19 / 62
修行時代
神宮寺との出会い
しおりを挟む
練習に身が入らない。
東郷の指示によって練習を繰り返す毎日。
今道はこの数ヶ月、東郷以外の人と会話をした記憶が無い。
(つまんない…)
徐々にフラストレーションが溜まるようになってきた。
「どうしました、今道クン。連取に身が入らないみたいですが」
「…」
「成程…毎日私と練習するのがイヤになってきた…そうですね?」
図星だった。
「イヤ、その…」
どう答えていいか分からない。
「まぁ、無理もないでしょう。
ここに来てから、私以外の人と触れ合う事も無い。
しかも、この道場から殆ど出ることもない、言わば引きこもりみたいなもんですからね」
「実は…」
東郷には全てお見通しだ。
隠してもしょうがない。
「何だか…最近虚しいなって思うようになって」
素直な気持ちを吐露する。
「今道クン、あなたの気持ちも分かります。しかし、あなたはプロレスラーになる為にこの道場に来たのではないですか?」
「確かにそうですが、このままじゃ、気がおかしくなりそうで」
「メンタル面をもう少し鍛えておくべきでしたね」
メンタルの部分だけはいくら他人がアドバイスしても、本人が現状を打破しない限りは改善しない。
さすがの東郷でもこればっかりはお手上げだ。
「…いいでしょう。今日は練習を取り止めて外出しましょう」
「エッ、外出?」
思いもよらない展開となった。
「えぇ、少しリフレッシュする為に、外の空気を吸うのもいいでしょう」
そう言うと東郷は電話をかけた。
「モシモシ、私です。
お疲れ様です…ちょっと出かけるので、車を出して欲しいのですが…
それじゃ、お願いします」
どうやら車で出かけるつもりだ。
「さぁ、出かけますよ!早く支度しなさい」
「ハ、ハイ」
急いで着替えた。
道場の前で待っていると、黒のワンボックスカーが迎えに来た。
「お疲れ様です。あの場所までお願いします」
「かしこまりました」
運転手は眼鏡をかけた30代ぐらいの男性だ。
一体、スタッフとは何人ぐらいいるのだろうか。
東郷と共に後部座席に乗ると、車は都心方面に向かった。
「コーチ。あの場所とは何処ですか?」
「フフッ、行けばわかりますよ」
何処へ向かおうとしてるのか。
首都高に乗って1時間弱。
高層ビルやタワーマンションが建ち並ぶ都心の一等地で高速を降りた。
「もうすぐで着きますよ」
「…ん、ハイ」
車に揺られて心地よくなったのか、思わず寝てしまった。
大通りから少し外れた通りで車は停まった。
「着きましたよ」
シートベルトを外してドアを開けた。
目の前はビルで、1階はファストフードの店舗だ。
「このビルですか?」
「えぇ、中に入りますよ」
エントランスに入り、エレベーターに乗った。
どうやら、このビルは9階建ての雑居ビルらしい。
各階にはキャバクラやガールズバー、焼肉店や居酒屋等のテナントが入ってるようだ。
最上階のボタンを押し、あっという間に9階へ。
ドアが開くと、コンクリート打ちっぱなしの空間で、どうやら空きテナントになっているみたいだ。
「ここからは階段で行きますよ」
横の非常口用の扉を開け、共用階段を上った。
「屋上に行くんですか?」
「そうです」
屋上に入る扉は施錠がしてある。
東郷はポケットから鍵を取り出し、扉を開けた。
中央にログハウスみたいな建物の周りを、各店舗の室外機やキュービクル式高圧受電設備、梯子を登ると高架水槽が設置してある。
誰か住んでるみたいだ。
東郷が扉をノックする。
ガチャっと扉が開くと、中からイカつい男が顔を出した。
「おっ、東郷さん。珍しいな、こんな所に来るとは」
男は東郷を見ると屈託のない笑顔で出迎えた。
