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オープン戦

バットを振らない

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スカイウォーカーズの先発は一昨年のドラフト1位で昨シーズンはオールスター明けから一軍に定着した東山。


対するキングダムはアンダースローの井上。


財前は3番センターで、翔田は4番センターでスタメン出場する。



1回の表、先発の井上は1番、2番を難なく打ち取り、ツーアウトで3番財前を迎える。


【3番センター財前 背番号10】

歓声が一際大きくなり、ドーム内に響く。


メイプルの材質を使った、有名スポーツブランドと共同した黒のミドルバランス【財前モデル】と呼ばれるバットを手に、ゆっくりと打席に向かう。


左打席のベース寄りに立ち、やや前傾で左肩の後ろでバットを垂直に構えたまま動かない。

打席では余計な動きは一切せず、来たボールを鋭く振り抜くのが財前のバッティングだ。


マウンド上の井上は投げづらい様子なのか、少し落ち着きが無い。


対して財前は不動の構えでビクともしない。


初球はインサイドに外れるスライダー、ワンボール。

二球目は128km/hの浮き上がるストレートがアウトコースに決まり、ワンボール、ワンストライク。


三球目は外角に落とすシンカー、これを見送り、ツーボール、ワンストライク。


四球目はインコース低めにストレートが決まり、ツーナッシング。


五球目は高目に外し、フルカウント。


六球目はアウトコースへズバッとストレートが決まり、見逃しの三振。

財前は一度もバットを振ること無く、一打席目を終えた。




一方、キングダムは先発東山の前にランナーは出すものの、要所を抑えられ無得点が続く。



そして3回の表、財前に打席が回った。


第一打席と同じく、左打席に入りビタっと不動の構えをする。


井上はコースギリギリを突くピッチングで、たちまちツーナッシングと追い込んだ。


五球目は外角に沈むシンカー。


だが、財前は見送る。


ここまで一度もバットを振らない。


【何やってんだよ、財前!】


【バット振らなきゃ、ヒット打てないだろうが!】


【テメー、この試合一度もバットを振らないつもりかよ!】


スタンドからは財前に対するヤジが飛び交う。


結局、第二打席も見逃しの三振に終わった。


東山は4回を投げ、被安打3 1四球 2奪三振でマウンドを降りた。


後を継いだのは、今年から新加入した片岡・ヘインズ・アクーニャ、登録名はアクーニャ。

ストレートしか投げないアクーニャは、最速153km/hのフォーシームとクチージョと呼ばれる、高速のカットボールで打者を圧倒する。


特に翔田の打席では、クチージョとマスターしたばかりのツーシーム、通称【lanza(ランサ 槍の事)】でバットをへし折る。



「おい、見たか今の?」


榊が隣の中田に聞いた。


「打ちづらそうだったな」


翔田はアクーニャの投げる球にタイミングが合ってなかった。


「ねぇ、榊さん。
アクーニャは翔田キラーとして使ったらどう?」


水卜が提案した。


「おぉー、イイネそれ!」


「翔田くんはこの打席で退くのかしら?」


「浅野の事だ、次の打席も打たせるつもりだろ」


榊と浅野はかつてはキングダムでチームメイトだった。

それだけに、相手の事は手に取るように分かる。


「だったら、アクーニャを引っ込めないでレフトかファーストを守らせて、翔田くんの打席になったらマウンドに上げればいいんじゃない?」


翔田キラーに相応しいかどうか、次の打席で見極めるつもりだ。


「おぉ、なる程!舞、お前頭良いな!」


榊には思いつかない起用法だ。



そして6回の表、財前の第三打席を迎える。


マウンド上は井上から左の中継ぎ 森元。


今度は右打席に入り、左打席と全く同じフォームで微動だにしない。


この打席も財前は一度もバットを振らない。


再びスタンドからはブーイングが飛び交う。


【バット振れ】


とヤジが飛ぶ。


結局、財前はアウトローへの直球で三打席連続三振という、一度もバットを振ること無く終了した。


ベンチに引き揚げると、櫻井が叱責する。


「財前くん、何故一度もバットを振らないんだ!」


「何故って…だって、オープン戦でしょ?金にならない事やってんだから、バットなんざ振りたくもないっつーの!」


「オープン戦とは言え、キミを観にわざわざ球場まで足を運ぶファンがいるんだぞ!
それなのに、一度もバットを振らないなんて」


「ハッ、オレはオレの為に野球をやってるんだ!ファンの為?綺麗事言うんじゃねえよ」


財前はストライクゾーンを確認する為にバットを振らなかった。


オープン戦はあくまでもストライクゾーンを見極める為。

打つのは二の次という考えだ。



「もしかして、日本のピッチャーがあまりにもレベルが高すぎて、手が出なかったんじゃないのかな~」


唐澤がイヤミを言う。


「おい、クソガキ…何が日本のピッチャーはレベルが高いだ?
バカ言ってんじゃねぇぞ」


「だったら打ってみなよ、オッサン」


「テメー…」


財前が立ち上がり、唐澤に向かって突進する。


「止めろ、おい!」


畑中が身を挺して防いだ。


「おい、離せ!あのクソガキ、ボコボコにしてやる!」


随分と血の気が多い男だ。


「全く…いい年して、大人気ない」


「何ぃ?」


これもタイマンでケリを着けるのだろうか。

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