上 下
20 / 84
栄冠

最終決戦その8

しおりを挟む
ツーアウト、ランナーは三塁二塁。


ノーワインドアップから渾身の力でバレットを投じた。


ギューン!と生き物の様に白球が襲いかかる。


「ここだっ!」


毒島はタイミングを合わせてフルスイング!


 ガゴン!という大きな音を響かせ、打球は左中間へ。


センター高野、レフトヘンダーソンが懸命に追う。


【入れ、入るんだ!】


【捕ってくれ、頼む!】


両軍ベンチは祈るような気持ちで打球の行方を追う。


高野が追いつき、フェンス手前でジャンプした。


…だが、打球は僅か数センチ上を通過してスタンド最前列に入った。

球場が一段と歓声に沸く。


「入った!」


「やった、ホームランだ!」


「スゲーぞ、とうとう天海を攻略したぞ!」


「It's a great home run!(素晴らしい、ナイスホームランだ!)」


「スゴーイ!3点も入ったわよ!」


スカイウォーカーズのベンチは蜂の巣をつついた様な騒ぎだ。


毒島の第40号スリーランで一挙3点をもぎ取った。



「打たれたか…」

サードの羽田は目を閉じた。


毒島は右手を高々と上げ、ベースを回った。


マウンド上の天海はスタンドを見ている。


オーロラビジョンには、【167km/h】と表示されていた。


自己最速のバレットをスタンドを放り込まれたが、不思議と悔しい感じは無い。


寧ろ、悔いのない渾身のバレットを打たれたのだから、それを打った毒島の方が上だ、と。


「ったく…今までで1番速い球なのに、それをスタンドに叩き込むとは…まだまだオレの球は進化する余地がありそうやな」


清々しい表情でマウンドを降りた。


まだ交代は告げられてないが、オレの役目は終わった…そう言いたげな雰囲気だ。


テリー監督はそんな天海を見て労いの言葉を掛けた。


「Good job, Amami. You're the number one pitcher.(素晴らしいピッチングだ天海。キミはナンバーワンピッチャーだ)」


テリー監督が天海の肩をポンポンと叩く。


涙腺が崩壊するように、涙が止めどなく溢れた。


ベンチに座ると、人目をはばからず泣いた。


打たれた悔しさと、今までで自分を助けてくれたチームメイトに感謝する想いが交差していた。



テリー監督はベンチを出てピッチャー交代を告げた。







この一発が決勝点となり、最終回は抑えのジェイクが3人をピシャリと抑え、スカイウォーカーズが栄冠を手にした。



「やった~っ、優勝だ!」


「バンザーイ、バンザーイ!」


「やったぜ、こんちくちょう!」


「イェー!サイコーだぜ!」


グラウンドでは選手がマウンドに駆け寄り、喜びを爆発させる。


ベンチから監督、コーチが飛び出す。


「とうとう優勝したぜ!」


「皆、よくやった!」


「こんな嬉しい事は他に無い!」


「It's the best day of my life!(人生最高の日だ!)」


「皆~っ、よくやったわ!ホントにありがとう!」



マウンドは大きな輪になり、榊を中心に選手達がはしゃぎ回っている。


「よし、監督を胴上げだ!」


キャプテン結城の掛け声で選手達は榊を持ち上げた。


「おっ、ちょ、ちょっと大丈夫かよ」


榊は戸惑いながらも、選手達に身を任せて宙に舞った。


【バンザーイ!バンザーイ!】


二度、三度と榊の身体が宙に舞う。


「スゲーっ!胴上げって、こんなに気持ちイイもんなのかよ!」


初めて胴上げを経験した。

7回宙に舞い、夢見心地な気分に浸っていた。


その後、全員ベンチ前に整列してスタンドのファンに深々と頭を下げた。


東北のマーリンズファンも素直にスカイウォーカーズを祝福した。


【いいぞー!】


【よくやった!】


【優勝おめでとう!】


【来年はマーリンズに優勝させろよ!】


チャンピオンフラッグを手に記念撮影した後、グラウンドを1周回ってファンの声援に応えた。


一塁側ベンチでは、破れたマーリンズの選手達がその様子を眺めていた。


号泣していた天海も、目を真っ赤にさせてスカイウォーカーズの雄姿を見る。


「天海、今まででありがとうな」


隣の羽田が礼を述べる。


「ありがとうって…オレの方こそ、皆にありがとうや」


照れた表情で羽田に礼を言う。


「来年は必ず優勝しよう」


「勿論や!絶対に優勝したる!」


「おし!じゃあ、コッチも胴上げだ!羽田、天海を胴上げしようぜ!」


高野の掛け声で一斉に天海を抱えて宙へ。


【ワーッショイ、ワーッショイ!】


監督やコーチも加わり、天海が10回宙に舞った。


「も、もう、ええって!堪忍や!」


顔を紅潮させながら天海は叫んだ!


「This team will be stronger... I'm looking forward to next year.(このチームは更に強くなる…来年が楽しみだ)」


テリー監督はチームメイトを見て確信した。





かくして、ネプチューンリーグはスカイウォーカーズの優勝でペナントレースを終えた。


この後は日本一を決めるチャンピオンズカップ。

アポロリーグは昨年まで最下位だった、琉球マシンガンズが優勝を決めた。


チャンピオンズカップは二週間後、武蔵野ボールパークでスタートする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...