UWP(Under World Prowrestling)

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デビュー

リアルファイト

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ゴングが鳴った。

西はガードを固めながらジリジリと前へ出る。

対する今道はレスラーらしく、ややクラウチングな構えでゆっくりと中央へ向かう。


ふとリングサイドを見ると、最前席で神宮寺が観戦していた。


神宮寺と目が合った。


鋭い眼差しで今道を見る。



(神宮寺さんが見ている。
!そうだ、ソッコーで勝負をつけて、神宮寺さんにボーナスの上乗せしてもらおう!)


今道の頭の中に『秒殺』が浮かんだ。


このまま突進して、練習で得たラリアットをお見舞いすれば、呆気なくKO出来る。


そう思い、今道はダッシュで距離を詰めた。


「っ!」


まるで玉砕覚悟の突進で、あっという間に距離を縮め、右にサイドステップしてから左腕を振り抜いた。


ブォン!という風を切る音。


だが、西はプロレス経験者でもあり、総合格闘家だ。


総合格闘技では、モーションの少ない打撃が殆どだ。


余裕でダッキングで躱し、ガラ空きになった顔面へ左のショートフックを炸裂した。


バキッ、とパンチがめり込む音と共に、今道は尻もちを着くようにダウン。


「ダウンっ!!ワン、ツー、スリー、フォー…」


レフェリーがカウントを数える。


(な、何で?あの動きが読めたのか?)


カウンターを食らい、頭の中が混乱している。



「何をやってるんですかっ!!あんな大技が初っ端から決まるワケないでしょ!
早く立ちなさいっ!」


セコンドの東郷がマットをバンバン叩きながら檄を飛ばす。



(あ、でも大した事ないかも…これなら立てそうだし)


今道はフックを食らった際、顔を少し後方へズラした。

東郷との打撃スパーで得た防御法だ。


そのおかげで致命的な一撃とはならなかった。


「クッ…まだまだぁ!勝って賞金を手にするんだ…」


家族を養うには、今道の奮闘に全てが懸かっている。


「シックス、セブン、エイト…」


カウントエイトで今道は立ち上がった。


ダメージはそれ程無い。


これなら問題ない。



「ファイッ!」



試合は続行。



「アレッ…」


立ち上がったはいいが、膝が言う事を聞かない。


ガクガクして力が入らない。


「な、何だ、コレは」


意志とは裏腹に足がフラつく。


西が放ったショートフックは、今道のアゴを捕え、その衝撃で脳が揺れた。


脳震盪の様な状態に陥り、足に力が入らない。



「今道クン、ガードを固めなさい!」



東郷がアドバイスをする。



「エッ、ガードって…」


「いいから、早くっ!」


ガードを固める前に、西はチャンスとばかりに、ボディからの右ストレート、フック、アッパー、同時に左右のローキックを叩き込む。


今道は防戦一方だ。


「グッ…上手くガード出来ない」


屈強な肉体を持つ今道だが、西の猛ラッシュの前にダウン寸前だ。


「上手く組み付いてグラウンドに持ち込みなさい!」


東郷のアドバイス通り、片足を取るとテイクダウンさせ、グラウンドに持ち込む。


しかし、西も寝技には自信がある。


上手くポジショニングを変え、ガードポジションから足を絡ませ、三角締めの体勢に入った。


「あ”ぁ、ウゼェ!」


邪魔だ!とばかりに西の足を取ると、力任せにマットへ叩きつけた。


「グぉ…」


右膝を叩きつけられ、西は悶絶の表情を浮かべる。


それにしても、今道のパワーには驚かされる。


「チャンスです!今こそ攻めるんです!」



打ち付けた膝を取ると、そこへエルボーを落とした。


「ウギャッ!」


強烈なエルボーが膝裏を直撃。


「このヤロー…」


西の右膝はこの一撃で破壊された。


更に攻撃を加えようと膝を抱えるが、西が左の足で顔面を蹴る。


「痛っ…」


一瞬怯んだその隙に、西は背後に回ってチョークスリーパーを仕掛けた。


「アァ、マズイっ!」


東郷が声を上げる。


完全には極まってないが、西の太い腕が喉元を徐々に食い込ませる。


「ンンン~あぁ!」


今道は後頭部を思いっきり後ろに反らせた。


ガツン!と後頭部のヘッドバットを炸裂させ、西は腕を解いた。


「グヮヮヮヮ…」


この一撃で西は鼻から血を吹き出す。


「このクソガキ…殺してやる」


全身タトゥーに覆われた西が怒りの表情で襲いかかる。


「ガァァァァァァ!」


強引にマウントポジションを奪取すると、矢継ぎ早にパウンドを振り下ろす。


強烈なパンチだが、今道は腕をクロスして必死にガードする。


怒りに任せて、ブンブンと腕を振り回す西。


そのパウンドも段々と大振りになっていく。


「痛ってぇなぁ!」


渾身のパワーで今道が跳ね返した。



「スゲーパワーだな、あの新人!」


「なんつー馬鹿力だ」


「あの身体はダテじゃないぞ!」


観客は今道のパワーに驚き、声援が大きくなった。


「新人、このままパワーで押し切って勝て!」


「オレはお前を応援するぞ!」


「イマミチ!イマミチ!イマミチ!」


いつしか、会場はイマミチコールに包まれた。



「フフ、デビュー戦でこれだけの声援を浴びるとは…」


神宮寺はそう言うと、席を立った。


「会長!最後まで観なくていいんですか!」


神宮寺の付き人が後を追う。


「観なくても判る…この試合、あのボーズの勝ちだ!」


そう言って会場を後にした。


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