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かつて天才と呼ばれたスター

スランプ

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「翔田選手、吉川選手がヒーローインタビューで翔田選手を挑発する様な事を言いましたが、翔田選手はこのまま二刀流を続けるんでしょうか?」


試合後のロッカールーム前で記者達は翔田に挙って質問した。


「あの…ちょっと今はそれどころじゃないんで」


翔田の表情は険しい。


「吉川選手は翔田選手にピッチャーで勝負しろと言ってます。
今年は野手に専念してますが、場合によっては投手としてマウンドに上がる事は無いんですか?」


「ごめんなさい、ホントに何も思いつかないんで」


急ぐ様に球場を後にした。



99ers対キングダムの第一ラウンドは99ersに凱歌が上がった。


キングダムはこの敗戦で5位に転落。


球界の盟主と呼ばれた王国は崖っぷちに立たされた。






一方スカイウォーカーズは、去年投手三冠に輝いた真咲が相変わらずのピッチングで、レボリューションズ打線を僅か1安打に抑える。


スカイウォーカーズ打線はこの日2番に入ったスーパールーキー森高が3安打1ホーマー4打点と大活躍。


守備でも、5回に結城弟のホームラン性の当たりをフェンス際でジャンプ一番キャッチするなど、攻守にわたりチームを引っ張る。


森高の活躍で5対0とスカイウォーカーズが完封勝利を飾った。


早くも新人王候補として森高に注目が集まる。


試合後のロッカールームでは、


「よーよー、スーパールーキー」


財前が声を掛ける。


「あ、財前さんお疲れ様です」


財前はキャンプインの時と変わらず、シルバーアッシュのヘアーに左右色別のカラコン、シルバーアクセサリーのチョーカーにブレスレットと野球選手とは言い難い格好をしている。


「なかなかやるじゃんか!
明日からお前が4番を打てよ。
そうすりゃ、このチームも少しは得点能力が上がるだろ」


財前はこの日4安打1ホーマー1打点。


打率0.437 ホームラン10 打点18と3部門でリーグトップに立つ。

開幕戦でサイクルホームランという日米初の偉業を成し遂げ、ヒーローインタビューで今年三冠王を獲ると宣言。

もし三冠王を逃した場合、現役を引退すると発表。


ビッグマウスもここまでくれば却って清々しいものだ。


「いやぁ~、自分はまだ新人だし、それに4番は鬼束さんがいるじゃないですか」

ルーキーらしく謙遜する。


「何言ってんだよ、ウチの4番がからっきしダメだし、調子の良いお前が4番になればいいんだよ!
なぁ、そうだろ4番バッター様よ?」


今日ノーヒットの鬼束に同意を求める。


「えっ…いや、ハハハ…」


開幕からいま一つピリッとしない鬼束は今シーズン初アーチを記録したものの、打率は2割台前半でチャンスに凡退する場面が多い。


「ハハハじゃねぇだろ!テメーが打たなきゃチームは機能しねぇんだよ!
これじゃ、いくらオレが打っても何の意味も無いだろ」


「す、すいません…」


翔田ほどでは無いが、鬼束もスランプに陥ってる。


すると奥から結城の声が。


「財前さん、そんなに鬼束くんを責めないで下さい!鬼束くん、誰だってノーヒットの時はあるんだ。
気持ちを切り替えて明日頑張ろう」


結城が助け舟を出した。


「あ、ハイ…ありがとうございます」

大きな身体を小さくして恐縮している。


「バカか、オメーは!コイツは気にしなきゃダメなんだよ!
4番がチャンスに何度も凡退してどうすんだ!
コイツが今より少しでも打てば、チームの勝ちは増えるんだよ!
聞いてんのか、おいっ!」


更に鬼束を叱責する。


「アンタ…いい加減にしろよ」

一部始終を見ていた唐澤が突っかかる。


「おい、トーマ止めろ!」


「唐澤くん、熱くなるな!」


鬼束と結城が止めに入る。


「横から口挟んでくるんじゃねぇよ、クソガキ!
テメーは早くウチに帰って、母ちゃんと一緒に風呂入って寝ろ!」


「何だと、テメー!」


「止めろっ!トーマ、悪いのはオレだ!財前さん、ホントに申し訳ありません」


唐澤を制し、深々と頭を下げた。


「ったく…打てねえんなら、監督に言って替えてもらえ!」


バタン!と乱暴にロッカーの扉を閉め、真っ先にロッカーを出た。


「はぁ…いつになったら、このチームは一丸となるんだろうか」


結城はため息混じりに呟く。



気にするなと言われたが、鬼束の心中は決して穏やかではない。


長いシーズンでは、不調で成績を落とす事など日常茶飯事だ。


とは言え、スランプを脱出するまでの期間は心身ともに疲弊する。

バッティング技術に関しては、右打者最高のプレイヤーと呼ばれる鬼束だが、今年は特に重症だ。


チームが勝利しても、自分は貢献していない。

それどころか、皆の足を引っ張ってるんじゃないかと。


「鬼束さん…誰だって打てない時はあるんです。
ボクもそうだし、結城さんだってノーヒットの時もえるんです…
あんなヤツの言う事なんて真に受ける事無いですよ」


「そうだ鬼束くん。
あまり深く考えるとプレーに支障が出る。
大丈夫、キミはスランプを脱出出来るよ」


唐澤と結城の二人は鬼束をフォローする。


「でも…このまま4番を打つ訳にはいかないし」


「鬼束くん、誰が何と言おうと4番はキミだ。
キミはキミのバッティングをすればいいんだ。
凡打を気にせず、思いきってバットを振るんだ」


結城は鬼束を庇うが、当の本人は燻った状態のままだ。
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