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後半戦突入
飲みニケーション その3
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今度は酒豪揃いの席に移動した。
そのテーブルには、筧、毒島、保坂、森高といった面々がジョッキを次々と空にしている。
「よぉ~っ、飲んでるかぁ?」
「ハイ、ご馳走になってます」
「ここの肉はサイコーですね!」
「財前さん、ありがとうございます!」
「まだまだ飲めますよ」
四人はケロッとして、更にビールを追加する。
「スゲーな!お前ら、一体何杯目だ?」
さすがの財前も四人の飲みっぷりに舌を巻く。
「えーっと、確か7杯目かな…」
筧はチーム1の小柄だが、大食漢でもあり、一番の酒豪だ。
どんなに飲んでも、二日酔いになった事は無いと言う。
とは言え、そこはプロ野球選手なので普段は節制を心掛けている。
「オレは6杯目だと思うんですが」
毒島も筧程では無いが、それでもかなりの量を飲む。
チーム1の飛距離を誇る昨年のホームラン王は、一気飲みで一升瓶をあっという間に空にしてしまう。
「自分は確か…同じく6杯ですかね」
正捕手の保坂も酒豪だ。
二軍時代、寮で誰が一番飲めるか飲み比べをして、周りが酔いつぶれてしまっても、一人でずっと飲んでいたという酒豪だ。
あまりにも飲みすぎる為、寮長から禁酒を言い渡された事もある。
「自分、これで8杯目です」
スーパールーキーの森高は一番多くジョッキを空けている。
プロ1年目の新人だが、大学時代はしょっちゅう居酒屋に通い、メニューに書かれてあるアルコール類を全て飲み干す程の酒量を誇る。
ひょっとしたら、筧よりも強いのではないかとの事。
「イイねぇ、やっぱプロ野球選手だったらこうでなきゃいけないよな」
財前もそこそこの量は飲むのだが、最近は量を控える。
30を越えて、無茶な飲み方をしなくなったという。
「でも…財前さん、ホントにいいんですか?」
「ん、何がだ?」
毒島が少し不安そうな表情を浮かべる。
「だって…こんなに大勢連れて飲んで食べてだと、一体いくらかかるのか?」
確かに10数名もの野球選手を連れて、高い肉をガンガン食べてガンガン飲めば会計はいくらになるのか。
下手すりゃ、3桁のお会計になる可能性も十分ありうる。
「支払いの事は気にするんじゃねぇって!
オレが好きでやってる事だからいいんだよ」
ガッハッハッと豪快に笑う。
「何か…財前さん、最初の頃と違って随分変わりましたよね」
筧がジョッキの中のビールを飲み干して言った。
「変わった、そうか?」
「えぇ、以前は誰とも接しないで一人で行動してたのに、今はこうやって皆を引き連れてメシに誘うんですから」
財前はヘヘッと笑って答えた。
「一人でメシ食ってもつまんねぇじゃん!
どうせ美味いモン食うなら、皆と一緒に食った方がもっと美味くなるだろ?」
「そうっすね…大勢で食うメシは美味いですよ」
「うん…確かにその通りだ」
「勿論、酒も美味いですよ」
他の三人も揃って同意する。
すると、結城が財前の隣に移動した。
「財前さん…今日は本当にありがとうございます」
深々と頭を下げた。
「いいんだよ、オレが勝手に皆を引き連れて来ただけなんだし」
「ボク、財前さんを誤解してました」
「誤解?」
「えぇ…財前さんは自分勝手でワガママな人物だって、勝手なイメージを作り上げてなるべく関わらないようにしてたんですが…本当に申し訳ありませんでした」
再度頭を下げた。
「そういや、お前とのタイマン勝負もまだ決着着けてなかったよな」
【エッ!!】
その瞬間、店内に緊張が走った。
(オイオイ、止めてくれよ…こんな所でリターンマッチなんて)
(酒の席で暴れたら、新聞にデカデカと載ってしまうじゃん!)
(ウソでしょ!ここでリターンマッチなんて!)
