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忌まわしき過去

慟哭

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亮輔が授業を終えて帰宅すると、アパートの前に一台の高級車が停まっていた。

すると、中から達也が現れた。白い納骨袋に覆われた桐箱を手に。

「テメー、何しに来やがった!」

亮輔は怒りの表情で達也に殴りかかろうとした。

「待てよ!ほらこれ。テメーの母ちゃんの遺骨だ!」

えっ!…遺骨?何だ遺骨って?

亮輔は何の事だか理解できなかった。

「お前の生みのオフクロの遺骨だ。
この前事故死した」

先生が?何故、どうして?
頭の中が真っ白になった。

達也は更に続けた。

「ったく、テメーが経営してるソープが潰れてかなりの負債を背負って、挙げ句に事故死だなんて」

「ウソだ!そんな事あるはずがない!」

達也はポケットからタバコを取り出し、火を点けた。

「ウソじゃねえ!
しかも、その借金をこっちが肩代わりして、おまけに葬儀の費用まで出したんだ。本来ならテメーが葬儀代出すはずなんだぞ。でも、ウチの秘書だったワケだから会社で葬儀をあげた」

「借金って何だ?テメー、また何かやりやがったな!」

「おいおい、人聞きの悪い事言うなよ。いいか、お前の母ちゃんはウチとは別にソープを経営してたんだよ。だが、客は入らねえし、赤字になって潰れたんだ。こっちはその借金の肩代わりをしたんだよ!」

何がどうなってんだ?

「店の資金が無くなって、また金を借りたんだろ?
詳しくは知らねえけど、会社には無断で借金作って死んだってワケだ。そういう事だからこの遺骨はお前に渡すわ」

「おい!テメー、何やりやがった!オフクロを消したのもテメーだろ」

「バカな事言うな!オレは潔白だ。とにかく、会社としては無断でソープなんてやりやがって、挙句に潰して借金まで作りやがったんだ。ウチとしてはえらい迷惑してんだよ!こっちはその尻拭いをしてやったんだ、有難く思え!」

あの先生が死んだなんて考えられない。
確かに最近は疲れきった表情を見せていたが、事故死だなんて絶対にあり得ない…それに何があってもオレの事は守るとまで言ったのに。

「そういう事だから、この遺骨はお前に渡すのは同然の事だろ?こっちは善意で葬儀までやったのに、感謝の言葉すらねえのか!
ホントにロクでもねえガキだ!
母親が死んだのも知らずにフラフラしやがってこの、親不孝もんが!
いいか!これはお前に渡すから墓はテメーの金で立ててやれ!それから、もう二度と会うことは無いが、また会社に来たら今度は警察呼ぶからな、覚えとけ!」

達也は亮輔に骨壺を渡すと、車に乗り、走り去っていった。

この白い桐箱の中に先生が…

部屋に入り、骨壺を前に亮輔は呆然としていた。

あの先生が、こんな小さな箱の中に…

初めて鴨志田に会った高校の入学式。
高校を辞めざるを得なくなった時に一緒に住んだ日々。
サラ金に追われ、千尋に金を工面してもらう為に、目の前で鴨志田と交わった事。
行方をくらまし、ソープに沈められた時を見かけた日。

そして、アパートの保証人になって、生活を援助してもらい、見守ってくれていた。

色んな事がこの数ヵ月の間にあった。

亮輔はまた孤独になった。

まさか、こんな最期を遂げるなんて…

亮輔は声を上げて泣いた。
何故、身内がこんなに死ななきゃならないんだ!

亮輔は自分を呪った。もしかしたら、オレと関わる人々は全て死ぬんだろうか?

もうこんな悲しい思いはしたくない。

もう、誰とも仲良くならない。
もう、誰も信じられない。
もう、誰も愛せない。

亮輔は泣きながら心に決めた。

自分と関わっちゃいけない、
関わったら悲惨な結末を迎える。

ならばいっそ、他人と関わるのは止めよう。

それと同時に、達也を地獄に突き落とす。
証拠は無いが、千尋の件と言い、今回の事も達也が仕組んだワナに違いないと思った。


そのためなら何だってやってやる…そう、心に決めた。
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