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デビュー
プロレスラーとは
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着いた場所は神宮寺の家ではなく、都心から外れた海沿いのプレハブ小屋だった。
車を降り、年季の入った扉を開ける。
その中は道場と同じように、中央にリングが設置され、その周りはサンドバッグや天井に吊るされている太いロープ、バーベル等が散乱している。
「おぅ、来たか」
奥から神宮寺が姿を現した。
「あ、どうも…ご無沙汰しています」
今道は軽く会釈した。
「東郷さんから話は聞いてるか?」
「えぇ、今日からしばらくここでトレーニングするように言われたので」
神宮寺は50代前半だが、タンクトップ姿で胸板は厚く、二の腕は現役時代
を彷彿させる程の太さ。
そして何より、かつて大巨人ギガンテスをジャーマンスープレックスを決めた強靭な首周りは健在だ。
今すぐ復帰してもおかしくない程の仕上がり具合だ。
(スゲー…これが最強と呼ばれたプロレスラーか)
体格以上に凄みを感じる佇まい。
カイザー大和の魂を受け継いだ最強のプロレスラーの触れ込みは伊達じゃない。
「よぉ、ボーズ。準備は出来てるかい?」
「じゅ、準備?」
着いたばかりでウォーミングアップもしていない。
「まぁいい…とにかくリングに上がれ」
言われるがままリングに上がった。
今道はまだ私服のままだ。
「さてと…今からオレとスパーリングを行う。
東郷さんのとこで2年鍛えられたんだから、それなりの強さは身に付いただろう」
ジャージを脱ぐと、現役時代に身に付けた黒のショートタイツにリングシューズ姿になった。
「あの、オレまだ着替えてないんですけど」
「バカヤローっ!!プロレスラーとは、いつ何時どんな状況でも闘えるようにするもんだ!」
「っ…」
あまりの迫力に言葉を失う。
「仕方ねぇ…さっさと着替えろ」
「は、はいっ!」
急いでジャージに着替えた。
「ボーズ、プロレスラーとはどんな人種なのか分かってるのか?」
「い、いえ…分かりません」
「そうか、知らねぇか」
神宮寺が近づく。
「じゃあ、オレの顔をぶっ叩いてみろ」
「エッ、叩くって」
「ホレ、この手で殴ってみろ」
手を取って殴るよう指示した。
「…いいんですか?」
「構わねぇよ」
今道は掌底のようにして神宮寺の顔面を張った。
バチーン!という音が部屋中に響く。
今道の腕力から放たれる張り手ならば、いくら神宮寺と言えど吹っ飛ぶハズ。
だが、神宮寺は吹っ飛ぶどころか、張り手を食らいながら不敵な笑みを浮かべる。
「ボーズ、今のが本気のビンタか?」
「あァ…」
渾身のビンタを放ったのに、倒れるどころか、根っこが生えたみたいに微動だにしない。
「いいか、プロレスラーってのは、相手の攻撃を避けちゃいけねぇんだ。
相手の攻撃を受けて、受けて、受けぬいて、そこから反撃するんだ」
この部分が今道には理解出来なかった。
何故、相手の攻撃を受ける必要があるのか。
攻撃を受ける前に、こっちから攻撃して倒せばいいだけ、勝負とはそういうものだと思っていた。
「オレにはそれが理解出来ないんです」
「何っ」
「何で、わざわざ攻撃を受けなきゃならないんですか?ボクシングだって、空手だって、相手の攻撃なんか受けたら、負けますよ!
攻撃を受ける前に倒すのが鉄則じゃないですか?」
すると、神宮寺はガハハハハと笑い飛ばした。
「面白ぇ事言うな、ボーズ。
プロレスラーをその辺の格闘家と一緒にしてもらっちゃ困るんだよ」
「何故です?」
痛い思いをして技を受けるなんて、おかしいとしか思えない。
「それがプロレスラーだからだ!プロレスラーってのは、相手の攻撃を受けてもビクともしない強靭な肉体とタフなハートを持ってるんだ!
相手の攻撃を避けるだと?
