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キャンプイン
ドラ1以上の期待
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その後も財前は高梨にリターンマッチを挑む。
だが、何度やっても得意の投げ技で叩きつけられ文字通り土を付けられる。
「ふざけんなっ!おい、高梨!テメー、このまま勝ち逃げするんじゃねえだろうなっ!」
「いつでもリターンマッチは受けて立つ!そんな事よりも、お前は開幕に合わせて調整しろ!」
本気でやれば、財前は全治数ヶ月の大ケガを負うところだが、GMとしてそれだけは避けたい。
力を加減して投げているのだが、それでも有段者の投げは破壊力抜群だ。
キャンプインから一週間が経過した。
財前は相変わらずの俺様発言だが、やる事はしっかりやる。
さすがメジャーで首位打者を獲得し、MVPにも輝いた選手だけあって、パワフル且つスピーディな動きに釘付けだ。
財前だけではなく、ドラフト1位の森高も10年に一人の逸材として特守特打を難なくこなし、ルーキーとは思えない程の身体能力とスタミナを併せ持つ。
榊はドラフト2位の桐生が、ブルペンで投げる様子をジッと見ている。
バスーン!とミットに収まるキレの良いボール。
時折、「うんうん」と頷きながら満足気な表情を浮かべていた。
投手出身だけあって、投手力が一番大事だという事を誰よりも熟知している。
桐生の球を見ているうちに、榊は打席に立って体感してみようと思い、左打席に入った。
「おーっし、桐生!オレが打席に入ったからと言って、遠慮する事は無いぞ!ドンドン投げてみろ!」
「ハイっ!」
向こう気の強い面構えで、卒業を控えた高校生とは思えない程の度胸のあるマウンド捌き。
榊はドラ1の森高よりも桐生に期待している。
(コイツがオールスターまでに一軍に上がれば、先発のコマが増えて投手力も良くなる…ある意味、優勝のカギを握るのはコイツかも)
とにかく桐生推しなのだ。
独特な二段モーションからどの球種でも腕の振りが同じで、見分けが付かないフォーム。
球持ちも良く、上体だけに頼らず下半身を使って投げるボールはノビがある。
桐生はインハイのボール球を投げた。
「うぉっ…」
危ないっ!と思わず仰け反る。
「コラっ、桐生くん!いくら何でもカントクにインハイの危険な球を投げたらダメでしょ!」
投手コーチの水卜が桐生を叱る。
今年もマーリンズ、キングダム、スカイウォーカーズの本拠地のみチームに帯同する。
一応、専業主婦なので西日本への遠征は難しいらしい。
ブルペンでは、水卜の見極めが重要だ。
「あー、ハイ。でも、監督が遠慮するなって言うから」
「あー、いいよ舞!このぐらい威勢が良くないと、プロとしてやってけないからな。
よし、桐生!今度は得意のカーブ投げてみろ」
「はいっ!」
桐生は決め球のナックルカーブを投げた。
ギューン、とストレートの軌道から急激にブレーキがかかったように下へ曲がって落ちる。
打席に立った榊は、ナックルカーブを体感して思わず唸った。
「うぉ~、スゲーな!普通のカーブよりも速くて曲がるんだから、打つのは難しいな」
スカイウォーカーズの先発陣でもある北乃もナックルカーブを投げるが、キレは桐生の方が上だ。
「スゴい、134km/hだって!」
スピードガンを持つ水卜の声が響く。
「カーブで130km/h台かよ?打てねえだろ、こんなの!
よし、桐生!次はスライダー…スラット?えーっと、何だっけ?」
「スラッターでしょ!」
「そう、そのスラッターを投げてくれ!」
「ハイ!」
もう一つの決め球でもあるスラッターを投げた。
榊が立つ左打席のインコースに速く鋭く曲る。
バシッ!といい音が響く。
「おぉ、今の速かったな!舞、何キロ出てた?」
水卜がスピードガンを見る。
「139km/hだって!ウソっ、こんな速い球が曲がるの?」
「これは左バッターにかなり有効な変化球だぞ」
スラッターとは、カットボールの様に速くスライダーの様に鋭く曲る球だ。
カットボールとスライダーの中間と思えばイメージが出来るだろうか。
去年スカイウォーカーズのテストを受けて入団したアクーニャのクチージョよりも球速は遅いが、変化量とキレはほぼ同じ。
しかも握りを変えただけで縦の変化も加わるというから、左バッターには厄介な球だ。
「うーん…やっぱりオレの目に狂いは無かった」
満足そうに頷く。
「この調子ならば、開幕一軍も夢じゃないわよ!」
水卜も期待している。
「おい、桐生!今日はもういいぞ!上がる前に柔軟やっとけよ」
「ハイ、ありがとうございました!」
帽子を取って深々と頭を下げた。
「まだプロの身体になってないからな。アイツには無理はさせたくないしな」
いくらキレのあるボールを投げても、身体が出来上がってないとケガをする恐れがある。
榊は無理をさせず、桐生を休ませた。
「なんてったって、将来のエース候補だからね」
「そういう事!」
榊の親心というヤツだ。
「この調子だと、梁屋くんとどっちが先に一軍に上がるかしら?」
その梁屋は今日は投げ込みはせず、グラウンドを走っている。
下半身の強化に取り組んでいる最中だ。
「どっちだろうなぁ?でも、待てよ。
そうなると、誰かが代わりにファーム行きになるよな…」
一軍枠は数が限られている。
「うーん…そうなると…でも、それがプロの世界なんだし、落ちてもまた這い上がればいいだけでしょ?」
「そうだな」
二人は口にしなかったが、真っ先に浮かんだ選手が一致した。
