UWP(Under World Prowrestling)

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10年前

トレーニング

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今道が仮入団して1ヶ月が経過した。


その間に、通っていた高校は退学をした。

道場に毎日通うとなれば、学校に行ってる時間などない。


今道自身も、高校生活に何も見い出せない事に疑問を持っていたからだ。


毎日6時に起床し、身支度をしてから7時頃には家を出る。


住んでいるアパートの付近の公園前には必ず黒のワンボックスカーが停まっている。


UWPのスタッフが今道を送り迎えしているのだ。


後ろのスライドドアを開け、「おはようございまーす、今日もよろしくお願いします!」

と挨拶するのが一日の始まりだ。


国道を走り、約30分程で道場に到着。


工場を改装した道場のドアを開けると、東郷がジャージ姿で出迎える。


「おはようございます、今道クン。
では、早速始めましょうか」


笑みを浮かべているが、いつも目は笑ってない。


「この1ヶ月でスクワット2000回が出来るようになりましたので、今日からは腕立て伏せや腹筋を行っていきましょう」


スクワット2000回は何とかクリアした。


ズブの素人がたった1ヶ月で出来る事は皆無に等しい。


やはり、東郷の見立て通り、今道は筋持久力に優れている。


「出来るかな」


東郷のトレーニングはかなりハードだ。


それでも、今道は音を上げずに食らいつく。


東郷は今道の筋力に可能性を感じた。


今はまだ発展途上だが、ゆくゆくは神宮寺が理想とするレスラー像に近づくであろうと。


「今道クン、今まで腹筋は何回までやった事ありますか?」


「えぇっと…そう言えば、腹筋ってやった事無いような」


「腹筋をやった事が無いって…体育の授業でも無いのですか?」


「…覚えてないんですよね~」


間延びした受け答えに力が抜ける。


「あなた、周りから天然て言われませんか?」


呆れた顔で訊ねる。


「あぁ、そう言えば…弟や妹からよく、兄ちゃんて天然だよねって言われますね」


屈託のない顔で答える。



何がなんでも、家族を守るんだ!という悲壮感は無く、緊張感の無い飄々とした表情だ。


「まぁ、いいでしょう。では、腹筋をまずは100回やってみましょう」


「100回?!そんなにやるんですか?」


いちいち驚く。


「プロレスラーは100回なんて朝メシ前ですよ!何なら、ウォーミングアップみたいなもんですよ」


「マジか…」


仰向けで両腕を頭の後ろで組み、膝を伸ばして腹筋力だけで起き上がる。


「ンがッ…ぬぬぬぬ、フン!」


辛うじて1回は出来たものの、その後が続かない。


「1回しか出来ないとは」


呆れて何も言う気がしない。




そうこうしているうちに、時計の針は11:00を回ろうとしている。


「今道クン…運動経験が無いとは言え、ここまで出来ないとは、ある意味奇跡ですよ」


「そ、そうすか?」


スタートしてから3時間以上経過している。


出来た回数はたったの3回。


「お腹が痛ぇっす!」


今まで使ったことの無い筋肉を使っているせいで、腹回りが筋肉痛になってる。


「お腹に力を入れながら、息を吐く同時に起き上がるのです。さぁ、やってみなさい」


「フンっ」


言われた通りやってみると、案外簡単に出来た。


「あ、出来た」


「そうです。その調子でドンドンやってみてください」


コツを掴んだのか、先程までがウソのようにスイスイと回数を重ねる。


(正しいやり方を教えれば、スポンジのように吸収していく。
これは、掘り出し物なのかもしれない)


東郷の目に狂いはなかった。



それから1時間が経過した。



「今道クン、今何回目かわかりますか?」


一心不乱に腹筋を続けている。


滝のような汗を吹き出し、それでも一定のリズムで起き上がる。


「さ、さぁ…何回…ですかね」


「これで437回です」


「エッ、そんなに?」


本人も驚く程の回数だ。


不思議とキツイとは思わなかった。


「後少しで500回です。さぁ、ラストスパートです!」


「ウォォォォォ!」


ラストスパートをかけた。



「…ハイ、これで500回です」


「お、終わった…ハァハァ…」


終わったと同時にバタンと倒れた。


「よく頑張りました。ちょうどお昼だし、ご飯を食べましょう」


東郷は大きな鍋をテーブルに置いた。

「うぇ~、またこれ全部食べるんすか?」


鍋の中身はチャンコだ。


魚介類や肉、野菜がたくさん入った栄養満点のチャンコだ。


「当たり前です。プロレスラーはたくさん練習して、たくさん食べるのも仕事なんです」


強靭な肉体を作り上げるのはハードな練習と限界を越えるほどの食事量が必要となる。


「いくら何でも、こんなに食えないっすよ」


「いいですか、プロレスラーは何故あんな身体付きになるのか。
それは、パワーとスピード、そして驚異的なスタミナを付ける為にハードな練習と食事量が必要不可欠なのです」



「とは言っても…」


この量は異常だ。



「ただハードなトレーニングだけじゃダメなんです。
前にも言いましたが、プロレスラーは相手の技を受けるのも見せ場なのです」


「ちょ、ちょっと待ってください」


疑問が生じた。


「何ですか?」


「相手の技を受けるって、何で受けるんですか?」


「あなたはプロレスを見た事が無いのですか?」


「前にも言いましたが、殆ど見た事無いです」


同じ返しをした。



「プロレスラーは、相手の技を受けてもビクともしない頑丈な身体だというアピールが必要なんです。
互いに技を出し合い、極限まで耐え抜いて、最後に立ってるのが真のレスラーなんです。わかりますか?」


「何で技を受けるのかが全くわかりません」



「ハァ~…一筋縄ではいかないな」


説明するのにかなり時間がかかりそうだ。
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