上 下
61 / 62
後半戦突入

飲みニケーション その2

しおりを挟む
財前は席を変えた。


今度は鬼束達のいる席に座る。


そこは飲めない連中がソフトドリンクを飲みながら、バツの悪そうな表情で座っている。


「何だ、何だ!暗いな、お前ら!」


そこに財前が加わると、ややこしい事になる。


「いやぁ…何て言うか、飲めない我々は場違いなんじゃないかなぁって…」


鬼束は申し訳なさそうな表情で答える。


「何だ、そんな細かいこと気にしてるのかよ!飲めないヤツに飲めと言ったって、飲めるワケないだろ!いいんだよ、そんな事気にしなくても」


「そう言ってもらえると、少しホッとします」


スーパーサブの来栖も鬼束同様、一滴も飲めない。


「だったら食え!食って食って、食いまくれ、な!」


財前は古き良き時代の、豪快な野球選手を彷彿させる。


「じゃあ、いただきます」


「オレ、上ロース頼んでいいすか?」


「おぅ、ドンドン食え!イザと言う時は、お前らがチームを支えなきゃならないんだぞ!
それには、この夏を乗り切る為にドンドン食ってスタミナ付けろ!」


石川とJINも下戸だ。


若い二人はとにかく食いまくる。


「ところで、どうだ調子は?」


韓国焼酎から日本酒に切り替え、財前はホロ酔い気分で鬼束に話しかける。


「それが6番になった途端、以前の様に好調なんですよ!自分は打順にはこだわらないんですけど、何ていうんだろう…肩の荷が下りた様な気分でリラックスして打てるんですよ」


6番という打順を気に入ってるみたいだ。


「ココだけの話だけどな…お前、キャプテンの事が怖いんだろ?」


財前が声を潜め、隣の鬼束にボソッと聞いた。


「エッ…何故、それを?」


図星だった。


「アイツが3番打って、お前が4番だとプレッシャーでガチガチになるだろ?
アイツがせっかくチャンスを広げたのに、打てなかったらどうしよう、とか考えながら打席に立ってたんだろ?」


「ど、どうしてそれをっ?」


鬼束の顔が引きつる。


まるで幽霊でも見たかの様に。



「見える人には見えるんだよ…
確かに成績だけ見れば、アイツよりもお前の方を4番に置きたがるけどな…でも、数字だけでは分からないモンがあるんだよ」


全てお見通しだった。



「あの…なんて言うか、結城さんが悪いんじゃないんです…結城さんの事を尊敬してますし、凄い選手だと思ってます。
でも、自分には相手投手よりも、結城さんの存在が恐ろしいんです」


財前は無言でグラスを傾けた。


「アイツが元ヤンだから怖いのか?」


「それもありますけど、それだけじゃない何かがあると思うんですが…それが何なのか分からないんです」


正直に今の心境を吐露する。


「傍から見れば、何言ってんだって言われるだろうが、本人じゃなきゃ分からない事ってのはあるんだ…
アイツとチームメイトになったのは、ある意味不幸な事なのかもしれないなぁ」


「そんな事は思ってませんが、結城さんを差し置いて4番だなんて、畏れ多くて…」


とにかく、どの選手よりも結城という存在が一番怖いという事らしい。


「ハッハッハッハ、苦手なモンは誰にでもあるんだ。
お前が6番で良い成績を残してるんなら、それはそれでいいじゃねぇか。
そんなオレも、3番以外の打順では全くダメだしなぁ」


財前は3番以外の打順ではサッパリ打てない。


本人も、何が原因なのか全く分からないと言う。


「財前さん、どうして3番がいいんですか?」


「どうしてって…そりゃ、一番好きな数字が3だからだよ」


「へっ…それだけですか?」


「そうだよ、それだけだよ」


アッケラカンと言ってのける。



「ハッ…ハハハハハ、それだけであんな成績を挙げられるんですか?
スゲー…スゴいっすよ、財前さん!」


「なら、お前は6番で過去最高の成績を挙げればいいんじゃん」


「過去最高…すか?」


「個人成績に固執するのは、チームスポーツとしてどうかと思うんだが、時には個人成績も必要なんだぜ」


「アハハハ、そうっすよね?そうに決まってますよね?何だ、そうか…そうだったのか。
財前さん、ありがとうございます…
今の言葉で吹っ切れました…
オレ、6番でチームの為に貢献出来るような選手になります!」


鬼束の表情は晴れやかに変わった。


「期待してるぜ、主砲!」


鬼束の背中をバンと叩き、財前は再び席を移動した。


ホストの様に、財前は各テーブルを忙しく回った。


まだまだ宴は続く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...