Baseball Freak 主砲の一振り 7

sky-high

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そして開幕

終わってみれば…

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「おい、ここで言い争いをしてる場合じゃないぞ!
とにかく、ここは絶対に点を取られちゃいけない場面だ、いいな?」


【オゥ!】


卜部の一言で内野陣は守備に戻った。


「…及川」


「何すか?」


「この先のリードはお前に任す。絶対に抑える自信があるならやってみろ。
但し、敗けたらしばらく下で頭を冷やせ、いいな?」


この試合は落としてもいい、保坂はそう思った。


それと引き換えに、伸びきった天狗の鼻をへし折るにはいい機会だと。


「面白ぇ…オレが一番だという所を見せてやる」


「だといいがな」


そう言うと、保坂は呆れた表情で守備位置に戻った。


(この試合敗けたら…オレも責任をとって下でもう一度やり直そう)


保坂は覚悟を決めた。



ワンアウトランナー二塁と得点のチャンス。


ここでバッターは3番菅原。


Glanzが一番期待を寄せるバッターが左打席に入る。


永久欠番を解除した背番号3が一際目立つ。


右では単打、左では長打と極端なバッティングで注目を浴びた昨年。


今年はひろしのアドバイスを受け、左右どちらでも長短打を打ち分けるバッティングをモノにした。


そのアドバイスとは、右では白石、左では徳川を参考にする事だった。



フォームも変え、左打席では徳川の様な神主打法に似た構えだ。



(コイツの為に背番号3を解禁しただと?
笑わせるな!こんなヤツ、オレの足元にも及ばない!)


菅原を見下すような視線を向ける。



(コイツ、タダモンじゃねぇな…油断してたら、スタンドに持ってかれるぞ)


保坂は菅原の佇まいを見て感じた。


実質2年目の選手だが、身に纏うオーラはスラッガー独特のオーラを漂わせている。


マウンドでは当然のように及川がサインを出す。


(こっからがオレの奪三振ショーだ、よく見てろ!)


ランナーがいるにも拘らず、クイックではない通常のモーションから初球を投げた。


ギュイーン、と大きく変化したスイーパーが内角を抉る。


「ボールワン!」


菅原は腰を引いてボールを避けた。


あのままだったら、ボールが腹部を直撃する程の変化だった。


(こんないいボール放るのに、ピッチングというのを全く理解してない…)


保坂は嘆く。


今の及川に必要なのは、スピードや変化のキレではなく、それを活かす投球術だ。


しかし、及川は組み立てなど全く考えず、思いつきでボールを放る事しか考えてない。


これではせっかくの才能が宝の持ち腐れだ。


そして、ランナーを全く気にせず、ゆったりとしたモーションで2球目を投げた。


インコースやや内側へ153 km/hのストレートが決まる。


「ストライクワン!」


菅原はバットを構えたまま微動だにせず。


(次アウトコースへ投げたら持ってかれるぞ)


保坂は予想する。


嫌な予感は的中し、及川はアウトコースのストレートのサインを出した。


(バカヤロー、アウトコースへ投げたら思うつぼだぞ!)


そんな事は露知らず、及川は3球目を投げた。


アウトコース低めへ154 km/hのストレートを投じる。


(やられた…)


菅原は流麗なスイングでボールを捕らえ、逆らわず左方向へ弾き返した。


乾いた打球音が響き、レフト方向へグーンと放物線を描いた。


レフト立花が懸命にバックするも、途中で諦め、ボールはスタンド前列に飛び込んだ。


「ィヨッシャ~っ、先制点だ!」


横浜シーサイドパークの初本塁打は菅原の第1号ツーランとなった。



「ホームランだと?あんなのはマグレに決まってる!」


打球の方向を見ながら及川は青ざめた顔をする。


初回の攻撃でGlanzが早くも2点を先制した。



打たれた及川は平常心を取り戻す事は出来ず、続く4番白石には左中間を破るツーベースを打たれ、5番クロフォードにはフォアボール。


そして6番森高には甘く入ったカーブを狙い打ちされ、スリーランで5点目を追加。


ここでDodgers小林監督はピッチャーを交代。


及川はアウト一つしか取れずに降板。


この時点で勝負は決した。


終わってみれば、8対0でGlanzの圧勝。


反町は2安打無四球、11奪三振のピッチングで完封。


本塁打は菅原のツーラン、森高のスリーラン。


4番白石は3安打2打点の活躍。


対するDodgersは全く良いところが無く、及川が滅多打ちに遭い、初回で降板という醜態。


試合後、小林監督はペナルティとして及川、保坂のバッテリーを無期限の二軍降格を告げた。
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