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キャンプイン
オレが3番で、お前は1番だ!
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「おい、ピッチャー代われ!」
財前が左の打撃投手に交代させ、右打席に入った。
「ほー、左の時と全く同じフォームだな」
まるで鏡でも見ているかの様に、左打席と全くフォームでグリップの位置まで寸分の狂いもない。
「右だと、どんなバッティングをするんだか…」
畑中は興味津々だ。
打撃投手が初球を投げた。
だが財前はバットを振らずに見送る。
「ほぅ、なる程な」
ウンウンと頷き、再び構える。
二球目も見送る。
「んー、こんな感じだろう」
どうやら、ストライクゾーンの確認をしているみたいだ。
日本とメジャーではストライクゾーンが若干違う。
ボールにすれば約一個分の差なのだが、毎年の様に助っ人外国人選手が来日しては、このストライクゾーンの違いに苦しむケースが多い。
三球目を投げた。
財前は軽くスゥイングした。
打球は右に低いライナーが飛び、一塁ベースに当たった。
「おい、まさか右でもこんな事が出来るのかよ?」
「スゴい…」
いつしかゲージの後ろは人集りで、財前のバッティングに注目した。
「フッ、このぐらいの事で驚いちゃ困るぜ」
一塁の次は二塁、二塁の次は三塁、といった感じで次々とベースに打球を当てる。
「さて、そろそろオーバーフェンスといくか」
ヒュン、と素早くスゥイングをすると、打球はレフトスタンドまで運んだ。
「次はライトスタンドの最前列」
今度は逆らわず右に流した。
打球はグーンと伸びて、ライトスタンドギリギリに入った。
「次はレフトスタンド中段」
その言葉通り、打球はレフトスタンド中段へ。
「こんなにも、正確にバットコントロール出来るとは…メジャーってのは、こういう連中の集まりなのか?」
野球の最高峰、メジャーリーグは底が見えない。
「メジャーったってよ、全部が全部、オレみたいな事が出来るってワケじゃねえんだよ。
長打ならば長打、脚が速けりゃ脚を生かす。
速球が自慢なら速球に磨きをかけて、自分のスタイルにするんだ。
それが、メジャーで生き延びる方法ってヤツだ」
財前はマイナーリーグで2年間、ひたすらバットコントロールに磨きをかけた。
このバットコントロールがあれば、どんな場面でも思い通りのコースへ打ち返す事が可能だ。
財前がメジャーで首位打者を獲得したのは、類まれなるバットコントロールのお陰だ。
加えて投手出身という事もあり、強靭なリストのお陰でスタンドに運ぶ力も兼ね備えている。
「よし、これでラストだ!」
最後は場外へ、推定140mの特大アーチを放った。
「オレよりも飛距離がありそうだ…」
チーム1の飛ばし屋、毒島が呆気にとられている。
「これでよしっ」
財前は打撃練習を終え、ゲージを出た。
「さすが現役メジャーリーガー。
まさか、あんなに狙って打てるとは」
畑中がパチパチと拍手をした。
「拍手する程の事でもないでしょう」
財前はさも当然と言った表情をする。
「いや、しかし狙って打てるなんて、そうそう出来る事じゃないぞ」
「だって、所詮はバッピ(バッティングピッチャー)の投げる球でしょ?
問題は試合でどのくらい狙って打てるか…
狙って打っても、せいぜい3割がいいところ」
財前は状況に応じたバッティングをする。
長打が欲しい場面では長打を狙い、繋ぐバッティングが必要ならば流し打ちと言った具合に。
「…」
結城は何か言いたそうな顔をしている。
「おぅ、そうだ」
財前が結城に近づいた。
「お前、このチームで3番を打ってるらしいな」
「それは去年の事です…今年は何番を打つのか、監督やコーチが決める事ですし」
素っ気なく答える。
「じゃあ、オレが決めてやる。お前は1番を打て!
