I Love Baseball 主砲の一振り 6

sky-high

文字の大きさ
上 下
69 / 82
8月灼熱の後半戦

秘策

しおりを挟む
【3番レフト唐澤。背番号1】


天才の後にまた天才が登場する。


右の天才スラッガー白石が倒れても 左の天才スラッガー唐澤がその後ろで立ちはだかる。


左対左の対決だが 唐澤は左ピッチャーを苦にしない。

しかも 那須川との通算対戦成績は46打数11安打 打率.239と那須川が抑えているように見えるが
11安打のうち 3本塁打の全てがグランドスラムだ。

那須川自身も唐澤を抑えているとは思っておらず
むしろ大事な局面で打たれているというイメージが強く残っている。



「シンドいなぁ~…一難去ってまた一難かよ」


ボールを手にブツブツ言う那須川の額はうっすらと汗が滲んでいる。


試合開始からまだ8球しか投げてないのだが
白石と唐澤の2人を相手にするのは容易ではないという事だろう。


白石同様 力感の感じられないフォームで隙だらけに見えるが 瞬時に全身の力をバットに集中させて振り抜く打球は目にも留まらぬ速さでスタンドへ叩き込む。


「アイツ、大丈夫かな」


外崎が那須川の様子を見る。


「ピッチャーもイヤだろうが、配球を組み立てるキャッチャーだってイヤなもんだぜ…お前らを相手にするのは」


「コッチだって、日本一のキャッチャーとトップクラスのピッチャー相手にするのはイヤですよ」


そう言うとバットを寝かせ気味に構えた。


(コイツのウィークポイントは外角低めの落ちる変化球…でも、そこで勝負するまでのカウントをとる球をどうするか?)


外崎の頭脳がフル稼働する。


「…ウダウダ考えてもムダだな。ヘタな小細工は止めて、真っ向勝負だ」


強気のリードで挑む。


そのサインを見た那須川が頷き 初球を投げた。

「インハイのフォーシーム…」


「…打ってみろよ」


唐澤の脳裏にインハイのストレートが閃いた。


スピンの効いたボールがインハイへ迫り来る。


「クッ…」

唐澤は素早くバットを合わせたが 予想以上にノビがあって差し込まれた。



ガツッと根っこに当たったボールは転々とサード真正面へ。


比嘉が軽快に捌いて一塁へ送球。


「アウトっ!」


「ホッ…助かったァ~」


安堵の表情を浮かべた那須川だが 額には大粒の汗が流れている。


僅か初球で仕留めたが 並のバッターを相手にするよりも遥かに疲弊する。


「よくやった」


「ハハ、ラッキーっす」


外崎とハイタッチを交わしベンチに下がった。


1回の表 Glanzの攻撃は三者凡退で終了した。












1回の裏 99ersの攻撃。


マウンド上は13試合目の登板となるエース中邑。


今シーズンは7勝5敗 防御率4.03


片山 降谷の2人が好調なのに対し エースナンバーを背負う中邑が今ひとつ波に乗れない状態だ。


160を超えるストレートは鳴りを潜め 最速でも153km/hで回転数もイマイチ。


原因はオフにフォーム改造を行ったのだが 下半身の使い方が不十分で上体に頼った投げ方をしたせいでボールのキレが悪くなった。


キャンプでは元のフォームに戻そうと必死で投げ込みをしたのだが 一度狂ったフォームはそう簡単に直るハズが無く 今シーズンの不調を物語っている。


「中邑さん、今日は変化球主体じゃなく、ストレートでドンドン押すピッチングにしましょう」


マスクを被るのは正捕手の毒島ではなく 成長著しい滝沢だ。


「ん?あぁ…サインはお前に任せるよ」


投球練習を終えたのだが 指の引っ掛かりがイマイチなせいで何度も首を傾げる。


「ダメですよ、エースがそんな顔しちゃ!いくら不調でも、エースはエースなんですよ」


「分かってるよ、そんな事は」


「どんな時でもオレはエースなんだ!って顔で投げてください。オレが上手くリードしますから」


「ホントかよ?お前こそ大丈夫なんかよ?」


すると滝沢は胸を張って答える。


「ヘヘッ、それが大丈夫なんですよ。まぁ、見てくださいって」


ニヤッと笑って守備についた。



【1回の裏99ersの攻撃は…1番ライト城戸。背番号7】


99ersのリードオフマン城戸がゆっくりと打席に入り
バットでスパイクの底に付いた土を叩いて落とす。


中邑が一番苦手にしているバッターは城戸だ。


通算の対戦成績は52打数23安打 6本塁打とカモにされている。

しかも塁に出ればモーションを盗まれ 12回盗塁を試みて11回成功している。



そんな城戸相手に滝沢はどのようなリードをするのか。


滝沢がサインを出した。


中邑は小さく頷き スリークォーターからの二段モーションで第1球を投げた。



(高い…)


アウトコースやや高めのストレートだが 城戸は余裕で見送る。


「ストライクワンっ!」


「ウソっ!!今のがストライクかよ?」


城戸が思わず声を上げた。


今のは明らかに高いと思い バットを出さなかったのだが それをストライクと判定されればおかしいだろと抗議をしたくなる。


しかし 主審の判定は覆らずワンストライクとなった。



(クククッ、今のは誰が見てもボールだよな)


滝沢は心の中でほくそ笑む。


それもそのハズ 滝沢は上手くフレーミングでボールをストライクにしたのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...