上 下
15 / 84
栄冠

最終決戦その3

しおりを挟む
先頭打者の村上を三振に打ち取ると、2番の主砲羽田を157km/hのツーシームでセカンドゴロ、3番高野をフォークの空振り三振でスリーアウトチェンジ。


対するマーリンズ先発天海も中邑に負けじと165km/hのバレットで三振の山を築く。



球速に変化は無いが、スカイウォーカーズのバッターは口々に「以前よりも速い」と言う。


少なくともオールスター前までは、結城や鬼束と言った日本を代表するスラッガーがバレットを攻略したケースが何度かあった。


しかしマーリンズに移籍してから、バレットに当てる事すら難しくなってきた。


完全試合を達成した際も、レボリューションズ打線はバレットにタイミングが合わず三振を喫していた。


一体何が変わったというのか。


幾つかの理由があるのだが、一つはバレットの回転数がオールスター前と比べると、かなり上がっている事が顕著に見られる。


それまでのバレットの回転数は約2200

しかし、オールスター明けにマーリンズへ移籍してから回転数が約2500とアップしている。


ノビのあるストレートとは縦回転、即ちバックスピンがかかると揚力が強く、ホップするような軌道を描く。

実際にはホップする事は無いが、初速と終速の差が少ない程バッターにはホップする様に感じる。


ノビのあるストレートが高目に来た場合、バッターは軌道を予測してスイングするが、実際の軌道はボール二個、三個分上を通過している。

天海はバレットを精度を上げるため、縦の軸回転と回転数を上げる事に着目した。

試行錯誤を繰り返し、正しいフォームとリリースを手に入れた。


進化したバレットは想像以上で、予測した軌道の更に上へノビていく。


もう一つの理由は、先程の縦回転のバレットとは別に【ジャイロ回転】のバレットをマスターした事だ。


縦のバックスピンとは違い、進行方向に回転するジャイロボールは揚力が発生しない。

初速と終速の差は少ないが、下に落ちる軌道を描く。

天海はジャイロ回転のバレットにもトライし、何とかモノにした。


二種類のバレットを駆使してノビのストレートと縦横に鋭く変化するストレートを手に入れた。


完全試合の時は投球の7割がこの二種類のバレットで、残りの3割はスライダーとカーブのみ。


1回から9回までバレットを投げる為には、強靭な足腰と無尽蔵のスタミナが必要不可欠となる。

二軍では徹底的に身体を鍛え上げ、心·技·体のうち技·体を得て、鈴木前監督とのタイマン勝負で負けたものの、残りの心を習得した。


中邑が【発展途上のエース】ならば、天海は心·技·体が備わった【完全無欠のエース】で死角はどこにも見当たらない。





息詰まる投手戦が続くなか、試合は終盤の7回まで進む。



ここまで両チーム共に無得点。


中邑は6回まで2安打2四球5奪三振。

天海は無安打無四球9奪三振とパーフェクトピッチング。


スカイウォーカーズは天海を攻略出来ずに凡打を繰り返す。



「Now, let's turn to counterattack!(さぁ、ここから反撃してやろうぜ!)」


ベンチではトーマス打撃総合コーチが選手を鼓舞する。


今シーズン打撃コーチに就任したトーマスは、バッティング技術向上のみならず、ムードメーカーとしてベンチの士気を上げる役割を買って出た。


現役時代と変わらぬ熱血漢で人間味溢れる人柄で、選手達は【グレートダディ】と呼ばれ慕われている。


「All right. Great father.I'm sure I'll go on base!(分かったよ、グレートダディ。絶対に出塁してやる)」





この回トップのラファエルがトーマスにウインクすると、バットを持って打席に向かった。



【7回の表、スカイウォーカーズの攻撃は1番ライトラファエル】


颯爽とラファエルが左打席に入る。


(ここまでパーフェクトピッチング…だが、オレが必ず塁に出てやる)


獲物を捕らえる様な目でマウンド上の天海を見る。


第一打席は空振りの三振。

第二打席はショートゴロとタイミングに合ってない。


背番号99を付けた現役最高のピッチャーが、ラファエルの前に高い壁として立ちはだかる。


「Raphael, imagine the trajectory a little above you and hit it!(ラファエル、少し上の軌道をイメージしてスイングしろ!)」


ベンチからトーマスが大声でアドバイスする。


天海のバレットは想像以上のノビがある。


イメージする軌道よりボール三つ分上にホップする。


左脇を開け、バットがスムーズに出やすいよう、寝かせ気味に構える。


(ヤツのフォーシームを打つには、鋭く速いスイングでぶっ叩くのみ)


上体を捻り、反動で素早いスイングで打ち返す。


キャッチャーの川上はラファエルの構えを見てサインを出した。


サインに頷き、ノーワインドアップからキレイなオーバースローで初球を投げた。


まさに弾丸と呼ばれるフォーシームが放たれ、唸りを上げてミットに吸い込まれる。


「ストライク!」


今まで以上にスピードの乗ったバレットがアウトコース低目へズバッと決まった。


(なる程…コーチの言ってた通り、ボール三個分上を通過する)


イメージはインプット出来たか。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛

冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...