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6月・インターカンファレンス 終盤
デタラメな心理戦
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かつてのチームメイトでもある鬼束が険しい表情で打席に入った。
「さてと…コイツだけは何がなんでも三振に抑えないとな」
鬼束を前に不敵な笑みを浮かべた。
「サトシ…お前、オレと勝負して勝てる見込みがあるのか?」
鬼束は後ろを振り向かずに毒島に訊いた。
「さぁ…何せ、アイツがそうしたいって言うから…」
「お前、正捕手だろ。何でもかんでもピッチャーの言いなりになってんじゃねぇよ」
「そうすっね…」
鬼束の語気が荒い。
余程腹が立ってるという事だろうか。
しかし マウンド上の片山は涼しい顔で鬼束を見下ろす。
「あのヤロー、舐めやがって」
スカイウォーカーズ時代は仲が良かった2人だが 勝負となれば話は別だ。
しかも 敵味方に分かれたとなれば尚更のこと。
片山がセットポジションの体勢に入った。
左の片山という事もあって 一塁ランナー冬野のリードは小さい。
すると 毒島が内野陣に対し左へ動くよう指示した。
ショート筧がサード寄りに セカンド南野がショートの定位置に ファースト武藤がセカンドの定位置まで移動した。
三遊間を完全に塞いだ守備だ。
(フン、そんなシフトが通用するかよ)
頭上を越える大きい当たりを打てばいいだけの事。
シフトなんて無意味だという事を教えてやろうと。
すると 片山はグラブの中から左手を出し ボールの握りを鬼束に見せた。
「何だ、あれは?」
ストレートの握りだ。
予告ストレートを投げるつもりなのか。
「何がしたいんだ、一体!」
鬼束のイライラは頂点に達した。
「怒れ、怒れ!頭に血が上ってオレの球が打てるもんなら、打ってみな」
左手を隠さずにクイックモーションから初球を投げた。
「打ってやる!」
鬼束がスイングの始動を始めた。
「っ!…ストレートじゃない…」
フワッとした96km/hのスローカーブが真ん中低めに決まった。
「ストライクワン!」
「ヘヘッ、どうだ…打てるもんなら、打ってみな」
片山は瞬時に握りを変え スローカーブを投げた。
オフに握りを変える練習をしたお陰で ピッチングの幅がかなり広がった。
「クソっ、ふざけた真似しやがって」
鬼束の顔はみるみる紅潮していく。
「冷静さを欠いたら負けだぜ、マコト」
片山は冷静というより 鬼束をおちょくってる感じだ。
毒島はボールを返球した後 今度は外野に対して前進守備をするようジェスチャーした。
レフト唐澤 センター森高 ライトルイスが定位置よりもかなり前に移動した。
「サトシ…テメーもオレをおちょくってんのかよ?」
「いやぁ、これは指示が出たんですよ…」
毒島がとぼけた口調で答える。
「いくら何でも、これはバカにしてるようなモンだろ!」
スカイウォーカーズ時代の鬼束は典型的な草食系男子で 滅多な事では感情的になるようなタイプではなかった。
パイレーツに移籍してからは 闘志を全面に出すプレーで若手を引っ張る。
「おぉ、おっかねぇ…」
肩を竦め 怯える様な態度でおどける。
それもそのハズ 片山はあの結城が警戒する程の超ヤンキーだ。
鬼束がいくら凄んでも 百戦錬磨の片山の前では赤子同然だ。
その元ヤン投手が今度はサークルチェンジの握りを鬼束に見せた。
サークルチェンジは片山のウイニングショットでもある。
(どうせ、途中でストレートの握りに変えるんだろ!)
