Baseball Freak 主砲の一振り 7

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5月 交流戦前

強烈な打球

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午後6時、主審の手が挙がりプレーボール。

トップバッターの室井が左打席に入った。


麻生の性格からして、初球はストレートに違いないと読んだ。


(ストライクゾーンに入ったら、打ち返すのみ)


俊足好打の室井だが、一発長打を秘めたパワーも持ち合わせている。


「さてと、ボチボチやったるかのぉ」


ニヤリと笑みを浮かべ、第1球を投げた。


真ん中やや内よりのハーフスピードな球だ。


(もらったぜ!)


好球必打とばかりに室井はスイング。


「なっ、…」


しかし、ストレートと読んだボールは手元で小さく内側にくい込みながら沈んだ。


芯を外され、掠ったような当たりはボテボテとしたセカンドゴロ。


石川が捕って一塁へ送球。


「アウト!」


たった1球でアウト、しかもプレーボール直後の初球だ。


「くっ…」


僅か1球で凡打した室井は赤っ恥をかいたようで、顔を真っ赤にしながら逃げるようにベンチに引っ込んだ。



「ストレートと読まれて、ストレートを投げるアホぉがおるか!」


麻生はしてやったりとほくそ笑んだ。



「アイツ、バカだけど野球脳は良いみたいだな」


(アンタの現役時代ソックリだよ!)


畑中打撃総合コーチは心の中で突っ込んだ。






【2番センター 唐澤…背番号1】


ここからがブレーブス打線の恐いところだ。


昨年までチームメイトだった唐澤が敵となって打席に立つ。


尊敬する櫻井や結城の野球観に共鳴し、ブレーブスに移籍。


Glanz時代は茶髪にピアスを付けていたが、ブレーブスは【長髪 染色 ヒゲ ピアス等の装飾品禁止】というルールがある。


「ファッションで野球をやりたければ、他の球団に行け」

というのが櫻井監督をはじめとする、首脳陣やキャプテン結城の総意でもある。


そのルールに従い、黒に染め直し、短髪にピアスを外した。



「ほぉ、野球エリートのお出ましか。
天才ってのは、ぶちスゴイんじゃろうかの?」


麻生はエリートではない。


それ故に、唐澤のような天才と持て囃される選手を異常に毛嫌いする。



対する唐澤は力感の無い、自然体の構えで待ち構える。


今年からバッティンググローブを外し、素手でバットを振るようになった。


これも結城の影響で、次のバッター鬼束も結城に倣って素手でバットを振る。


打球の感触を確かめるのに手袋は不要、と打撃を追求する結城ならではの考えだ。



一見するとスキだらけの構えだが、スイングの始動時は凄まじい瞬発力でバットを振り抜く。



その佇まいに麻生も気づいたのか、この対決は麻生自らサインを出した。



サインが決まり、躍動感溢れるフォームから初球を投げた。


インコースへズバッと決まる153km/hのストレートだ。


「ストライクワン!」


唐澤は微動だにせず、ボールを見送った。



「気に入らん見送り方じゃのぉ」


何か引っかかる、そう思ったのだろう。


2球目はカーブが外れてワンボール。


唐澤はまだバットを振ってない。


3球目、外に流れるスライダーに手を出すが左に切れてファール。


カウントはワンボール、ツーストライク。


今度はキャッチャーの比村がサインを出した。


麻生はキャッチャーのサインに首を振らない。


その代わり、絶対に信頼出来るというキャッチャーとしかバッテリーを組まない。


それだけ比村に全幅の信頼を寄せているのだろう。


そして4球目、インコース低めいっぱいに154km/hのストレートを投じた。


だが麻生は投げた瞬間、(しまった!)と本能的に感じた。


それまでの唐澤とは一転して、獲物を狙うかの様な目つきで、脱力の状態から瞬時にバットを振り抜いた。


肉眼では捉えきれない程、高速のスイングから弾き出された打球はライナーで麻生を襲う。


「うわっ…」


咄嗟の判断で顔面をグラブで覆ったが、そこへ強烈な打球がバシーン!と突き刺さった。


「アウトっ!」


グラブが無かったら、顔面に直撃していた。


右手がビリビリと痺れる。


だがそれ以上に身の毛がよだつ程の恐怖を感じた。


(グラブが無かったら…なんちゅう打球じゃ…)



野球をやっていて、初めて恐さを感じた瞬間だった。


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