3番はオレが打つ」
【えぇーっ!!】
周りが一様に驚く。
「アナタが3番を打ちたいと言っても、それを決めるのは首脳陣です。
首脳陣はアナタに1番を任せようとしてますが…」
「オレがリードオフマンだと?」
櫻井は財前をトップバッターで起用するつもりだ。
「残念ながら、アナタが3番を打つ事は難しいでしょうね…
監督やコーチの起用法に逆らう事は出来ません。
大人しく1番を打ってください」
フフっと微笑を浮かべた。
「バカ言ってんじゃねぇ、オレはメジャーでも3番を打ってたんだ!
今更リードオフマンなんて、出来るかっ!」
「出来るかって言われても…
それがチームの事情というヤツですよ」
「何がチーム事情だ…
オレを3番に置けば、得点能力が高くなるんだ!
それなのに、1番だと?」
財前は納得しない。
それどころか、1番は結城が打てと命令する。
「誰だ、こんな打順を考えたのは!
監督か?」
「監督じゃありません…打順に関しては、櫻井ヘッドコーチが決めているのです」
「ほぅ、そうか…ならば、オレが直接言って打順を変更してもらおう」
財前は外野にいる櫻井の下へ向かった。
「財前さん、何をする気ですか?」
結城が財前の右腕を掴んだ。
「何だ、この手は?」
「いい加減にして下さい!このチームは、アナタの為のチームでは無いんですっ!」
「オレのチームだろ」
事も無げに言い返す。
「なっ…」
あまりにも自分勝手過ぎる発言に、結城は言葉を失う。
「初日に言ったろ?くれぐれもオレの足を引っ張る様なマネだけはするなっ、てな」
「おい、財前!お前、あんまりチサトを怒らせない方がいいぞ。
コイツは今でこそ、球界のジェントルマンと呼ばれているが、昔はとんでもねぇヤンキーだったんだぞ。
キレたら、お前なんかあっという間に秒殺だぞ!」
堪りかねて畑中が口を挟んだ。
「ヤンキーだと?冗談じゃねぇ!
コッチは本場のヤンキー相手に、一歩も引かずに渡り合ってきたんだ!
ニセモノのヤンキーなんざ、恐くねえんだよ!」
徐々に結城の目が吊り上がってきた。
後一歩で爆発寸前というところか。
すると、外野から中田コーチがやって来た。
「おーい、どうした?
まさか、ケンカでもしてるんじゃないだろうな?」
飄々とした表情で間に割って入った。
財前が左の打撃投手に交代させ、右打席に入った。
「ほー、左の時と全く同じフォームだな」
まるで鏡でも見ているかの様に、左打席と全くフォームでグリップの位置まで寸分の狂いもない。
「右だと、どんなバッティングをするんだか…」
畑中は興味津々だ。
打撃投手が初球を投げた。
だが財前はバットを振らずに見送る。
「ほぅ、なる程な」
ウンウンと頷き、再び構える。
二球目も見送る。
「んー、こんな感じだろう」
どうやら、ストライクゾーンの確認をしているみたいだ。
日本とメジャーではストライクゾーンが若干違う。
ボールにすれば約一個分の差なのだが、毎年の様に助っ人外国人選手が来日しては、このストライクゾーンの違いに苦しむケースが多い。
三球目を投げた。
財前は軽くスゥイングした。
打球は右に低いライナーが飛び、一塁ベースに当たった。
「おい、まさか右でもこんな事が出来るのかよ?」
「スゴい…」
いつしかゲージの後ろは人集りで、財前のバッティングに注目した。
「フッ、このぐらいの事で驚いちゃ困るぜ」
一塁の次は二塁、二塁の次は三塁、といった感じで次々とベースに打球を当てる。
「さて、そろそろオーバーフェンスといくか」
ヒュン、と素早くスゥイングをすると、打球はレフトスタンドまで運んだ。
「次はライトスタンドの最前列」
今度は逆らわず右に流した。
打球はグーンと伸びて、ライトスタンドギリギリに入った。
「次はレフトスタンド中段」
その言葉通り、打球はレフトスタンド中段へ。
「こんなにも、正確にバットコントロール出来るとは…メジャーってのは、こういう連中の集まりなのか?」
野球の最高峰、メジャーリーグは底が見えない。
「メジャーったってよ、全部が全部、オレみたいな事が出来るってワケじゃねえんだよ。
長打ならば長打、脚が速けりゃ脚を生かす。
速球が自慢なら速球に磨きをかけて、自分のスタイルにするんだ。
それが、メジャーで生き延びる方法ってヤツだ」
財前はマイナーリーグで2年間、ひたすらバットコントロールに磨きをかけた。
このバットコントロールがあれば、どんな場面でも思い通りのコースへ打ち返す事が可能だ。
財前がメジャーで首位打者を獲得したのは、類まれなるバットコントロールのお陰だ。
加えて投手出身という事もあり、強靭なリストのお陰でスタンドに運ぶ力も兼ね備えている。
「よし、これでラストだ!」
最後は場外へ、推定140mの特大アーチを放った。
「オレよりも飛距離がありそうだ…」
チーム1の飛ばし屋、毒島が呆気にとられている。
「これでよしっ」
財前は打撃練習を終え、ゲージを出た。
「さすが現役メジャーリーガー。
まさか、あんなに狙って打てるとは」
畑中がパチパチと拍手をした。
「拍手する程の事でもないでしょう」
財前はさも当然と言った表情をする。
「いや、しかし狙って打てるなんて、そうそう出来る事じゃないぞ」
「だって、所詮はバッピ(バッティングピッチャー)の投げる球でしょ?