「申し訳ありません、アポも取らずに伺ってしまって」
「いいって、いいって!東郷さんならいつでも歓迎するぜ!」
男が手招きをする。
「では、お邪魔します」
「ん、このボウヤは?」
今道と目が合った。
「ど、どうも」
恐る恐る会釈する。
「例の練習生ですよ」
「おぉ~っ、お前があの練習生か!」
男は満面の笑みを浮かべた。
「とにかく、中に入んな」
「失礼します」
男に促され、中に入った。
建物の中はリビングと洋室、ユニットバスという間取りだ。
男はリビングのソファーに腰掛けた。
「さぁ、突っ立ってないで座れ」
男の来ているTシャツがはち切れんばかりの分厚い胸板に丸太ん棒の様な太い腕。
上半身だけじゃない。
スウェットを履いた下半身はドッシリとしていて、外見からしてタダモノではない人物だ。
「今道クン、この方がUWPの最高責任者でもある、神宮寺直人さんです」
この男が神宮寺…
もの凄いオーラだ。
「は、初めまして…練習生の今道陽斗です」
「ハッハッハ、そんなに緊張すんなよ!オレが神宮寺だ、よろしくな」
握手をしてきた。
「ハ、ハイ。よろしくお願いします」
握手した瞬間、右手に激痛が走った。
「い、痛っ」
「オット、思わず力を入れちまったぜ!大丈夫か?」
「は、はァ、何とか」
見たところ、東郷と同じ50代前半ぐらいだが、圧倒的な存在感を発揮している。
東郷が柔ならば、神宮寺は剛という感じか。
「練習はちゃんとやってんのか、ん?」
そう言うと、神宮寺は今道の身体を触りだした。
「え、えっと…あの」
神宮寺は上半身や大腿部、ふくらはぎを揉みながら触る。
「なかなかの筋肉だな。しかも、柔軟性に溢れている。おまけに背も高い」
「どうですか、彼は?」
東郷が訊ねる。
「申し分ないよ!コイツは掘り出し物だぜ!」
些か興奮気味に捲し立てる。
東郷の指示によって練習を繰り返す毎日。
今道はこの数ヶ月、東郷以外の人と会話をした記憶が無い。
(つまんない…)
徐々にフラストレーションが溜まるようになってきた。
「どうしました、今道クン。連取に身が入らないみたいですが」
「…」
「成程…毎日私と練習するのがイヤになってきた…そうですね?」
図星だった。
「イヤ、その…」
どう答えていいか分からない。
「まぁ、無理もないでしょう。
ここに来てから、私以外の人と触れ合う事も無い。
しかも、この道場から殆ど出ることもない、言わば引きこもりみたいなもんですからね」
「実は…」
東郷には全てお見通しだ。
隠してもしょうがない。
「何だか…最近虚しいなって思うようになって」
素直な気持ちを吐露する。
「今道クン、あなたの気持ちも分かります。しかし、あなたはプロレスラーになる為にこの道場に来たのではないですか?」
「確かにそうですが、このままじゃ、気がおかしくなりそうで」
「メンタル面をもう少し鍛えておくべきでしたね」
メンタルの部分だけはいくら他人がアドバイスしても、本人が現状を打破しない限りは改善しない。
さすがの東郷でもこればっかりはお手上げだ。
「…いいでしょう。今日は練習を取り止めて外出しましょう」
「エッ、外出?」
思いもよらない展開となった。
「えぇ、少しリフレッシュする為に、外の空気を吸うのもいいでしょう」
そう言うと東郷は電話をかけた。
「モシモシ、私です。
お疲れ様です…ちょっと出かけるので、車を出して欲しいのですが…
それじゃ、お願いします」
どうやら車で出かけるつもりだ。
「さぁ、出かけますよ!早く支度しなさい」
「ハ、ハイ」
急いで着替えた。
道場の前で待っていると、黒のワンボックスカーが迎えに来た。
「お疲れ様です。あの場所までお願いします」
「かしこまりました」
