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5月 交流戦前
右の最高打者
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【3番セカンド 鬼束…背番号5】
一難去ってまた一難、お次は鬼束の登場だ。
麻生は先程のピッチャーライナーの恐怖が抜け切ってないのか、少しオドオドしている。
「あのヤロー、ピッチャーライナーごときで何をビビってんだよ!」
ベンチでその様子を見ていた榊がマウンドに向かおうとしていた。
「ちょっと待った!アンタが行く必要ねぇよ」
「何っ!」
「オレが行ってくる」
ヘッドコーチの財前が榊を制してマウンドに向かった。
マウンド上にはバッテリーを組む比村とキャプテンの石川が麻生に声を掛けている。
「おい、ミツル!しっかりしろよ!」
「麻生さん、落ち着いていきましょう」
「ア、アホぉ!あんな恐ろしい打球が目の前に来たら落ち着いてられるか!」
傍若無人な振る舞いをしていた時とは打って変わって、ビビりな本性を見せた。
「コリャ、ダメだな」
「これじゃ打たれますよね…替えてもらった方がいいかも」
二人は交代もやむ無しと思った。
「おい、待て待て!まだツーアウトしか取ってないのに、交代なんて出来るか!」
財前が駆け寄る。
「でも、これじゃムリっすよ」
恐怖で全身が強ばっている。
「ったく、しょうがねぇな」
そう言うと、財前は麻生の耳元で囁いた。
「お前よォ、ここでマウンドを下りたらどうなるか分かってるよな?今後一切、一軍には上げないからな!それでもいいのか、あぁ?」
「そ、それは困る!ワシはこれから二刀流として、球界を代表する選手になるんじゃあ!それだけは許してつかぁさい!」
「だったら、あれしきの当たりでオドオドしてんじゃねぇ!それと、この打席で打たれたら…タダじゃ済まさねえからな!」
脳裏に榊をはじめとする、武闘派の首脳陣による地獄のスパーリングが過ぎった。
プロレスの入門生でさえ、味わう事が不可能なシゴキが待っている。
「い、嫌じゃ!それだけは嫌じゃ!ワシはプロレスラーじゃないけん!それだけは勘弁を!」
「だったら、さっさと抑えてチェンジにしろ!」
「ハ、ハイっ!」
榊や畑中にボコられても悪態をつく麻生だが、財前にだけは頭が上がらない。
何故なのか、それは後に知る事となる。
財前はベンチに戻り、プレーが再開された。
「何としてでも、ここを抑えにゃ」
気を取り直し、深呼吸をする。
打席では鬼束がバットを上段に構えて微動だにせず。
唐澤、結城のような自然体の構えとは真逆に足を大きく開き、ドッシリと腰を落とす構えは力強く見える。
打席で力みやすいタイプで、自分なりにリラックスした構えを試行錯誤したが、どれも効果無く、たどり着いた答えが、
「どうせ力むのなら、初めから力んだ構えにすればいい」
という結論に落ち着き、独特なフォームになったという。
それが今では、マーリンズの羽田と共に
【現役最高の右バッター】とまで称される程の選手にまで成長した。
リードをする比村はストレート主体の配球に変えた。
まずは初球、アウトコースギリギリに155km/hのストレートを投げた。
これは僅かに外れてボールワン。
どうやらピッチャーライナーの恐怖は収まりつつある。
2球目、これもストレートでインコースに決まった。
カウントはワンボール、ワンストライク。
次も速球でいくのか。
麻生のストレートはナチュラルに変化する。
所謂クセ球という呼び名で知られ、芯を外して打ち取るのが特徴。
3球目はインコースを抉るスライダーにバットを合わせるが、打球は切れてファール。
ツーストライクと追い込んだ。
(次はこれでいこう)
比村のサインに頷き、4球目を投じた。
152km/hの膝元へズバッと決まる、クロスファイヤーボールだ。
鬼束はバットを出すタイミングがコンマ数秒遅れた。
「クソッ、遅かったか…」
打った瞬間に凡打だと確信した。
打球はセンターに飛ぶが、差し込まれてクロフォードがガッチリ掴んでスリーアウトチェンジ。
「ようやくチェンジか…長かったわぃ」
