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8月灼熱の後半戦
史上最大のトレード 2
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「仮に白石を獲ったとして、どこを守らせるつもりですか?」
「んなモン、ショートに決まってるじゃないか」
榊はさも当然のように答える。
「決まってるって…それじゃ、石川はどうするつもりですか?Glanzのショートは彼のはずでは」
「アイツはショート以外にも、サードやセカンドもそつなくこなす万能型タイプなんだよ。
その心配は無いって事だ」
その証拠に石川は今日セカンドでスタメン出場している。
白石をショートに 石川をセカンドにコンバートさせるつもりらしい。
「あっ!もしかして、石川を交換条件にするつもりか」
すると上野はハハハと笑う。
「まさか!白石より劣る選手をウチに引き入れてどうするつもりですか?
先程仰ってた1対3…もしくは、1対4のトレードにする予定ですが、残念ながら彼はマーリンズには必要の無い選手です」
白石を見てきたせいか 石川はやや格落ちする選手という見方をしている。
「オイ、ふざけんなよ…確かに石川は白石に比べりゃ多少は見劣りするけど、それはショートというポジションで比べた場合だろうが。
トータルで見れば、アイツは白石に負けない程の素質の塊なんだよ!」
自軍の選手が貶されている気がして榊は語気を荒らげる。
「これは失礼…しかし、皆が天才呼ばわりする白石さえ、私から見ればまだまだな選手ですよ」
「ほぉ~、まだまだねぇ。どの辺がまだまだなんだ?」
フッと口元に笑みを浮かべ 上野は話を続けた。
「確かに白石は走攻守三拍子揃った万能プレイヤーですが、如何せん下半身がまだ弱い。
下半身を強化するには走り込みが一番なんだが、彼は最新のトレーニングだか何だか知らないが、走り込みよりも筋力を付けるトレーニングばかりやりたがる。
野球選手に一番必要な筋力は下半身なんだ!
それなのに、アイツは…挙げ句には、脚が痛いからオールスターは代打にして欲しいとは!
全く、心も身体もぶっ弛んでるんだ、ヤツは!」
話しているうちに徐々に興奮したのか 一気に捲し立てた。
「上野よぉ」
シラケた表情で榊が問いかける。
「お前、現役時代は練習サボりまくって有名だったじゃねぇかよ。
それを棚に上げて、白石に走れ走れって…お前が言うんじゃねぇよ、そんな事を」
上野は練習嫌いで有名だった。
もう少し練習に対して真摯に取り組めば マーリンズのレジェンドとして輝かしい成績を収めたハズ。
選手生命が短かったのも 真面目に練習しなかった事が原因とされる。
「だからこそ、白石にはもっと練習を積んで欲しいんですよ!
私の二の舞にならないよう、強靭な下半身を作り上げてもらいたい為に走り込みをさせているんです!」
非常に暑苦しい男だ。
脳筋までもが一昔前の精神論を強調する典型的な指導者だ。
「一つ聞きたいんだけどよ、そのやり方で今年になって、ハドラーとコーチの立川が愛想尽かして出ていったけど、オレのやり方は間違ってるのかって疑問に思ったことはないのかよ?」
開幕して間もない頃 助っ人のハドラーとコンディショニングコーチの立川が上野のやり方に反発してチームを去った。
「私はGM兼監督ですよっ!私のやり方が気に入らないなら出ていけばいい!私は私のやり方でマーリンズを日本一に導くつもりです!
それが嫌なら、何処へでも行けばいいんだ!」
コイツは救われないアホだな…と榊は思った。
「そうかい、そうかい。お前の考えは分かったよ。
で、コッチが白石を獲るとしたら、誰と誰を出せばいいんだ?」
早いところ交換条件を聞いてサッサと帰ろう…そう思った。
「唐澤といきたいところなんですが…彼も白石と同じで言う事を聞かないタイプだと思うので、見送りましょう。
…そうですね、強いて挙げるならば、外野手の武藤…」
一人目は成長著しい武藤を交換条件に挙げた。
「武藤かよ…ったく、仕方ねぇ。で、次は誰なんだ?」
「二人目は…同じショートを守れる筧」
小技が得意な筧の名を挙げた。
「筧もかよ…獲られたくないんだが、これも我慢だ」
野球脳に優れる筧を手放すのはかなりの痛手だ。
「三人目は…野手よりも、投手の方がいいかな。
…うーん、左で球が速い投手となると…中継ぎエースのアクーニャはかなり使えそうだな」
終盤のレフティ3の一人でもあるアクーニャを三人目に挙げた。
「…アクーニャだと?…よかろう、白石を獲る為だ!で、お次は誰だ?」
「今のところ、その三人ですね。後は特に欲しい選手はいないかなぁ…榊さん、ホントにその三人をトレードに出すつもりですか?」
「そうでもしなきゃ、白石は獲れないんだろ?」
「まぁ、そうなんですけどね。それにしても、このトレードはコッチがかなり有利に思えますが、後から取り消しなんて事はないですよね?」
上野は念を押してきた。
「あったりめーだろ!お前も約束はちゃんと守れよな!」
「勿論ですとも…それじゃあ、これで決まりでいいですね?」
「おぅ、これで決まりだ」
この瞬間 白石一人に対し 武藤 筧 アクーニャの三人がトレードでマーリンズに移った。
翌日のスポーツ紙は一面で【史上最大のトレード】という記事で埋め尽くされた。
かくして 白石拓海は二軍落ちから一転してGlanzの選手として新たなスタートを切ることとなった。
「んなモン、ショートに決まってるじゃないか」
榊はさも当然のように答える。
「決まってるって…それじゃ、石川はどうするつもりですか?Glanzのショートは彼のはずでは」
「アイツはショート以外にも、サードやセカンドもそつなくこなす万能型タイプなんだよ。
その心配は無いって事だ」
その証拠に石川は今日セカンドでスタメン出場している。
白石をショートに 石川をセカンドにコンバートさせるつもりらしい。
「あっ!もしかして、石川を交換条件にするつもりか」
すると上野はハハハと笑う。
「まさか!白石より劣る選手をウチに引き入れてどうするつもりですか?
