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後半戦突入
飲みニケーション その2
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財前は席を変えた。
今度は鬼束達のいる席に座る。
そこは飲めない連中がソフトドリンクを飲みながら、バツの悪そうな表情で座っている。
「何だ、何だ!暗いな、お前ら!」
そこに財前が加わると、ややこしい事になる。
「いやぁ…何て言うか、飲めない我々は場違いなんじゃないかなぁって…」
鬼束は申し訳なさそうな表情で答える。
「何だ、そんな細かいこと気にしてるのかよ!飲めないヤツに飲めと言ったって、飲めるワケないだろ!いいんだよ、そんな事気にしなくても」
「そう言ってもらえると、少しホッとします」
スーパーサブの来栖も鬼束同様、一滴も飲めない。
「だったら食え!食って食って、食いまくれ、な!」
財前は古き良き時代の、豪快な野球選手を彷彿させる。
「じゃあ、いただきます」
「オレ、上ロース頼んでいいすか?」
「おぅ、ドンドン食え!イザと言う時は、お前らがチームを支えなきゃならないんだぞ!
それには、この夏を乗り切る為にドンドン食ってスタミナ付けろ!」
石川とJINも下戸だ。
若い二人はとにかく食いまくる。
「ところで、どうだ調子は?」
韓国焼酎から日本酒に切り替え、財前はホロ酔い気分で鬼束に話しかける。
「それが6番になった途端、以前の様に好調なんですよ!自分は打順にはこだわらないんですけど、何ていうんだろう…肩の荷が下りた様な気分でリラックスして打てるんですよ」
6番という打順を気に入ってるみたいだ。
「ココだけの話だけどな…お前、キャプテンの事が怖いんだろ?」
財前が声を潜め、隣の鬼束にボソッと聞いた。
「エッ…何故、それを?」
図星だった。
「アイツが3番打って、お前が4番だとプレッシャーでガチガチになるだろ?
アイツがせっかくチャンスを広げたのに、打てなかったらどうしよう、とか考えながら打席に立ってたんだろ?」
「ど、どうしてそれをっ?」
鬼束の顔が引きつる。
まるで幽霊でも見たかの様に。
「見える人には見えるんだよ…
確かに成績だけ見れば、アイツよりもお前の方を4番に置きたがるけどな…でも、数字だけでは分からないモンがあるんだよ」
全てお見通しだった。
「あの…なんて言うか、結城さんが悪いんじゃないんです…結城さんの事を尊敬してますし、凄い選手だと思ってます。
でも、自分には相手投手よりも、結城さんの存在が恐ろしいんです」
財前は無言でグラスを傾けた。
「アイツが元ヤンだから怖いのか?」
「それもありますけど、それだけじゃない何かがあると思うんですが…それが何なのか分からないんです」
正直に今の心境を吐露する。
「傍から見れば、何言ってんだって言われるだろうが、本人じゃなきゃ分からない事ってのはあるんだ…
アイツとチームメイトになったのは、ある意味不幸な事なのかもしれないなぁ」
「そんな事は思ってませんが、結城さんを差し置いて4番だなんて、畏れ多くて…」
とにかく、どの選手よりも結城という存在が一番怖いという事らしい。
「ハッハッハッハ、苦手なモンは誰にでもあるんだ。
お前が6番で良い成績を残してるんなら、それはそれでいいじゃねぇか。
そんなオレも、3番以外の打順では全くダメだしなぁ」
財前は3番以外の打順ではサッパリ打てない。
本人も、何が原因なのか全く分からないと言う。
「財前さん、どうして3番がいいんですか?」
「どうしてって…そりゃ、一番好きな数字が3だからだよ」
「へっ…それだけですか?」
「そうだよ、それだけだよ」
アッケラカンと言ってのける。
「ハッ…ハハハハハ、それだけであんな成績を挙げられるんですか?
