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忌まわしき過去

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駅前には約束の18時より少し前に着き、父を待った。

よく考えたらオレは父の顔を知らない。
写真すら見たことが無い。
どんな人物なのだろうか。
声の感じからして、低音でハッキリとした口調の人だ。

何度も改札口を見ては父親らしき人を探した。

この人だろうか、いや、あの黒のスーツを着た人かな、と。

すると着信が鳴った。

「は、はいもしもし」

【改札口前の自販機にいるんだが、どこにいるんだ?】

自販機の前?あ、あの人だ!
仕立ての良い黒のスーツにバッグを持っている。
いかにもビジネスマンという出で立ちだ。

オレはドキドキしつつも、照れ臭い気持ちで自販機の前へ向かった。

「あ、あのはじめまして亮輔です」

シュッとした身体付き、白髪混じりのオールバックに黒縁のメガネ。
切れ長の目にシャープな輪郭。オマケに背筋がピンと伸びて姿勢が良い。
…この人が父親か。

肩幅が広く、オレより背が高い。
まさに紳士という感じだ。

「まさかこんなに成長していたとはな!じゃあ、飯でも食いながらゆっくりと話をしよう」

父は口許に笑みを浮かべ、焼肉屋へ連れてってくれた。

「いらっしゃいませ」

「二人なんだが、個室は空いてるだろうか?」

「はい、こちらへどうぞ」

店の奥は座敷の個室で、ゆったり出来るスペースだった。

「腹減ってるだろ?遠慮はいらない、何でも好きな物頼め!」

「は、はいありがとうございます」

オレはカルビやタン塩、ハラミを注文し、父親はビールとキムチ、カクテキを注文した。

父は肉を焼きながらオレの話に耳を傾けた。

…母親との関係を話すべきか?いや、包み隠さず全て話そうと決めたはずだ。

「どうした、何かあったのか?」

父はオレの表情を見て、何かを察したようだ。

「何せあの母親だからな。お前の思い詰めた顔で何かあったのかは大体想像できる」

ここまで言われたら言うしかない。オレは母との近親相姦の事を話した。

父は驚き、しばし言葉を失っていた。
そりゃ、そうだ。
誰だって驚くに決まってる。

やや間があって、父が口を開いた。

「…そうか。で、卒業を機にお前は母さんの下から離れるってワケか」

オレの意を汲み取ってくれるだろうか?

「今さら一緒に住みたいなんて贅沢な事は言いません。オレは高校の裏にあるワンルームのマンションで一人暮らしをしたいんです。でもそれには保証人が必要で。金なら問題無いです、貯えがありますから。
…お願いです、保証人になってもらえませんか?」

父に頼るしかない…オレは土下座をした。

「一人暮らしと言うが、何から何まで自分でやらなきゃならないんだぞ。
お前にそれが出来るのか?」

諭すように父は聞いた。

「小学生の頃から家事は一人でやってました。母はいつも朝方に帰って来て、家事は一切やらなかったので、オレがやるように…」

父は複雑な表情を浮かべた。

「そんな幼い頃から一人でやってきたとは…それなら家に来るか?ちょうど達也が、お前の兄なんだが、来月から大学生になって一人暮らしを始めたんだ。私も一人だし、それなら一緒に住まないか?」

「え、いいんですか?…」

「何を言ってるんだ!遠慮する事は無い。
父親と息子が一緒に住むのは当たり前じゃないか!」

「じゃあ、そこから学校に通ってもいいんですか?」

「勿論だ。一人暮らしなんてこの先いくらでも出来る!」

思ってもいない展開だった。父親に甘えていいのか、一人暮らしをするべきか迷った。


オレは考えた。父親の下にいれば、母は来ないと思う。
逆に一人暮らしだと、何れは母に居場所をつきとめられ、連れ戻されるだろう。

となると、父と一緒に住む方が安全だと考えた。

「あの…ホントにいいんですか、オレが一緒に住んでも?」

「何バカな事を言ってるんだ。お前は私の息子だぞ!」

「でも、実際は…ホントの父親じゃ…」

「亮輔、そんな事はいいんだ…それに他人行儀な口調じゃなく、オヤジとか父さんと呼んでくれ」

オレは救われた気がした。

父がそこまでオレの事を思っていてくれたなんて。

「ほら、早く食え!焦げちゃうぞ」

父はカルビをオレの皿に乗せた。

「お前も色々と苦労したんだな」

その言葉でオレはボロボロと涙を流した。
今まで張り詰めたものがプツンと切れて、堰を切ったかのように、涙が溢れ出た。

これでようやく普通の学校生活が出来ると思った。

店を出て父と別れ、オレは家に帰って荷物をまとめた。

父の住む家に引っ越す準備をした。
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