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10年前
真のサブミッション
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ゴングと同時に馬淵が距離を詰める。
馬淵は総合格闘技らしくアップライトの構え、片や氏家は前傾で重心を低くしたクラウチングスタイルの構え。
馬淵は左ジャブで距離をはかる。
氏家はジャブを手で払い除け、組みつこうとしている。
そこへ右のローを放った。
だが氏家はこれを読んで膝を上げてブロック。
更に距離が縮まった。
馬淵は左のショートフックを繰り出す。
氏家はヒットする瞬間、首を左に向ける。
衝撃を少なくする高等な技術だ。
とはいえ、フックを食らったのだから、多少のダメージは残る。
一旦ステップバックして、胴タックルを仕掛けた。
これは馬淵が上手くタックルを切った。
だがこれは囮で、氏家は右足を大内刈りの要領で内側から足を刈りテイクダウンに成功。
後ろに倒れた馬淵は体勢を立て直すべく反転して起き上がろうとするが、バックを取り、ねじ伏せて再度グラウンドへ。
左サイドからのしかかって左手で首根っこを押さえ付ける。
反発して馬淵が四つんばいの腕を伸ばすと、素早く左足で左腕を刈る。
そのとき左手は頭を押さえ続け、右手は馬淵の右脇に差し込まれている。
体重も掛けられてがくっと頭が落ちマットにのめりこむ。
ハーフ・ネルソンに入った右手と、左手とで馬淵の後頭部を腹の方に押すと、首がくの字に
曲がって耐え切れず両足が浮き、両肩がマットに付く。
これがスリーカウント有りのルールだったら、馬淵のフォール負けとなっていただろう。
だが、タイトルマッチはギブアップもしくは、KOのみの決着。
この状態が1分近く続いた。
馬淵は必死に脱出を試みようとするが、エビの様な体勢でおまけに両腕も抑えられている。
もがけばもがく程、身動きがとれず、顔を紅潮させながら両足をバタつかせている。
「クルスフィックス…」
「ク、クルス…何すか、それ?」
「クルスフィックスという技です。相手を抑えつけて自由を奪う抑え技です」
氏家のバックボーンはレスリングだ。
大学時代、グレコローマンの87kg級で全日本学生選手権を制覇した。
その後、単身イギリスに渡り、ランカシャー伝統のキャッチレスリングを修得し、グラウンドテクニックには絶対の自信を持つ。
「あれこそが真のサブミッションです」
「サブミッションって、関節技じゃないんすか?」
関節技や締め技を総称してサブミッションと呼ぶ。
しかし、サブミッションとは(服従)させるという意味で、氏家のクルスフィックスは抑えつけて服従(抵抗不能)している様子はサブミッションと呼ぶに相応しい。
「この技は神宮寺さんの得意技で、実力差を見せつける為には最も効果的な技です」
神宮寺は現役時代、このクルスフィックスで相手を幾度となく拘束した。
関節技を掛けなくても、抑えつける事で誰が見ても力の差は歴然だ。
「多分、神宮寺さんとのスパーリングで体得したのではないでしょうか」
「でも、アレってどこが痛いんですか?」
「肉体的なダメージよりも、精神的なダメージの方が大きいのです。
氏家選手が技を解かない限り、馬淵選手は脱出出来ないのですから」
氏家は涼しい顔をして抑えつけ、馬淵は顔を真っ赤にしながらもがいている。
「これで氏家選手は相手の力量が判ったのでしょう。
もうじき終わりますよ」
「エッ」
東郷の予言通り、氏家は技を解くとバックを取り、強引に持ち上げた。
馬淵の身体が浮き上がる。
一旦静止した後、素早い速さで後方へブン投げた。
ドダーンっ!!