スゲー…スゴいっすよ、財前さん!」
「なら、お前は6番で過去最高の成績を挙げればいいんじゃん」
「過去最高…すか?」
「個人成績に固執するのは、チームスポーツとしてどうかと思うんだが、時には個人成績も必要なんだぜ」
「アハハハ、そうっすよね?そうに決まってますよね?何だ、そうか…そうだったのか。
財前さん、ありがとうございます…
今の言葉で吹っ切れました…
オレ、6番でチームの為に貢献出来るような選手になります!」
鬼束の表情は晴れやかに変わった。
「期待してるぜ、主砲!」
鬼束の背中をバンと叩き、財前は再び席を移動した。
ホストの様に、財前は各テーブルを忙しく回った。
まだまだ宴は続く。
今度は鬼束達のいる席に座る。
そこは飲めない連中がソフトドリンクを飲みながら、バツの悪そうな表情で座っている。
「何だ、何だ!暗いな、お前ら!」
そこに財前が加わると、ややこしい事になる。
「いやぁ…何て言うか、飲めない我々は場違いなんじゃないかなぁって…」
鬼束は申し訳なさそうな表情で答える。
「何だ、そんな細かいこと気にしてるのかよ!飲めないヤツに飲めと言ったって、飲めるワケないだろ!いいんだよ、そんな事気にしなくても」
「そう言ってもらえると、少しホッとします」
スーパーサブの来栖も鬼束同様、一滴も飲めない。
「だったら食え!食って食って、食いまくれ、な!」
財前は古き良き時代の、豪快な野球選手を彷彿させる。
「じゃあ、いただきます」
「オレ、上ロース頼んでいいすか?」
「おぅ、ドンドン食え!イザと言う時は、お前らがチームを支えなきゃならないんだぞ!
それには、この夏を乗り切る為にドンドン食ってスタミナ付けろ!」
石川とJINも下戸だ。
若い二人はとにかく食いまくる。
「ところで、どうだ調子は?」
韓国焼酎から日本酒に切り替え、財前はホロ酔い気分で鬼束に話しかける。
「それが6番になった途端、以前の様に好調なんですよ!自分は打順にはこだわらないんですけど、何ていうんだろう…肩の荷が下りた様な気分でリラックスして打てるんですよ」
6番という打順を気に入ってるみたいだ。
「ココだけの話だけどな…お前、キャプテンの事が怖いんだろ?」
財前が声を潜め、隣の鬼束にボソッと聞いた。
「エッ…何故、それを?」
図星だった。
「アイツが3番打って、お前が4番だとプレッシャーでガチガチになるだろ?
アイツがせっかくチャンスを広げたのに、打てなかったらどうしよう、とか考えながら打席に立ってたんだろ?」
「ど、どうしてそれをっ?」
鬼束の顔が引きつる。
まるで幽霊でも見たかの様に。
「見える人には見えるんだよ…
確かに成績だけ見れば、アイツよりもお前の方を4番に置きたがるけどな…でも、数字だけでは分からないモンがあるんだよ」
全てお見通しだった。
「あの…なんて言うか、結城さんが悪いんじゃないんです…結城さんの事を尊敬してますし、凄い選手だと思ってます。
でも、自分には相手投手よりも、結城さんの存在が恐ろしいんです」
財前は無言でグラスを傾けた。
「アイツが元ヤンだから怖いのか?」
「それもありますけど、それだけじゃない何かがあると思うんですが…それが何なのか分からないんです」
正直に今の心境を吐露する。
「傍から見れば、何言ってんだって言われるだろうが、本人じゃなきゃ分からない事ってのはあるんだ…
アイツとチームメイトになったのは、ある意味不幸な事なのかもしれないなぁ」
「そんな事は思ってませんが、結城さんを差し置いて4番だなんて、畏れ多くて…」
とにかく、どの選手よりも結城という存在が一番怖いという事らしい。
「ハッハッハッハ、苦手なモンは誰にでもあるんだ。
お前が6番で良い成績を残してるんなら、それはそれでいいじゃねぇか。
そんなオレも、3番以外の打順では全くダメだしなぁ」
財前は3番以外の打順ではサッパリ打てない。
本人も、何が原因なのか全く分からないと言う。
「財前さん、どうして3番がいいんですか?」
「どうしてって…そりゃ、一番好きな数字が3だからだよ」
「へっ…それだけですか?」
「そうだよ、それだけだよ」
アッケラカンと言ってのける。
「ハッ…ハハハハハ、それだけであんな成績を挙げられるんですか?
スゲー…スゴいっすよ、財前さん!」
「なら、お前は6番で過去最高の成績を挙げればいいんじゃん」
「過去最高…すか?」
「個人成績に固執するのは、チームスポーツとしてどうかと思うんだが、時には個人成績も必要なんだぜ」
「アハハハ、そうっすよね?そうに決まってますよね?何だ、そうか…そうだったのか。
財前さん、ありがとうございます…
今の言葉で吹っ切れました…
オレ、6番でチームの為に貢献出来るような選手になります!」
鬼束の表情は晴れやかに変わった。
「期待してるぜ、主砲!」
鬼束の背中をバンと叩き、財前は再び席を移動した。
ホストの様に、財前は各テーブルを忙しく回った。
まだまだ宴は続く。
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