先程仰ってた1対3…もしくは、1対4のトレードにする予定ですが、残念ながら彼はマーリンズには必要の無い選手です」
白石を見てきたせいか 石川はやや格落ちする選手という見方をしている。
「オイ、ふざけんなよ…確かに石川は白石に比べりゃ多少は見劣りするけど、それはショートというポジションで比べた場合だろうが。
トータルで見れば、アイツは白石に負けない程の素質の塊なんだよ!」
自軍の選手が貶されている気がして榊は語気を荒らげる。
「これは失礼…しかし、皆が天才呼ばわりする白石さえ、私から見ればまだまだな選手ですよ」
「ほぉ~、まだまだねぇ。どの辺がまだまだなんだ?」
フッと口元に笑みを浮かべ 上野は話を続けた。
「確かに白石は走攻守三拍子揃った万能プレイヤーですが、如何せん下半身がまだ弱い。
下半身を強化するには走り込みが一番なんだが、彼は最新のトレーニングだか何だか知らないが、走り込みよりも筋力を付けるトレーニングばかりやりたがる。
野球選手に一番必要な筋力は下半身なんだ!
それなのに、アイツは…挙げ句には、脚が痛いからオールスターは代打にして欲しいとは!
全く、心も身体もぶっ弛んでるんだ、ヤツは!」
話しているうちに徐々に興奮したのか 一気に捲し立てた。
「上野よぉ」
シラケた表情で榊が問いかける。
「お前、現役時代は練習サボりまくって有名だったじゃねぇかよ。
それを棚に上げて、白石に走れ走れって…お前が言うんじゃねぇよ、そんな事を」
上野は練習嫌いで有名だった。
もう少し練習に対して真摯に取り組めば マーリンズのレジェンドとして輝かしい成績を収めたハズ。
選手生命が短かったのも 真面目に練習しなかった事が原因とされる。
「だからこそ、白石にはもっと練習を積んで欲しいんですよ!
私の二の舞にならないよう、強靭な下半身を作り上げてもらいたい為に走り込みをさせているんです!」
非常に暑苦しい男だ。
脳筋までもが一昔前の精神論を強調する典型的な指導者だ。
「一つ聞きたいんだけどよ、そのやり方で今年になって、ハドラーとコーチの立川が愛想尽かして出ていったけど、オレのやり方は間違ってるのかって疑問に思ったことはないのかよ?」
開幕して間もない頃 助っ人のハドラーとコンディショニングコーチの立川が上野のやり方に反発してチームを去った。
「私はGM兼監督ですよっ!私のやり方が気に入らないなら出ていけばいい!私は私のやり方でマーリンズを日本一に導くつもりです!
それが嫌なら、何処へでも行けばいいんだ!」
コイツは救われないアホだな…と榊は思った。
「そうかい、そうかい。お前の考えは分かったよ。
で、コッチが白石を獲るとしたら、誰と誰を出せばいいんだ?」
早いところ交換条件を聞いてサッサと帰ろう…そう思った。
「唐澤といきたいところなんですが…彼も白石と同じで言う事を聞かないタイプだと思うので、見送りましょう。
…そうですね、強いて挙げるならば、外野手の武藤…」
一人目は成長著しい武藤を交換条件に挙げた。
「武藤かよ…ったく、仕方ねぇ。で、次は誰なんだ?」
「二人目は…同じショートを守れる筧」
小技が得意な筧の名を挙げた。
「筧もかよ…獲られたくないんだが、これも我慢だ」
野球脳に優れる筧を手放すのはかなりの痛手だ。
「三人目は…野手よりも、投手の方がいいかな。
…うーん、左で球が速い投手となると…中継ぎエースのアクーニャはかなり使えそうだな」
終盤のレフティ3の一人でもあるアクーニャを三人目に挙げた。
「…アクーニャだと?…よかろう、白石を獲る為だ!で、お次は誰だ?」
「今のところ、その三人ですね。後は特に欲しい選手はいないかなぁ…榊さん、ホントにその三人をトレードに出すつもりですか?」
「そうでもしなきゃ、白石は獲れないんだろ?」
「まぁ、そうなんですけどね。それにしても、このトレードはコッチがかなり有利に思えますが、後から取り消しなんて事はないですよね?」
上野は念を押してきた。
「あったりめーだろ!お前も約束はちゃんと守れよな!」
「勿論ですとも…それじゃあ、これで決まりでいいですね?」
「おぅ、これで決まりだ」
この瞬間 白石一人に対し 武藤 筧 アクーニャの三人がトレードでマーリンズに移った。
翌日のスポーツ紙は一面で【史上最大のトレード】という記事で埋め尽くされた。
かくして 白石拓海は二軍落ちから一転してGlanzの選手として新たなスタートを切ることとなった。
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