という衝撃音が会場に響き、馬淵は後頭部を強打。
しかし、氏家はクラッチを離さず、再度起き上がり再び後ろへ投げた。
更に大きい衝撃音と共にマットに叩きつけられると、氏家はコーナーに向かった。
レフェリーがカウントを数える。
「ワン、ツー、スリー、フォー…」
起き上がってくる気配がない。
レフェリーはカウントを止め、ゴングを要請した。
【カンカンカンカンっ!】
そして氏家の右手を挙げた。
4分13秒、ジャーマンスープレックス二連発によるレフェリーストップで氏家の勝利。
氏家はこれで15回目の防衛に成功。
場内は歓声と落胆の声が入り交じる。
氏家に賭けた観客は大喜び、馬淵に賭けた観客は悔しさを露わにする。
「今道クン」
「ハイ」
「あなたはあの技を修得しなさい」
あの技とは、フィニッシュのジャーマンスープレックスだ。
「あの技…ですか?」
「プロレス技の芸術品とも言えるジャーマンスープレックス。
昨今では、フィニッシュホールドどころか、繋ぎ技になってしまいました。
ですが、掛ける選手によっては、十分フィニッシュホールドになる技です。
いいですね、今道クン」
「ハ、ハァ」
レスラーは徹底的に首を鍛える。
ジャーマンスープレックスの様なブリッジを必要とする技は首の太さは必要不可欠だ。
リング上では、チャンピオンベルトが返還され、この日のファイトマネー4億6千万の小切手が贈呈された。
「何だ、あの金額は?」
今道は目を白黒させていた。
馬淵は総合格闘技らしくアップライトの構え、片や氏家は前傾で重心を低くしたクラウチングスタイルの構え。
馬淵は左ジャブで距離をはかる。
氏家はジャブを手で払い除け、組みつこうとしている。
そこへ右のローを放った。
だが氏家はこれを読んで膝を上げてブロック。
更に距離が縮まった。
馬淵は左のショートフックを繰り出す。
氏家はヒットする瞬間、首を左に向ける。
衝撃を少なくする高等な技術だ。
とはいえ、フックを食らったのだから、多少のダメージは残る。
一旦ステップバックして、胴タックルを仕掛けた。
これは馬淵が上手くタックルを切った。
だがこれは囮で、氏家は右足を大内刈りの要領で内側から足を刈りテイクダウンに成功。
後ろに倒れた馬淵は体勢を立て直すべく反転して起き上がろうとするが、バックを取り、ねじ伏せて再度グラウンドへ。
左サイドからのしかかって左手で首根っこを押さえ付ける。
反発して馬淵が四つんばいの腕を伸ばすと、素早く左足で左腕を刈る。
そのとき左手は頭を押さえ続け、右手は馬淵の右脇に差し込まれている。
体重も掛けられてがくっと頭が落ちマットにのめりこむ。
ハーフ・ネルソンに入った右手と、左手とで馬淵の後頭部を腹の方に押すと、首がくの字に
曲がって耐え切れず両足が浮き、両肩がマットに付く。
これがスリーカウント有りのルールだったら、馬淵のフォール負けとなっていただろう。
だが、タイトルマッチはギブアップもしくは、KOのみの決着。
この状態が1分近く続いた。
馬淵は必死に脱出を試みようとするが、エビの様な体勢でおまけに両腕も抑えられている。
もがけばもがく程、身動きがとれず、顔を紅潮させながら両足をバタつかせている。
「クルスフィックス…」
「ク、クルス…何すか、それ?」
「クルスフィックスという技です。相手を抑えつけて自由を奪う抑え技です」
氏家のバックボーンはレスリングだ。
大学時代、グレコローマンの87kg級で全日本学生選手権を制覇した。
その後、単身イギリスに渡り、ランカシャー伝統のキャッチレスリングを修得し、グラウンドテクニックには絶対の自信を持つ。
「あれこそが真のサブミッションです」
「サブミッションって、関節技じゃないんすか?」
関節技や締め技を総称してサブミッションと呼ぶ。
しかし、サブミッションとは(服従)させるという意味で、氏家のクルスフィックスは抑えつけて服従(抵抗不能)している様子はサブミッションと呼ぶに相応しい。
「この技は神宮寺さんの得意技で、実力差を見せつける為には最も効果的な技です」
神宮寺は現役時代、このクルスフィックスで相手を幾度となく拘束した。
関節技を掛けなくても、抑えつける事で誰が見ても力の差は歴然だ。
「多分、神宮寺さんとのスパーリングで体得したのではないでしょうか」
「でも、アレってどこが痛いんですか?」
「肉体的なダメージよりも、精神的なダメージの方が大きいのです。
氏家選手が技を解かない限り、馬淵選手は脱出出来ないのですから」
氏家は涼しい顔をして抑えつけ、馬淵は顔を真っ赤にしながらもがいている。
「これで氏家選手は相手の力量が判ったのでしょう。
もうじき終わりますよ」
「エッ」
東郷の予言通り、氏家は技を解くとバックを取り、強引に持ち上げた。
馬淵の身体が浮き上がる。
一旦静止した後、素早い速さで後方へブン投げた。
ドダーンっ!!
という衝撃音が会場に響き、馬淵は後頭部を強打。
しかし、氏家はクラッチを離さず、再度起き上がり再び後ろへ投げた。
更に大きい衝撃音と共にマットに叩きつけられると、氏家はコーナーに向かった。
レフェリーがカウントを数える。
「ワン、ツー、スリー、フォー…」
起き上がってくる気配がない。
レフェリーはカウントを止め、ゴングを要請した。
【カンカンカンカンっ!】
そして氏家の右手を挙げた。
4分13秒、ジャーマンスープレックス二連発によるレフェリーストップで氏家の勝利。
氏家はこれで15回目の防衛に成功。
場内は歓声と落胆の声が入り交じる。
氏家に賭けた観客は大喜び、馬淵に賭けた観客は悔しさを露わにする。
「今道クン」
「ハイ」
「あなたはあの技を修得しなさい」
あの技とは、フィニッシュのジャーマンスープレックスだ。
「あの技…ですか?」
「プロレス技の芸術品とも言えるジャーマンスープレックス。
昨今では、フィニッシュホールドどころか、繋ぎ技になってしまいました。
ですが、掛ける選手によっては、十分フィニッシュホールドになる技です。
いいですね、今道クン」
「ハ、ハァ」
レスラーは徹底的に首を鍛える。
ジャーマンスープレックスの様なブリッジを必要とする技は首の太さは必要不可欠だ。
リング上では、チャンピオンベルトが返還され、この日のファイトマネー4億6千万の小切手が贈呈された。
「何だ、あの金額は?」
今道は目を白黒させていた。
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