それは水卜が去年のキャンプでナックルパームを伝授した北乃の事だった。
だが、何度やっても得意の投げ技で叩きつけられ文字通り土を付けられる。
「ふざけんなっ!おい、高梨!テメー、このまま勝ち逃げするんじゃねえだろうなっ!」
「いつでもリターンマッチは受けて立つ!そんな事よりも、お前は開幕に合わせて調整しろ!」
本気でやれば、財前は全治数ヶ月の大ケガを負うところだが、GMとしてそれだけは避けたい。
力を加減して投げているのだが、それでも有段者の投げは破壊力抜群だ。
キャンプインから一週間が経過した。
財前は相変わらずの俺様発言だが、やる事はしっかりやる。
さすがメジャーで首位打者を獲得し、MVPにも輝いた選手だけあって、パワフル且つスピーディな動きに釘付けだ。
財前だけではなく、ドラフト1位の森高も10年に一人の逸材として特守特打を難なくこなし、ルーキーとは思えない程の身体能力とスタミナを併せ持つ。
榊はドラフト2位の桐生が、ブルペンで投げる様子をジッと見ている。
バスーン!とミットに収まるキレの良いボール。
時折、「うんうん」と頷きながら満足気な表情を浮かべていた。
投手出身だけあって、投手力が一番大事だという事を誰よりも熟知している。
桐生の球を見ているうちに、榊は打席に立って体感してみようと思い、左打席に入った。
「おーっし、桐生!オレが打席に入ったからと言って、遠慮する事は無いぞ!ドンドン投げてみろ!」
「ハイっ!」
向こう気の強い面構えで、卒業を控えた高校生とは思えない程の度胸のあるマウンド捌き。
榊はドラ1の森高よりも桐生に期待している。
(コイツがオールスターまでに一軍に上がれば、先発のコマが増えて投手力も良くなる…ある意味、優勝のカギを握るのはコイツかも)
とにかく桐生推しなのだ。
独特な二段モーションからどの球種でも腕の振りが同じで、見分けが付かないフォーム。
球持ちも良く、上体だけに頼らず下半身を使って投げるボールはノビがある。
桐生はインハイのボール球を投げた。
「うぉっ…」
危ないっ!と思わず仰け反る。
「コラっ、桐生くん!いくら何でもカントクにインハイの危険な球を投げたらダメでしょ!」
投手コーチの水卜が桐生を叱る。
今年もマーリンズ、キングダム、スカイウォーカーズの本拠地のみチームに帯同する。
一応、専業主婦なので西日本への遠征は難しいらしい。
ブルペンでは、水卜の見極めが重要だ。
「あー、ハイ。でも、監督が遠慮するなって言うから」
「あー、いいよ舞!このぐらい威勢が良くないと、プロとしてやってけないからな。
よし、桐生!今度は得意のカーブ投げてみろ」
「はいっ!」
桐生は決め球のナックルカーブを投げた。
ギューン、とストレートの軌道から急激にブレーキがかかったように下へ曲がって落ちる。
打席に立った榊は、ナックルカーブを体感して思わず唸った。
「うぉ~、スゲーな!普通のカーブよりも速くて曲がるんだから、打つのは難しいな」
スカイウォーカーズの先発陣でもある北乃もナックルカーブを投げるが、キレは桐生の方が上だ。
「スゴい、134km/hだって!」
スピードガンを持つ水卜の声が響く。
「カーブで130km/h台かよ?打てねえだろ、こんなの!
よし、桐生!次はスライダー…スラット?えーっと、何だっけ?」
「スラッターでしょ!」
「そう、そのスラッターを投げてくれ!」
「ハイ!」
もう一つの決め球でもあるスラッターを投げた。
榊が立つ左打席のインコースに速く鋭く曲る。
バシッ!といい音が響く。
「おぉ、今の速かったな!舞、何キロ出てた?」
水卜がスピードガンを見る。
「139km/hだって!ウソっ、こんな速い球が曲がるの?」
「これは左バッターにかなり有効な変化球だぞ」
スラッターとは、カットボールの様に速くスライダーの様に鋭く曲る球だ。
カットボールとスライダーの中間と思えばイメージが出来るだろうか。
去年スカイウォーカーズのテストを受けて入団したアクーニャのクチージョよりも球速は遅いが、変化量とキレはほぼ同じ。
しかも握りを変えただけで縦の変化も加わるというから、左バッターには厄介な球だ。
「うーん…やっぱりオレの目に狂いは無かった」
満足そうに頷く。
「この調子ならば、開幕一軍も夢じゃないわよ!」
水卜も期待している。
「おい、桐生!今日はもういいぞ!上がる前に柔軟やっとけよ」
「ハイ、ありがとうございました!」
帽子を取って深々と頭を下げた。
「まだプロの身体になってないからな。アイツには無理はさせたくないしな」
いくらキレのあるボールを投げても、身体が出来上がってないとケガをする恐れがある。
榊は無理をさせず、桐生を休ませた。
「なんてったって、将来のエース候補だからね」
「そういう事!」
榊の親心というヤツだ。
「この調子だと、梁屋くんとどっちが先に一軍に上がるかしら?」
その梁屋は今日は投げ込みはせず、グラウンドを走っている。
下半身の強化に取り組んでいる最中だ。
「どっちだろうなぁ?でも、待てよ。
そうなると、誰かが代わりにファーム行きになるよな…」
一軍枠は数が限られている。
「うーん…そうなると…でも、それがプロの世界なんだし、落ちてもまた這い上がればいいだけでしょ?」
「そうだな」
二人は口にしなかったが、真っ先に浮かんだ選手が一致した。
それは水卜が去年のキャンプでナックルパームを伝授した北乃の事だった。
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