運転手は眼鏡をかけた30代ぐらいの男性だ。
一体、スタッフとは何人ぐらいいるのだろうか。
東郷と共に後部座席に乗ると、車は都心方面に向かった。
「コーチ。あの場所とは何処ですか?」
「フフッ、行けばわかりますよ」
何処へ向かおうとしてるのか。
首都高に乗って1時間弱。
高層ビルやタワーマンションが建ち並ぶ都心の一等地で高速を降りた。
「もうすぐで着きますよ」
「…ん、ハイ」
車に揺られて心地よくなったのか、思わず寝てしまった。
大通りから少し外れた通りで車は停まった。
「着きましたよ」
シートベルトを外してドアを開けた。
目の前はビルで、1階はファストフードの店舗だ。
「このビルですか?」
「えぇ、中に入りますよ」
エントランスに入り、エレベーターに乗った。
どうやら、このビルは9階建ての雑居ビルらしい。
各階にはキャバクラやガールズバー、焼肉店や居酒屋等のテナントが入ってるようだ。
最上階のボタンを押し、あっという間に9階へ。
ドアが開くと、コンクリート打ちっぱなしの空間で、どうやら空きテナントになっているみたいだ。
「ここからは階段で行きますよ」
横の非常口用の扉を開け、共用階段を上った。
「屋上に行くんですか?」
「そうです」
屋上に入る扉は施錠がしてある。
東郷はポケットから鍵を取り出し、扉を開けた。
中央にログハウスみたいな建物の周りを、各店舗の室外機やキュービクル式高圧受電設備、梯子を登ると高架水槽が設置してある。
誰か住んでるみたいだ。
東郷が扉をノックする。
ガチャっと扉が開くと、中からイカつい男が顔を出した。
「おっ、東郷さん。珍しいな、こんな所に来るとは」
男は東郷を見ると屈託のない笑顔で出迎えた。
「申し訳ありません、アポも取らずに伺ってしまって」
「いいって、いいって!東郷さんならいつでも歓迎するぜ!」
男が手招きをする。
「では、お邪魔します」
「ん、このボウヤは?」
今道と目が合った。
「ど、どうも」
恐る恐る会釈する。
「例の練習生ですよ」
「おぉ~っ、お前があの練習生か!」
男は満面の笑みを浮かべた。
「とにかく、中に入んな」
「失礼します」
男に促され、中に入った。
建物の中はリビングと洋室、ユニットバスという間取りだ。
男はリビングのソファーに腰掛けた。
「さぁ、突っ立ってないで座れ」
男の来ているTシャツがはち切れんばかりの分厚い胸板に丸太ん棒の様な太い腕。
上半身だけじゃない。
スウェットを履いた下半身はドッシリとしていて、外見からしてタダモノではない人物だ。
「今道クン、この方がUWPの最高責任者でもある、神宮寺直人さんです」
この男が神宮寺…
もの凄いオーラだ。
「は、初めまして…練習生の今道陽斗です」
「ハッハッハ、そんなに緊張すんなよ!オレが神宮寺だ、よろしくな」
握手をしてきた。
「ハ、ハイ。よろしくお願いします」
握手した瞬間、右手に激痛が走った。
「い、痛っ」
「オット、思わず力を入れちまったぜ!大丈夫か?」
「は、はァ、何とか」
見たところ、東郷と同じ50代前半ぐらいだが、圧倒的な存在感を発揮している。
東郷が柔ならば、神宮寺は剛という感じか。
「練習はちゃんとやってんのか、ん?」
そう言うと、神宮寺は今道の身体を触りだした。
「え、えっと…あの」
神宮寺は上半身や大腿部、ふくらはぎを揉みながら触る。
「なかなかの筋肉だな。しかも、柔軟性に溢れている。おまけに背も高い」
「どうですか、彼は?」
東郷が訊ねる。
「申し分ないよ!コイツは掘り出し物だぜ!」
些か興奮気味に捲し立てる。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる