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トレード

その名は鴻池!

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他球団の投手をくまなく探した。

一軍だけではなく、二軍はたまた育成の選手まで。


そこで高峰の目に止まったのは、大阪ドルフィンズの選手で、プロ7年目の右腕、鴻池 悠(こうのいけゆう)


「あ、このピッチャーはどうです?」


「どれどれ…何て読むんだ、この字?」


「監督、これは【こうのいけ】って読むんですよ」


漢字もロクに読めないとは…


「こうのいけ?ほぉほぉ、こうのいけか。
で、このこうのいけってどこまでが名字なんだ?」


「へ?」


「いや、だからこうのいけってどこが名字で、どこからが下の名前なんだ?」


高峰は一瞬何の事だか分からず、首を傾げていた。


「だから、こうのいけっていうんだろコイツ?
どこまでが名字なんだよ」


「あの…鴻池悠を【こうのいけ】と読むもんだと思ってました?」


「違うのかよ?」


「あぁ…」

目眩を感じた。


「違いますよ、フルネームはこうのいけゆうです!
名字はこうのいけですよ」


「何だよ、お前がこういけって言うから、鴻池悠をこうのいけと読むもんだと思ったじゃないか!」


ハッキリ言おう…コイツ、スゲーバカだ!


「そんなワケないでしょう…この鴻池ってピッチャーは去年ケガで試合には出てませんが、今年はローテーション三番手として既に三試合投げて2勝挙げてますよ」


「ちょっと見せてくれ。
…鴻池悠 25才 京都府出身 右投右打 背番号17
中々いい面構えしてんな」


決してイケメンとは言えないが、シャープな輪郭にキツネ目が特徴の選手。

見た目からして、気が強そうな感じが見受けられる。


「一昨年は二桁勝利を挙げてるぞ。こんなピッチャー、ドルフィンズにいたっけ?」


「リーグが違うとは言え、一応二桁勝利挙げてるんですから、名前ぐらいは覚えてくださいよ」


「だって、その名前すら読めないから覚えようがないだろ」


何でこんな人物がプロ野球の監督をやってるのだろうか。


「私はこのピッチャー知ってますよ」


「ほぉ…で、どんなピッチャーなんだ?」


「球はそれ程速くないですが、それでも150近くは出せるんですけど、コントロールが良くて、37勝のうち、無四球完投勝利が12勝。
サイド気味のスリークォーターから投げるスライダーとシュートは右打者には打ちづらく、一昨年の被打率は0.216と低いです」


「でもアレだろ、左バッターにはバカスカ打たれるタイプなんじゃないのか?」


「それは右バッターから比べれば打たれる率は高いですが、それでも防御率は2.88ですよ」


一昨年は防御率3位と安定した成績を残している。


「そりゃスゴいな!
でも、そんなピッチャーならばドルフィンズが手放すとは思えないんだが」


「鴻池は当時エースだった天海の影に隠れていたせいか、注目度は低かったですが、11勝5敗は天海の次に良い成績を挙げてます」


「て事は、天海が抜けた後のドルフィンズのエースじゃないのか?」


「どうなんですかね…フツー、これだけの成績を挙げればエース級の扱いになるんですが、ドルフィンズは彼よりもルーキーだった柴田をエース格に置いてますね」


「去年ケガしたからじゃないのか?」


鴻池は去年ピッチャー返しで右の鎖骨を直撃して骨折。

シーズンを棒に振った。


「鎖骨骨折か…でも治るのにそんな長い期間必要なんか?」

鴻池は交流戦が始まる前の5月中旬にケガをした。


「そうですよね…シーズン終盤には完治するハズなのに、一度も上で投げないのはおかしい」



それには理由があった。


鴻池は首脳陣との対立で半ば干されていた状態だった。


鴻池は調整法を巡り、コーチと衝突。


その最中に負傷したせいで、一軍からお呼びがかからなかった。


「実力がありながら、一軍に呼ばれないってのはそういう理由か」


「じゃなきゃ、一軍で使いますよ」


コントロールが良くて右打者に強い。


榊は面白そうだと思い、鴻池獲得に乗り出す。


「よし、コイツにしようぜ」


「鴻池を獲りますか?」


「おう、コントロールが良いってのは魅力的だしな」


かくして鴻池をトレードする為にドルフィンズに打診した。
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