これでスリーアウトチェンジ。
長く感じた1回の裏がようやく終了した。
一難去ってまた一難、お次は鬼束の登場だ。
麻生は先程のピッチャーライナーの恐怖が抜け切ってないのか、少しオドオドしている。
「あのヤロー、ピッチャーライナーごときで何をビビってんだよ!」
ベンチでその様子を見ていた榊がマウンドに向かおうとしていた。
「ちょっと待った!アンタが行く必要ねぇよ」
「何っ!」
「オレが行ってくる」
ヘッドコーチの財前が榊を制してマウンドに向かった。
マウンド上にはバッテリーを組む比村とキャプテンの石川が麻生に声を掛けている。
「おい、ミツル!しっかりしろよ!」
「麻生さん、落ち着いていきましょう」
「ア、アホぉ!あんな恐ろしい打球が目の前に来たら落ち着いてられるか!」
傍若無人な振る舞いをしていた時とは打って変わって、ビビりな本性を見せた。
「コリャ、ダメだな」
「これじゃ打たれますよね…替えてもらった方がいいかも」
二人は交代もやむ無しと思った。
「おい、待て待て!まだツーアウトしか取ってないのに、交代なんて出来るか!」
財前が駆け寄る。
「でも、これじゃムリっすよ」
恐怖で全身が強ばっている。
「ったく、しょうがねぇな」
そう言うと、財前は麻生の耳元で囁いた。
「お前よォ、ここでマウンドを下りたらどうなるか分かってるよな?今後一切、一軍には上げないからな!それでもいいのか、あぁ?」
「そ、それは困る!ワシはこれから二刀流として、球界を代表する選手になるんじゃあ!それだけは許してつかぁさい!」
「だったら、あれしきの当たりでオドオドしてんじゃねぇ!それと、この打席で打たれたら…タダじゃ済まさねえからな!」
脳裏に榊をはじめとする、武闘派の首脳陣による地獄のスパーリングが過ぎった。
プロレスの入門生でさえ、味わう事が不可能なシゴキが待っている。
「い、嫌じゃ!それだけは嫌じゃ!ワシはプロレスラーじゃないけん!それだけは勘弁を!」
「だったら、さっさと抑えてチェンジにしろ!」
「ハ、ハイっ!」
榊や畑中にボコられても悪態をつく麻生だが、財前にだけは頭が上がらない。
何故なのか、それは後に知る事となる。
財前はベンチに戻り、プレーが再開された。
「何としてでも、ここを抑えにゃ」
気を取り直し、深呼吸をする。
打席では鬼束がバットを上段に構えて微動だにせず。
唐澤、結城のような自然体の構えとは真逆に足を大きく開き、ドッシリと腰を落とす構えは力強く見える。
打席で力みやすいタイプで、自分なりにリラックスした構えを試行錯誤したが、どれも効果無く、たどり着いた答えが、
「どうせ力むのなら、初めから力んだ構えにすればいい」
という結論に落ち着き、独特なフォームになったという。
それが今では、マーリンズの羽田と共に
【現役最高の右バッター】とまで称される程の選手にまで成長した。
リードをする比村はストレート主体の配球に変えた。
まずは初球、アウトコースギリギリに155km/hのストレートを投げた。
これは僅かに外れてボールワン。
どうやらピッチャーライナーの恐怖は収まりつつある。
2球目、これもストレートでインコースに決まった。
カウントはワンボール、ワンストライク。
次も速球でいくのか。
麻生のストレートはナチュラルに変化する。
所謂クセ球という呼び名で知られ、芯を外して打ち取るのが特徴。
3球目はインコースを抉るスライダーにバットを合わせるが、打球は切れてファール。
ツーストライクと追い込んだ。
(次はこれでいこう)
比村のサインに頷き、4球目を投じた。
152km/hの膝元へズバッと決まる、クロスファイヤーボールだ。
鬼束はバットを出すタイミングがコンマ数秒遅れた。
「クソッ、遅かったか…」
打った瞬間に凡打だと確信した。
打球はセンターに飛ぶが、差し込まれてクロフォードがガッチリ掴んでスリーアウトチェンジ。
「ようやくチェンジか…長かったわぃ」
これでスリーアウトチェンジ。
長く感じた1回の裏がようやく終了した。
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