鬼束はストレートと読んだ。
流れるようなクイックモーションから2球目を投げた。
神主打法の鬼束は素早くバットを出す。
「うわっ…ヤバい」
しかし 片山の投げたボールはストレートじゃなく 正真正銘のサークルチェンジだった。
「ストライクツー!」
インコースやや真ん中寄り…鬼束の好きなコースだ。
「クッソ~っ、コケにしやがって!」
完全に冷静さを欠いた状態だ。
「ダメだね~、この勝負オレの勝ちだな」
僅か2球でツーストライクに追い込んだ。
毒島がボールを返球すると 今度は野手全員が前進守備するよう指示した。
内野 外野共に定位置よりもかなり前に移動した。
「ふ、ふざけやがって…テメーらの土手っ腹にぶち当ててやらぁ!」
鬼束は肘当てを外し ポーンと後ろへ放り投げた。
それをボールボーイが拾ってベンチに下がった。
「あぁ~あ、みっともないねぇ…あんなに怒ったら、打てっこ無いのにぃ」
そう言うと 今度はツーシームの握りを見せた。
(ツーシームだと…いや、待てよ。コイツの事だから、絶対にツーシームは有り得ない!
でも…ホントに投げてくるかもしんないし。
とにかく、来た球を打つのみだ!)
一旦深呼吸して神主打法の構えで迎え打つ。
先程より少しゆっくりしたモーションから3球目を投げた。
インコース低めからボールになる縦のスライダー。
「クッ…ヤバッ」
鬼束はバットを合わせたが ボールはギューンと縦に鋭く変化した。
「ストライクスリー!」
その瞬間 毒島は素早く一塁へ送球。
ファースト武藤がカバーに入り 冬野にタッチ。
「アウトっ!」
「しまった…」
冬野は一歩も動けず。
一度も牽制球を投げなかったせいか 冬野は油断していた。
三振ゲッツーであっという間にツーアウト。
「はぁ…今日は敗けだな」
鬼束はようやく冷静さを取り戻したのか サバサバした表情でベンチに引き揚げた。
この打席でパイレーツは完全に意気消沈。
その裏 Glanzは9番南野のツーベースを皮切りに 4連打の猛攻で一挙3点を奪い取り 0-3で完封勝利を飾った。
「さてと…コイツだけは何がなんでも三振に抑えないとな」
鬼束を前に不敵な笑みを浮かべた。
「サトシ…お前、オレと勝負して勝てる見込みがあるのか?」
鬼束は後ろを振り向かずに毒島に訊いた。
「さぁ…何せ、アイツがそうしたいって言うから…」
「お前、正捕手だろ。何でもかんでもピッチャーの言いなりになってんじゃねぇよ」
「そうすっね…」
鬼束の語気が荒い。
余程腹が立ってるという事だろうか。
しかし マウンド上の片山は涼しい顔で鬼束を見下ろす。
「あのヤロー、舐めやがって」
スカイウォーカーズ時代は仲が良かった2人だが 勝負となれば話は別だ。
しかも 敵味方に分かれたとなれば尚更のこと。
片山がセットポジションの体勢に入った。
左の片山という事もあって 一塁ランナー冬野のリードは小さい。
すると 毒島が内野陣に対し左へ動くよう指示した。
ショート筧がサード寄りに セカンド南野がショートの定位置に ファースト武藤がセカンドの定位置まで移動した。
三遊間を完全に塞いだ守備だ。
(フン、そんなシフトが通用するかよ)
頭上を越える大きい当たりを打てばいいだけの事。
シフトなんて無意味だという事を教えてやろうと。
すると 片山はグラブの中から左手を出し ボールの握りを鬼束に見せた。
「何だ、あれは?」
ストレートの握りだ。
予告ストレートを投げるつもりなのか。
「何がしたいんだ、一体!」
鬼束のイライラは頂点に達した。
「怒れ、怒れ!頭に血が上ってオレの球が打てるもんなら、打ってみな」
左手を隠さずにクイックモーションから初球を投げた。
「打ってやる!」
鬼束がスイングの始動を始めた。
