。
「うるせえって言ってんだろ!テメーのアドバイスなんざ、クソの役にも立たねえんだよ!
今度文句言ったら、このバットでテメーの頭かち割ってやるぞ!」
とことん強気だ。
「何てことを…でも、あそこまで反発するとは、何かあるんだろうか?」
何が原因であそこまで逆らうのか、櫻井は不思議でならない。
そして5球目、アウトコース高めのストレートを踏み込んでスイングした。
「打った!」
鋭い打球はライト線ギリギリに落ちた。
「フェア!」
藤村は物凄い速さでベースを駆け抜ける。
「速い!あっという間に一塁を回った!」
ライトがクッションボールを捕って二塁へ送球。
だが藤村は二塁を蹴って三塁へ向う。
「無謀だ!」
セカンドはボールを捕ると素早く三塁へ投げた。
藤村はトップスピードのままヘッドスライディング。
砂煙の中、サードが間一髪速くタッチした。
「アウト!」
藤村の暴走だったが、一歩間違えればセーフになってた程の速さだった。
「スゴい…バッティングは改善の余地はあるけど、選球眼と足の速さは一級品だ」
磨けば光る逸材だと確信した。
「何ィ、試合休むって…何処行くんだよ?」
「ちょっとこの目で確かめたいんです。
藤村という選手がウチに必要かどうか」
「たかが育成選手の為に試合を休むのかよ?ウチはそんな呑気な事やってる場合じゃないんだぞ!」
そりゃ誰だって驚く。
監督が試合を観る為に試合を休むなんて絶対に有り得ない。
「采配は中田さんに任せますし、全責任はボクが負います。ですから、どうかお願いします!」
「そんな事言ったって、お前…」
「交流戦までには戻ってきますから、どうかそれまでの采配をお願いします!」
こうと決めたら、何がなんでも実行するのが櫻井だ。
「ヒロト…お前、段々アイツ(榊)に似てきたな」
「優勝を諦めたワケじゃないんです、むしろ優勝する為に試合を観に行くんです」
「その藤村ってのがホントに使えそうならいいけど、観に行ってダメだったらどうすんだよ?」
「いえ、ダメという事はありません。この選手は必ずウチの主力選手になります」
その目に迷いは無い。
「…わかったよ、お前の好きにすればいいじゃん!」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げると、自分の部屋にもどって荷物をまとめた。
ウォーリアーズの二軍は明日キングダムと下町にある二軍球場で試合を行う。
櫻井はホテルをチェックアウトし、東京へ向かった。
翌日、櫻井は球場のバックネット裏で観戦した。
キングダムの二軍球場は一軍が使用する東京ボールパークと違い、今時手書きのスコアボードという、老朽化の激しい人工芝の屋外球場だ。
差別化をはかるために敢えて粗末な球場にしている。
「高校生だって予選ではもう少しマシな球場でプレーするのに、これはヒドイ…」
それだけ一軍と二軍は雲泥の差だという事を思い知らせる為だ。
櫻井が注目する藤村は2番レフトでスタメン出場する。
「さぁ、どんなバッティングをするのやら…動画だけでは分からないしな」
試合が始まり、先頭バッターがあえなくサードゴロに倒れ、藤村が右打席に入った。
【2番レフト 藤村。背番号126】
公式プロフィールでは181cm 83kgとなっているが、肩幅が広く均整のとれた身体付きだ。
「身体能力が高そうに見えるけど、実際はどうなんだろうか」
櫻井の視線を背中に受け、バットを目いっぱい長く持って前傾姿勢で構える。
「何故、前傾姿勢なのか?もう少し背筋を真っ直ぐにした方がいいと思うんだが」
前屈みでバットを垂直に立てている。
キングダムのピッチャーが初球を投げた。
藤村は初球から積極的に振る。
カシッ、とチップした音が響き、打球は櫻井のいるバックネット裏のフェンスに当たった。
ガシャーン、という音と共にフェンスが揺れている。
「単打が多いのに、随分と大振りだな。あれじゃ長打はムリだ」
すると三塁側ウォーリアーズベンチからコーチの大きな声が響く。
「藤村ぁ、もっと脇を締めてコンパクトなスイングをしろと何べん言えば分かるんだ!」
すると藤村はベンチに向かって言い返す。
「うるせぇ、どんなスイングをしようがオレの勝手だろ!黙って見てろ、このヘボコーチ!」
コーチのアドバイスを無視するどころか、怒鳴り返す。
「うわぁ…こりゃ、手に負えないタイプだな。
何で、あんなに逆らうんだろうか」
櫻井はその点が気になった。
2球目は外に外れてボール。
「こっからじゃコースがよく見えないな…」
藤村の真後ろに座ってるせいか、球種やコースが分からない。
「場所を変えて見るか」
櫻井は一塁側スタンドに移動した。
ピッチャーが3球目を投げた。
この球も見送る。
「ボールツー!」
インハイのストレートだが、僅かに高かった。
「掲示板に書いてあった通り、選球眼は良さそうだな」
藤村はグリップを握り直し、また前傾でバットを構える。
「アレじゃヒットは打てない…いくら反発するとは言え、根気よくアドバイスすればいいものを」
ウォーリアーズの首脳陣に疑問を持つ。
4球目は低めに落ちる変化球、藤村はこれをアッパー気味のスイングですくい上げた。
「あのスイングは…」
打球はライトへグーンと伸びるが、右に切れてスタンドに入った。
「ファール!」
カウントはツーナッシングとなった。
「あれじゃ、アイスホッケーのシュートを打つスイングと全く同じだ」
藤村はグリップを持つ左右の手の隙間をかなり開けている。
アイスホッケーのクセが抜けきらないみたいだ。
するとまた、ベンチからコーチの怒鳴り声が響く。
「このバカタレが!何度言えば分かるんだ!そのスイングは止めろと言っただろ!」
しかし藤村も負けてない。
「うるせえって言ってんだろ!テメーのアドバイスなんざ、クソの役にも立たねえんだよ!
今度文句言ったら、このバットでテメーの頭かち割ってやるぞ!」
とことん強気だ。
「何てことを…でも、あそこまで反発するとは、何かあるんだろうか?」
何が原因であそこまで逆らうのか、櫻井は不思議でならない。
そして5球目、アウトコース高めのストレートを踏み込んでスイングした。
「打った!」
鋭い打球はライト線ギリギリに落ちた。
「フェア!」
藤村は物凄い速さでベースを駆け抜ける。
「速い!あっという間に一塁を回った!」
ライトがクッションボールを捕って二塁へ送球。
だが藤村は二塁を蹴って三塁へ向う。
「無謀だ!」
セカンドはボールを捕ると素早く三塁へ投げた。
藤村はトップスピードのままヘッドスライディング。
砂煙の中、サードが間一髪速くタッチした。
「アウト!」
藤村の暴走だったが、一歩間違えればセーフになってた程の速さだった。
「スゴい…バッティングは改善の余地はあるけど、選球眼と足の速さは一級品だ」
磨けば光る逸材だと確信した。
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