問題は試合でどのくらい狙って打てるか…
狙って打っても、せいぜい3割がいいところ」
財前は状況に応じたバッティングをする。
長打が欲しい場面では長打を狙い、繋ぐバッティングが必要ならば流し打ちと言った具合に。
「…」
結城は何か言いたそうな顔をしている。
「おぅ、そうだ」
財前が結城に近づいた。
「お前、このチームで3番を打ってるらしいな」
「それは去年の事です…今年は何番を打つのか、監督やコーチが決める事ですし」
素っ気なく答える。
「じゃあ、オレが決めてやる。お前は1番を打て!
3番はオレが打つ」
【えぇーっ!!】
周りが一様に驚く。
「アナタが3番を打ちたいと言っても、それを決めるのは首脳陣です。
首脳陣はアナタに1番を任せようとしてますが…」
「オレがリードオフマンだと?」
櫻井は財前をトップバッターで起用するつもりだ。
「残念ながら、アナタが3番を打つ事は難しいでしょうね…
監督やコーチの起用法に逆らう事は出来ません。
大人しく1番を打ってください」
フフっと微笑を浮かべた。
「バカ言ってんじゃねぇ、オレはメジャーでも3番を打ってたんだ!
今更リードオフマンなんて、出来るかっ!」
「出来るかって言われても…
それがチームの事情というヤツですよ」
「何がチーム事情だ…
オレを3番に置けば、得点能力が高くなるんだ!
それなのに、1番だと?」
財前は納得しない。
それどころか、1番は結城が打てと命令する。
「誰だ、こんな打順を考えたのは!
監督か?」
「監督じゃありません…打順に関しては、櫻井ヘッドコーチが決めているのです」
「ほぅ、そうか…ならば、オレが直接言って打順を変更してもらおう」
財前は外野にいる櫻井の下へ向かった。
「財前さん、何をする気ですか?」
結城が財前の右腕を掴んだ。
「何だ、この手は?」
「いい加減にして下さい!このチームは、アナタの為のチームでは無いんですっ!」
「オレのチームだろ」
事も無げに言い返す。
「なっ…」
あまりにも自分勝手過ぎる発言に、結城は言葉を失う。
「初日に言ったろ?くれぐれもオレの足を引っ張る様なマネだけはするなっ、てな」
「おい、財前!お前、あんまりチサトを怒らせない方がいいぞ。
コイツは今でこそ、球界のジェントルマンと呼ばれているが、昔はとんでもねぇヤンキーだったんだぞ。
キレたら、お前なんかあっという間に秒殺だぞ!」
堪りかねて畑中が口を挟んだ。
「ヤンキーだと?冗談じゃねぇ!
コッチは本場のヤンキー相手に、一歩も引かずに渡り合ってきたんだ!
ニセモノのヤンキーなんざ、恐くねえんだよ!」
徐々に結城の目が吊り上がってきた。
後一歩で爆発寸前というところか。
すると、外野から中田コーチがやって来た。
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