「っ!…ストレートじゃない…」
フワッとした96km/hのスローカーブが真ん中低めに決まった。
「ストライクワン!」
「ヘヘッ、どうだ…打てるもんなら、打ってみな」
片山は瞬時に握りを変え スローカーブを投げた。
オフに握りを変える練習をしたお陰で ピッチングの幅がかなり広がった。
「クソっ、ふざけた真似しやがって」
鬼束の顔はみるみる紅潮していく。
「冷静さを欠いたら負けだぜ、マコト」
片山は冷静というより 鬼束をおちょくってる感じだ。
毒島はボールを返球した後 今度は外野に対して前進守備をするようジェスチャーした。
レフト唐澤 センター森高 ライトルイスが定位置よりもかなり前に移動した。
「サトシ…テメーもオレをおちょくってんのかよ?」
「いやぁ、これは指示が出たんですよ…」
毒島がとぼけた口調で答える。
「いくら何でも、これはバカにしてるようなモンだろ!」
スカイウォーカーズ時代の鬼束は典型的な草食系男子で 滅多な事では感情的になるようなタイプではなかった。
パイレーツに移籍してからは 闘志を全面に出すプレーで若手を引っ張る。
「おぉ、おっかねぇ…」
肩を竦め 怯える様な態度でおどける。
それもそのハズ 片山はあの結城が警戒する程の超ヤンキーだ。
鬼束がいくら凄んでも 百戦錬磨の片山の前では赤子同然だ。
その元ヤン投手が今度はサークルチェンジの握りを鬼束に見せた。
サークルチェンジは片山のウイニングショットでもある。
(どうせ、途中でストレートの握りに変えるんだろ!)
鬼束はストレートと読んだ。
流れるようなクイックモーションから2球目を投げた。
神主打法の鬼束は素早くバットを出す。
「うわっ…ヤバい」
しかし 片山の投げたボールはストレートじゃなく 正真正銘のサークルチェンジだった。
「ストライクツー!」
インコースやや真ん中寄り…鬼束の好きなコースだ。
「クッソ~っ、コケにしやがって!」
完全に冷静さを欠いた状態だ。
「ダメだね~、この勝負オレの勝ちだな」
僅か2球でツーストライクに追い込んだ。
毒島がボールを返球すると 今度は野手全員が前進守備するよう指示した。
内野 外野共に定位置よりもかなり前に移動した。
「ふ、ふざけやがって…テメーらの土手っ腹にぶち当ててやらぁ!」
鬼束は肘当てを外し ポーンと後ろへ放り投げた。
それをボールボーイが拾ってベンチに下がった。
「あぁ~あ、みっともないねぇ…あんなに怒ったら、打てっこ無いのにぃ」
そう言うと 今度はツーシームの握りを見せた。
(ツーシームだと…いや、待てよ。コイツの事だから、絶対にツーシームは有り得ない!
でも…ホントに投げてくるかもしんないし。
とにかく、来た球を打つのみだ!)
一旦深呼吸して神主打法の構えで迎え打つ。
先程より少しゆっくりしたモーションから3球目を投げた。
インコース低めからボールになる縦のスライダー。
「クッ…ヤバッ」
鬼束はバットを合わせたが ボールはギューンと縦に鋭く変化した。
「ストライクスリー!」
その瞬間 毒島は素早く一塁へ送球。
ファースト武藤がカバーに入り 冬野にタッチ。
「アウトっ!」
「しまった…」
冬野は一歩も動けず。
一度も牽制球を投げなかったせいか 冬野は油断していた。
三振ゲッツーであっという間にツーアウト。
「はぁ…今日は敗けだな」
鬼束はようやく冷静さを取り戻したのか サバサバした表情でベンチに引き揚げた。
この打席でパイレーツは完全に意気消沈。
その裏 Glanzは9番南野のツーベースを皮切りに 4連打の猛攻で一挙3点を奪い取り 0-3で完封勝利を飾った。
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