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5月 交流戦前
強烈な打球
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午後6時、主審の手が挙がりプレーボール。
トップバッターの室井が左打席に入った。
麻生の性格からして、初球はストレートに違いないと読んだ。
(ストライクゾーンに入ったら、打ち返すのみ)
俊足好打の室井だが、一発長打を秘めたパワーも持ち合わせている。
「さてと、ボチボチやったるかのぉ」
ニヤリと笑みを浮かべ、第1球を投げた。
真ん中やや内よりのハーフスピードな球だ。
(もらったぜ!)
好球必打とばかりに室井はスイング。
「なっ、…」
しかし、ストレートと読んだボールは手元で小さく内側にくい込みながら沈んだ。
芯を外され、掠ったような当たりはボテボテとしたセカンドゴロ。
石川が捕って一塁へ送球。
「アウト!」
たった1球でアウト、しかもプレーボール直後の初球だ。
「くっ…」
僅か1球で凡打した室井は赤っ恥をかいたようで、顔を真っ赤にしながら逃げるようにベンチに引っ込んだ。
「ストレートと読まれて、ストレートを投げるアホぉがおるか!」
麻生はしてやったりとほくそ笑んだ。
「アイツ、バカだけど野球脳は良いみたいだな」
(アンタの現役時代ソックリだよ!)
畑中打撃総合コーチは心の中で突っ込んだ。
【2番センター 唐澤…背番号1】
ここからがブレーブス打線の恐いところだ。
昨年までチームメイトだった唐澤が敵となって打席に立つ。
尊敬する櫻井や結城の野球観に共鳴し、ブレーブスに移籍。
Glanz時代は茶髪にピアスを付けていたが、ブレーブスは【長髪 染色 ヒゲ ピアス等の装飾品禁止】というルールがある。
「ファッションで野球をやりたければ、他の球団に行け」
というのが櫻井監督をはじめとする、首脳陣やキャプテン結城の総意でもある。
そのルールに従い、黒に染め直し、短髪にピアスを外した。
「ほぉ、野球エリートのお出ましか。
天才ってのは、ぶちスゴイんじゃろうかの?」
麻生はエリートではない。
それ故に、唐澤のような天才と持て囃される選手を異常に毛嫌いする。
対する唐澤は力感の無い、自然体の構えで待ち構える。
今年からバッティンググローブを外し、素手でバットを振るようになった。
これも結城の影響で、次のバッター鬼束も結城に倣って素手でバットを振る。
打球の感触を確かめるのに手袋は不要、と打撃を追求する結城ならではの考えだ。
一見するとスキだらけの構えだが、スイングの始動時は凄まじい瞬発力でバットを振り抜く。
その佇まいに麻生も気づいたのか、この対決は麻生自らサインを出した。
サインが決まり、躍動感溢れるフォームから初球を投げた。
インコースへズバッと決まる153km/hのストレートだ。
「ストライクワン!」
唐澤は微動だにせず、ボールを見送った。
「気に入らん見送り方じゃのぉ」
何か引っかかる、そう思ったのだろう。
2球目はカーブが外れてワンボール。
唐澤はまだバットを振ってない。
3球目、外に流れるスライダーに手を出すが左に切れてファール。
カウントはワンボール、ツーストライク。
今度はキャッチャーの比村がサインを出した。
麻生はキャッチャーのサインに首を振らない。
その代わり、絶対に信頼出来るというキャッチャーとしかバッテリーを組まない。
それだけ比村に全幅の信頼を寄せているのだろう。
そして4球目、インコース低めいっぱいに154km/hのストレートを投じた。
だが麻生は投げた瞬間、(しまった!)と本能的に感じた。
それまでの唐澤とは一転して、獲物を狙うかの様な目つきで、脱力の状態から瞬時にバットを振り抜いた。
肉眼では捉えきれない程、高速のスイングから弾き出された打球はライナーで麻生を襲う。
「うわっ…」
咄嗟の判断で顔面をグラブで覆ったが、そこへ強烈な打球がバシーン!と突き刺さった。
「アウトっ!」
グラブが無かったら、顔面に直撃していた。
右手がビリビリと痺れる。
だがそれ以上に身の毛がよだつ程の恐怖を感じた。
(グラブが無かったら…なんちゅう打球じゃ…)
野球をやっていて、初めて恐さを感じた瞬間だった。
トップバッターの室井が左打席に入った。
麻生の性格からして、初球はストレートに違いないと読んだ。
(ストライクゾーンに入ったら、打ち返すのみ)
俊足好打の室井だが、一発長打を秘めたパワーも持ち合わせている。
「さてと、ボチボチやったるかのぉ」
ニヤリと笑みを浮かべ、第1球を投げた。
真ん中やや内よりのハーフスピードな球だ。
(もらったぜ!)
