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オールスター前

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結城対財前の勝負は引き分けに終わり、両者共にダメージが酷い為、翌日キングダムとの試合はスタメンにファーストJIN、センター唐澤、ライト森高、レフト来栖というメンバーで挑むも、ポイントゲッターの二人を欠いた状態で勝てるハズも無く、3対1で四連敗を喫した。


「なぁ~にやってんだ、あの二人はっ!!」


榊が珍しく激怒していた。


選手間のわだかまりはバトルで決着をつけるのがモットーの榊だが、試合に影響する程のダメージを負うとなると、話は別だ。


試合後、榊は結城と財前を監督室に呼んだ。


「お前ら、何やってんだ一体!」


二人は代打で登場したが、好機に凡退。


しかも顔は腫れ上がり、絆創膏を貼っている。


「ボクの責任です…」


結城が深々と頭を下げた。


「原因は何だ?」


「何もねぇよ、ちょっとしたイザコザだよ」


財前は悪びれる様子も無く、ぶっきらぼうに答える。


「そのイザコザが問題なんだよ!どんなイザコザで大喧嘩したんだ」


「それは…その」


結城が口篭る。


「オレがロッカールームでコイツら打てねえから、二軍に落ちろって言ったのが気に食わないって、コイツが皆を代表してタイマン勝負仕掛けたんだよ」


「結城、本当か?」


「はい…面目ありません…」


「ほぉ~、結城相手に財前もよくやったな」


「まさか、こんなにケンカが強いとは思わなかったよ」


もうコリゴリだ、と言わんばかりの表情だ。


「で、どっちが勝ったんだ?」


一応勝敗を聞いてみる。


「それが…」


「何だ、どうなったんだ?」


「気がついたら、二人ともぶっ倒れてどっちが勝ったのか分からねえんだよ」


「両者KOってか…」


「重ね重ね、ボクの不徳の致すところです」


結城が再度頭を下げた。


「それで、お前らのわだかまりは解けたのか?」


「わだかまりっつーか…」


財前が話を切り出す。


「つーか…何だ?」


「カントクさんよぉ、試しにコイツを4番に使ってやってくんないかな?」


「結城を4番に?」


財前が提案する。


「オゥ、確かにコイツは長打よりもヒットを量産するタイプだけど、チャンスには滅法強いぜ!
今の4番でも悪くは無いんだが…得点圏打率は低いんじゃねぇのか?」


財前は独自に分析していた。


4番の鬼束は現在、打率0.307 本塁打16 打点57

決して悪くは無いのだが、得点圏打率となると、0.241と低い。


その点、結城は現在、打率0.270 本塁打6 打点47

安打製造機と謳われる結城にしては低い成績だが、得点圏打率は0.431と高い。


長打が少ないと言われているが、その気になれば年間35~40本のホームランを打てる程の長打力を秘めている。


「結城を4番にしたら、鬼束は何番を打てばいいんだよ?」


「そんなもん、カンタンな事じゃん!アイツは6番を打てばいいんだよ」



「ろ、6番?」


「いくら何でも、鬼束くんを6番になんて…」


財前は二人に説明した。


「いいか、ウチの4番は確かに長打力もあるし、打率も残せるバッティングが出来る。
けどな、コイツがいる限り、ウチの4番は能力を発揮出来ないんだよ」


「な、何故ボクが原因だと…」


「話が見えてこねぇな」


「だからさ…」


財前は話を続けた。


「ウチの看板選手って、一体誰だって事になるんだよ」


看板選手…そう言えば、スカイウォーカーズの顔とも言えるべき選手は誰なのか?


真っ先に思いつくのは、生え抜きで天才と呼ばれる唐澤なのだろうが、結城や鬼束を差し置いて看板選手と呼ぶにはまだ早い気がする。


「そういや、ウチの看板選手って誰になるんだろうかな?」


「それは、唐澤くんや鬼束くんなのでは?」


「オメーだよ!」


財前が結城を指した。


「エッ、ボク?だって、ボクは元々はよそ者だし、フツー看板選手と言えば生え抜きの選手を指すのでは?」


「テメー、キャプテンやって年俸8億貰っておまけにMVPにもなってるだろ!お前がスカイウォーカーズの看板選手なんだよ!」


結城は日本球界初の8億円プレイヤーでもあり、昨年は首位打者、打点王、盗塁王の変則三冠王でおまけにMVPも獲得した。


「ウチの4番様は、コイツに気後れしてるんだよ!」


「何ぃ~?」


「ウ、ウソだ」


「ウソじゃねぇよ。今まではアポロリーグで別々のチームで切磋琢磨していたんだろうけど、同じチームになって、アイツはお前に遠慮してんだよ!」


「その話、ホントか?」


「だったら、直接本人に確かめればいいと思うぜ」


「それが本当だとしたら…ボクが鬼束くんに直接言います」


「それは止めた方がいい」


財前が止める。


「何故、ボクが言った方がいいと思うんですが…」


「だからさぁ、アイツはお前の事怖がってるんだよ」


「ホントか?」


「ボクを怖がってる…?」


普段の鬼束は典型的な草食系男子で、元ヤンの結城を尊敬していると同時に恐れている。


チャンスに凡退したら、結城に何を言われるんだろう。

とか、4番なのにここで凡退したら、後で結城に怒られるかもしれない。

というビクビクした思いで打席に立っていた。


つまり、鬼束は相手投手よりも、チームメイトの結城の目を気にしすぎて空回りする事が多い。


「鬼束くんが…そんな事を」


結城は気が付かなかった。


「そう言えば…」


榊が思い出したかの様に口を開く。


「結城に話し掛けられると、どういうワケか直立不動になってるよな、鬼束って」


「そういう事!いいか、キャプテン!
オメーとアイツは、言わば水と油なんだよ。
いや、違うな…ネコとネズミ。
いや、ヘビとカエルみたいな関係なんだよ」


「つまり、ボクがヘビで鬼束くんがカエルという事ですか?」


「ようやく理解したかよ。
アイツはお前の無言のプレッシャーの前で怯えてるんだよ」


「セカンド守って、4番打ってるんだから、その重圧もハンパないかもな」


「カントクさんよぉ、明日から4番をコイツで、アイツは6番を打たせた方が打線は繋がるハズだぜ」


榊は目を閉じ、腕組みをして考えた。


(コイツはバッティングセンスも然ることながら、卓越した洞察力を持ってる。
ものは試しに一度くらいやってみるのもいいか)


「ヨシ!財前、お前の言う通り明日はその打順でやってみよう」


「エッ、監督!いくら何でも、ボクが4番って…」


「これで決まりだ!多分明日は大勝ちするぜ」


財前の予言通り、翌日4番に結城、6番鬼束の打順に替えた途端、鬼束は打ちまくり、何とサイクルヒットを記録した。


試合は鬼束の大活躍で1対13の大量得点で勝利した。
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