等々、選手は恐怖に慄く。
「ざ、財前さん…まさか、ここで決着をとか言うんじゃないでしょうね?」
「決着か…ならば、これで決着つけようじゃないか」
財前はテーブルにドンと右肘を置いた。
「これなら文句無いだろ?」
「腕相撲…」
「なる程、それなら安心して見られる」
「何なら、自分がジャッジしましょうか?」
腕相撲なら問題は無いと、選手は二人のテーブルに集まる。
「いや、財前さん…腕相撲はムリですよ」
「何でだよ、これなら何の問題も無いじゃん」
結城は困惑している。
「だって…財前さんは右利きで、ボクは左利きですし…どっちの腕で勝負すればいいんですか?」
「あっ…そうか」
野球でも財前は右投げに対し、結城は左投げだ。
利き手が違う者同士が腕相撲で決着を着けるのは困難だ。
「アッハッハッハッハッ!こりゃダメだ、決着着かねえゎ!」
財前が豪快に笑った。
「ハハハハハ、そうですね!」
つられて結城も笑う。
「ククク…」
「アハハハハハ」
「ワッハッハッハッ」
「アーッハッハッハッ」
周りの選手達もそれにつられて笑ってしまう。
いつしか店内は笑いに包まれた。
もう、勝負なんてどうでもいい。
誰が勝ったか負けたかなんて、そんな事をいちいち気にしない。
そんな事よりも、この瞬間スカイウォーカーズというチームが一つになった。
いがみ合うのはもう止めた。
連覇目指して、一丸となってペナントレースを戦い抜く。
その事で皆は一つになった。
宴もそろそろ終わりに近づいた。
結城が皆を代表して財前に感謝の意を述べた。
「財前さん…今日はご馳走様でした。
そして、本当にありがとうございます。
今日の事を忘れずに、優勝目指してこれからも頑張りましょう」
【ありがとうございます!】
結城の挨拶の後、選手達が揃って礼を言う。
「いいって、もう!」
財前は照れくさそうな表情で言う。
「財前さん…ウチのチームが連覇するには、99ersの存在が大きいですが、財前さんならばどうやって99ersを攻略しますか?」
結城の言葉に財前の表情が変わった。
キリッとした精悍な顔つきだ。
「あのチームというより…吉川だろ」
「吉川さん…ですか?」
「極論を言えば、吉川を潰せばウチが優勝する可能性が高くなるだろう」
99ersというチームよりも、吉川という選手がカギを握ると財前は分析する。
「吉川がいなくなった99ersなんか、ウチらの目じゃねぇ。だが、どうやってアイツを潰すか…
潰すと言っても、ヘタな事は出来ねえ…
とにかく、カギを握ってるのは吉川という事だ」
「吉川さんは選手としてだけではなく、野手総合コーチとしてヤマオカ監督のブレーン的存在でもある…確かに財前さんの言う通り、吉川さんが一番手強いと思います」
「はぁ~あ、まさかあの時の決着をペナントで着ける事になるのかよ」
「あの時って…財前さん、吉川さんと過去に面識があるのですか?」
どうやら財前と吉川は過去に何かあったみたいだ。
続編2 終わり
続編3に続く
そのテーブルには、筧、毒島、保坂、森高といった面々がジョッキを次々と空にしている。
「よぉ~っ、飲んでるかぁ?」
「ハイ、ご馳走になってます」
「ここの肉はサイコーですね!」
「財前さん、ありがとうございます!」
「まだまだ飲めますよ」
四人はケロッとして、更にビールを追加する。
「スゲーな!お前ら、一体何杯目だ?」
さすがの財前も四人の飲みっぷりに舌を巻く。
「えーっと、確か7杯目かな…」
筧はチーム1の小柄だが、大食漢でもあり、一番の酒豪だ。
どんなに飲んでも、二日酔いになった事は無いと言う。
とは言え、そこはプロ野球選手なので普段は節制を心掛けている。
「オレは6杯目だと思うんですが」
毒島も筧程では無いが、それでもかなりの量を飲む。
チーム1の飛距離を誇る昨年のホームラン王は、一気飲みで一升瓶をあっという間に空にしてしまう。
「自分は確か…同じく6杯ですかね」
正捕手の保坂も酒豪だ。
二軍時代、寮で誰が一番飲めるか飲み比べをして、周りが酔いつぶれてしまっても、一人でずっと飲んでいたという酒豪だ。
あまりにも飲みすぎる為、寮長から禁酒を言い渡された事もある。
「自分、これで8杯目です」
スーパールーキーの森高は一番多くジョッキを空けている。
プロ1年目の新人だが、大学時代はしょっちゅう居酒屋に通い、メニューに書かれてあるアルコール類を全て飲み干す程の酒量を誇る。
ひょっとしたら、筧よりも強いのではないかとの事。
「イイねぇ、やっぱプロ野球選手だったらこうでなきゃいけないよな」
財前もそこそこの量は飲むのだが、最近は量を控える。
30を越えて、無茶な飲み方をしなくなったという。
「でも…財前さん、ホントにいいんですか?」
「ん、何がだ?」
毒島が少し不安そうな表情を浮かべる。
「だって…こんなに大勢連れて飲んで食べてだと、一体いくらかかるのか?」
確かに10数名もの野球選手を連れて、高い肉をガンガン食べてガンガン飲めば会計はいくらになるのか。
下手すりゃ、3桁のお会計になる可能性も十分ありうる。
「支払いの事は気にするんじゃねぇって!