好球必打とばかりに室井はスイング。
「なっ、…」
しかし、ストレートと読んだボールは手元で小さく内側にくい込みながら沈んだ。
芯を外され、掠ったような当たりはボテボテとしたセカンドゴロ。
石川が捕って一塁へ送球。
「アウト!」
たった1球でアウト、しかもプレーボール直後の初球だ。
「くっ…」
僅か1球で凡打した室井は赤っ恥をかいたようで、顔を真っ赤にしながら逃げるようにベンチに引っ込んだ。
「ストレートと読まれて、ストレートを投げるアホぉがおるか!」
麻生はしてやったりとほくそ笑んだ。
「アイツ、バカだけど野球脳は良いみたいだな」
(アンタの現役時代ソックリだよ!)
畑中打撃総合コーチは心の中で突っ込んだ。
【2番センター 唐澤…背番号1】
ここからがブレーブス打線の恐いところだ。
昨年までチームメイトだった唐澤が敵となって打席に立つ。
尊敬する櫻井や結城の野球観に共鳴し、ブレーブスに移籍。
Glanz時代は茶髪にピアスを付けていたが、ブレーブスは【長髪 染色 ヒゲ ピアス等の装飾品禁止】というルールがある。
「ファッションで野球をやりたければ、他の球団に行け」
というのが櫻井監督をはじめとする、首脳陣やキャプテン結城の総意でもある。
そのルールに従い、黒に染め直し、短髪にピアスを外した。
「ほぉ、野球エリートのお出ましか。
天才ってのは、ぶちスゴイんじゃろうかの?」
麻生はエリートではない。
それ故に、唐澤のような天才と持て囃される選手を異常に毛嫌いする。
対する唐澤は力感の無い、自然体の構えで待ち構える。
今年からバッティンググローブを外し、素手でバットを振るようになった。
これも結城の影響で、次のバッター鬼束も結城に倣って素手でバットを振る。
打球の感触を確かめるのに手袋は不要、と打撃を追求する結城ならではの考えだ。
一見するとスキだらけの構えだが、スイングの始動時は凄まじい瞬発力でバットを振り抜く。
その佇まいに麻生も気づいたのか、この対決は麻生自らサインを出した。
サインが決まり、躍動感溢れるフォームから初球を投げた。
インコースへズバッと決まる153km/hのストレートだ。
「ストライクワン!」
唐澤は微動だにせず、ボールを見送った。
「気に入らん見送り方じゃのぉ」
何か引っかかる、そう思ったのだろう。
2球目はカーブが外れてワンボール。
唐澤はまだバットを振ってない。
3球目、外に流れるスライダーに手を出すが左に切れてファール。
カウントはワンボール、ツーストライク。
今度はキャッチャーの比村がサインを出した。
麻生はキャッチャーのサインに首を振らない。
その代わり、絶対に信頼出来るというキャッチャーとしかバッテリーを組まない。
それだけ比村に全幅の信頼を寄せているのだろう。
そして4球目、インコース低めいっぱいに154km/hのストレートを投じた。
だが麻生は投げた瞬間、(しまった!)と本能的に感じた。
それまでの唐澤とは一転して、獲物を狙うかの様な目つきで、脱力の状態から瞬時にバットを振り抜いた。
肉眼では捉えきれない程、高速のスイングから弾き出された打球はライナーで麻生を襲う。
「うわっ…」
咄嗟の判断で顔面をグラブで覆ったが、そこへ強烈な打球がバシーン!と突き刺さった。
「アウトっ!」
グラブが無かったら、顔面に直撃していた。
右手がビリビリと痺れる。
だがそれ以上に身の毛がよだつ程の恐怖を感じた。
(グラブが無かったら…なんちゅう打球じゃ…)
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