Baseball Freak 主砲の一振り 7

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梅雨入り 6月後半

消えるスライダー

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試合がスタートした。

99ers先発畝は、緩急をつけたピッチングで初回を三者凡退に抑える。

一方、Glanzの先発篁は初先発というプレッシャーをものともせず、比嘉をショートゴロ、飛鳥をセンターフライ、吉川をセカンドライナーに打ち取り、こちらも三者凡退に抑える。


畝の緩急自在のピッチングに対し、篁は斜めに鋭く落ちるスライダーを武器に凡打の山を築く。


高校時代、【バッターの視界から消える】と言われたスライダーはプロのバッターにも十分通用している。



試合は投手戦が続き、一気に5回まで進む。


99ersの攻撃は2番飛鳥から。



ここまで篁は2安打無得点に抑え、奪った三振は2つ。


打席の飛鳥はここまで打率4位の.332をキープ。


白石の影に隠れがちだが、負けじ劣らずのショートストップでもある。



篁の初球は外角ギリギリに147 km/hのストレートを投げた。


飛鳥はこれを待ってましたとばかりに、右へ流した。


打球はキレイに一二塁間を破りライト前に転がる。


飛鳥の流し打ちでノーアウトランナー一塁となった。


続くバッターはプレイングマネージャーの吉川。




今年は.263とやや低い打率だが、ホームランは21本、打点は63と勝負強いバッティングは健在。


吉川の次はかつてのチームメイトでもある毒島が控えている。


一塁ランナーは俊足の飛鳥。



飛鳥のリードはやや小さめ。


左ピッチャーだけに盗塁をしてくる可能性は低いが、飛鳥の盗塁成功率は高い。


セットポジションの体勢に入り、一度牽制をする。


「セーフ!」


飛鳥は慌てる様子も無く、悠々と帰塁。


(何投げればいいんだ、一体…)


左対左の対決だが、吉川はものともせずにスタンドへ運ぶ技術とパワーを兼ね備えてる。


マスクを被る滝沢がサインを出した。


(マジか…)



初球から得意のスライダーを要求した。



相手は今年36歳になるとは言え、昨年は3割25本塁打90打点をマークしたスラッガー。


三冠王、40-40(40本塁打40盗塁)を過去にも記録した事がある、レジェンドクラスのバッターだ。



ブレーブスの結城が憧れ、今でも直立不動になってしまう程、敬意を表している選手なのだ。



「相手が吉川だからって、臆する事はねぇ。得意のスライダーを投げりゃ、楽に打ち取れるハズだ」


かつてのライバルでもある、ヘッドコーチの財前はこう分析する。


「んだな(^^)」


ひろしもそれに同意する。


「ホントかよ?相手はあの吉川だぜ!」


「まぁ、見てなって。アンタがイメージしているのは、全盛期の吉川だろ?
今でも3割は打てるかもしれんが、全盛期とは違うんだ」


財前は攻略法を見つけたみたいだ。




滝沢のサインに従い、篁は初球を投げた。


フロントドア気味にインコースからアウトコース低めに鋭く変化する斜めのスライダーを吉川は見送った。


「ボールワン!」


「エッ!今の入ってませんか?」


滝沢は思わず主審に詰め寄る。


どちらともとれるコースだったが、主審はボールを宣告。


吉川の特徴はズバ抜けた選球眼だ。


とにかくボール球には手を出さない事で有名だ。


その影響からか、吉川が手を出さないコースはボールと判断してしまう審判も多い。


故に【吉川ボール】とまで揶揄される程の選球眼だ。


「オイオイ、あれじゃあのコースはボールだと判断されんじゃないのか?それなら、スライダーは投げない方がいいんじゃないのか?」


「いや、アレでいい。カントク、アンタもピッチャー出身なら分かると思うが、あのコースをボールを取られたら、次も同じコースへ投げたくなるんじゃないのか?」


「まぁ、そうだな。でも、それはオレみたいなコントロールの良いピッチャーがやる事だろ?篁はそこまでコントロール良くないだろ」


現役時代に1試合12四球を記録した榊がコントロールの良いピッチャーだとは…


「私わかります(^ ^)」


「んじゃ、何だってんだよ?」


「篁選手はこの打席、スライダーの連投で抑える事が出来ますち!」


「んなバカな!」


「んだな(^^)」


どうなる事やら。
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