そんなモンは、格闘家のやる事だ!」
「避けちゃいけないんですか?」
今道も食い下がる。
納得いかない事はとことん追求しよう。
例え相手が神宮寺でも、分かるまで食らいつくしかない。
「まぁ、オメーが一日やそこらでプロレスを理解するとは思ってねえよ。
ただ、オレはデビュー戦までプロレスラーの凄さを叩き込むだけだからな!」
この先どうなってしまうのだろう。
不安が頭を過ぎる。
車を降り、年季の入った扉を開ける。
その中は道場と同じように、中央にリングが設置され、その周りはサンドバッグや天井に吊るされている太いロープ、バーベル等が散乱している。
「おぅ、来たか」
奥から神宮寺が姿を現した。
「あ、どうも…ご無沙汰しています」
今道は軽く会釈した。
「東郷さんから話は聞いてるか?」
「えぇ、今日からしばらくここでトレーニングするように言われたので」
神宮寺は50代前半だが、タンクトップ姿で胸板は厚く、二の腕は現役時代
を彷彿させる程の太さ。
そして何より、かつて大巨人ギガンテスをジャーマンスープレックスを決めた強靭な首周りは健在だ。
今すぐ復帰してもおかしくない程の仕上がり具合だ。
(スゲー…これが最強と呼ばれたプロレスラーか)
体格以上に凄みを感じる佇まい。
カイザー大和の魂を受け継いだ最強のプロレスラーの触れ込みは伊達じゃない。
「よぉ、ボーズ。準備は出来てるかい?」
「じゅ、準備?」
着いたばかりでウォーミングアップもしていない。
「まぁいい…とにかくリングに上がれ」
言われるがままリングに上がった。
今道はまだ私服のままだ。
「さてと…今からオレとスパーリングを行う。
東郷さんのとこで2年鍛えられたんだから、それなりの強さは身に付いただろう」
ジャージを脱ぐと、現役時代に身に付けた黒のショートタイツにリングシューズ姿になった。
「あの、オレまだ着替えてないんですけど」
「バカヤローっ!!プロレスラーとは、いつ何時どんな状況でも闘えるようにするもんだ!」
「っ…」
あまりの迫力に言葉を失う。
「仕方ねぇ…さっさと着替えろ」
「は、はいっ!」
急いでジャージに着替えた。
「ボーズ、プロレスラーとはどんな人種なのか分かってるのか?」
「い、いえ…分かりません」
「そうか、知らねぇか」
神宮寺が近づく。
「じゃあ、オレの顔をぶっ叩いてみろ」
「エッ、叩くって」
「ホレ、この手で殴ってみろ」
手を取って殴るよう指示した。
「…いいんですか?」
「構わねぇよ」
今道は掌底のようにして神宮寺の顔面を張った。
バチーン!という音が部屋中に響く。
今道の腕力から放たれる張り手ならば、いくら神宮寺と言えど吹っ飛ぶハズ。
だが、神宮寺は吹っ飛ぶどころか、張り手を食らいながら不敵な笑みを浮かべる。
「ボーズ、今のが本気のビンタか?」
「あァ…」
渾身のビンタを放ったのに、倒れるどころか、根っこが生えたみたいに微動だにしない。
「いいか、プロレスラーってのは、相手の攻撃を避けちゃいけねぇんだ。
相手の攻撃を受けて、受けて、受けぬいて、そこから反撃するんだ」
この部分が今道には理解出来なかった。
何故、相手の攻撃を受ける必要があるのか。
攻撃を受ける前に、こっちから攻撃して倒せばいいだけ、勝負とはそういうものだと思っていた。
「オレにはそれが理解出来ないんです」
「何っ」
「何で、わざわざ攻撃を受けなきゃならないんですか?ボクシングだって、空手だって、相手の攻撃なんか受けたら、負けますよ!
攻撃を受ける前に倒すのが鉄則じゃないですか?」
すると、神宮寺はガハハハハと笑い飛ばした。
「面白ぇ事言うな、ボーズ。
プロレスラーをその辺の格闘家と一緒にしてもらっちゃ困るんだよ」
「何故です?」
痛い思いをして技を受けるなんて、おかしいとしか思えない。
「それがプロレスラーだからだ!プロレスラーってのは、相手の攻撃を受けてもビクともしない強靭な肉体とタフなハートを持ってるんだ!
相手の攻撃を避けるだと?
そんなモンは、格闘家のやる事だ!」
「避けちゃいけないんですか?」
今道も食い下がる。
納得いかない事はとことん追求しよう。
例え相手が神宮寺でも、分かるまで食らいつくしかない。
「まぁ、オメーが一日やそこらでプロレスを理解するとは思ってねえよ。
ただ、オレはデビュー戦までプロレスラーの凄さを叩き込むだけだからな!」
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不安が頭を過ぎる。
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