オレが好きでやってる事だからいいんだよ」
ガッハッハッと豪快に笑う。
「何か…財前さん、最初の頃と違って随分変わりましたよね」
筧がジョッキの中のビールを飲み干して言った。
「変わった、そうか?」
「えぇ、以前は誰とも接しないで一人で行動してたのに、今はこうやって皆を引き連れてメシに誘うんですから」
財前はヘヘッと笑って答えた。
「一人でメシ食ってもつまんねぇじゃん!
どうせ美味いモン食うなら、皆と一緒に食った方がもっと美味くなるだろ?」
「そうっすね…大勢で食うメシは美味いですよ」
「うん…確かにその通りだ」
「勿論、酒も美味いですよ」
他の三人も揃って同意する。
すると、結城が財前の隣に移動した。
「財前さん…今日は本当にありがとうございます」
深々と頭を下げた。
「いいんだよ、オレが勝手に皆を引き連れて来ただけなんだし」
「ボク、財前さんを誤解してました」
「誤解?」
「えぇ…財前さんは自分勝手でワガママな人物だって、勝手なイメージを作り上げてなるべく関わらないようにしてたんですが…本当に申し訳ありませんでした」
再度頭を下げた。
「そういや、お前とのタイマン勝負もまだ決着着けてなかったよな」
【エッ!!】
その瞬間、店内に緊張が走った。
(オイオイ、止めてくれよ…こんな所でリターンマッチなんて)
(酒の席で暴れたら、新聞にデカデカと載ってしまうじゃん!)
(ウソでしょ!ここでリターンマッチなんて!)
等々、選手は恐怖に慄く。
「ざ、財前さん…まさか、ここで決着をとか言うんじゃないでしょうね?」
「決着か…ならば、これで決着つけようじゃないか」
財前はテーブルにドンと右肘を置いた。
「これなら文句無いだろ?」
「腕相撲…」
「なる程、それなら安心して見られる」
「何なら、自分がジャッジしましょうか?」
腕相撲なら問題は無いと、選手は二人のテーブルに集まる。
「いや、財前さん…腕相撲はムリですよ」
「何でだよ、これなら何の問題も無いじゃん」
結城は困惑している。
「だって…財前さんは右利きで、ボクは左利きですし…どっちの腕で勝負すればいいんですか?」
「あっ…そうか」
野球でも財前は右投げに対し、結城は左投げだ。
利き手が違う者同士が腕相撲で決着を着けるのは困難だ。
「アッハッハッハッハッ!こりゃダメだ、決着着かねえゎ!」
財前が豪快に笑った。
「ハハハハハ、そうですね!」
つられて結城も笑う。
「ククク…」
「アハハハハハ」
「ワッハッハッハッ」
「アーッハッハッハッ」
周りの選手達もそれにつられて笑ってしまう。
いつしか店内は笑いに包まれた。
もう、勝負なんてどうでもいい。
誰が勝ったか負けたかなんて、そんな事をいちいち気にしない。
そんな事よりも、この瞬間スカイウォーカーズというチームが一つになった。
いがみ合うのはもう止めた。
連覇目指して、一丸となってペナントレースを戦い抜く。
その事で皆は一つになった。
宴もそろそろ終わりに近づいた。
結城が皆を代表して財前に感謝の意を述べた。
「財前さん…今日はご馳走様でした。
そして、本当にありがとうございます。
今日の事を忘れずに、優勝目指してこれからも頑張りましょう」
【ありがとうございます!】
結城の挨拶の後、選手達が揃って礼を言う。
「いいって、もう!」
財前は照れくさそうな表情で言う。
「財前さん…ウチのチームが連覇するには、99ersの存在が大きいですが、財前さんならばどうやって99ersを攻略しますか?」
結城の言葉に財前の表情が変わった。
キリッとした精悍な顔つきだ。
「あのチームというより…吉川だろ」
「吉川さん…ですか?」
「極論を言えば、吉川を潰せばウチが優勝する可能性が高くなるだろう」
99ersというチームよりも、吉川という選手がカギを握ると財前は分析する。
「吉川がいなくなった99ersなんか、ウチらの目じゃねぇ。だが、どうやってアイツを潰すか…
潰すと言っても、ヘタな事は出来ねえ…
とにかく、カギを握ってるのは吉川という事だ」
「吉川さんは選手としてだけではなく、野手総合コーチとしてヤマオカ監督のブレーン的存在でもある…確かに財前さんの言う通り、吉川さんが一番手強いと思います」
「はぁ~あ、まさかあの時の決着をペナントで着ける事になるのかよ」
「あの時って…財前さん、吉川さんと過去に面識があるのですか?」
どうやら財前と吉川は過去に何かあったみたいだ。
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