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クライマックス

攻略法その6

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毎年3割を打つロドリゲスは、ブンブン振り回すだけのフリースインガーではない。


バットコントロールに優れ、逆方向へ打ち返す技術も兼ね備えている。


ホームラン狙いに徹すれば、年間50本は打てるだろうと専門家は言う。


キングダムでは自分はあくまでも翔田に繋ぐ為の役割と考え、長打に頼らず状況に応じたバッティングをする。


(しかしまぁ、何処投げても届きそうなリーチだな)


リードに悩む。

ロドリゲスはインハイに弱いというが、インハイ一辺倒のピッチングでは打たれてしまうし、一歩間違えればデッドボールにもなりかねない。


サンピエールの球種は速球系(フォーシーム、ツーシーム)縦横のスライダー、チェンジアップ。


以前カーブにトライしたが、曲がりが小さく打ち頃のボールになってしまう為、封印している。



(力で押すしか無い)


力には力で、保坂のリードは決まった。


サインに頷き、トルネードから初球を投げた。

勢いのあるフォーシームが高目へ。


ピクっと一瞬手が動いたが、スイングの動作には入ってない。


「ボール!」


高目に外れたが、スピードガンは161kmを表示。


160kmという、限界を超えた左腕は未知の世界へ突入したかのように、期待と不安が入り混じる。


(ビビる事は無ぇ、ドンドン攻めるんだ)


強気のリードでサンピエールを引っ張る。


サンピエールはサインに頷き、速いモーションから二球目を投げた。


インコース低目へ今度はツーシーム。


「haッ…」


ロドリゲスは動きを読んでいたかの様に、オープンスタンスから凄まじい速さでボールを捕えた。

打球はグーンと左へ切れてファール。


154kmのツーシームだったが、コースは読まれていた。


(どんな速い球を投げても、打たれる時は打たれるんだ)


そう思い、開き直ってフォーシームのサインを出した。


(ん?待てよ…)


保坂は咄嗟にサインを引っ込めた。


(速い球だから打たれる…速くない球だったら?)


逆の発想で新たなサインを出す。


サンピエールは一瞬「…ん?」という顔をしたが、すぐさま投球動作に入った。

先程と同じく、速いモーションから鋭く左腕を振り抜いた。


ロドリゲスは同時にバットスイングの動作に入ったが、スピードはかなり遅い。


「oh…」

タイミングを外されたロドリゲス。

ボールはバットの先端に当たり、力の無い打球はショートへ。


石川が軽快に捌いてスリーアウトチェンジ。


1回の裏、キングダムの攻撃は三者凡退に終わった。




その後両チームは無得点のまま、7回の裏まで進む。


この回、打順は5番丸藤から。


【5番キャッチャー丸藤】


自然色のバットを手に、丸藤が右打席に入り左肘のエルボーガードを直し、足元を固める。


ここ数試合は坂上に代わり、5番を打つ。


オールスター前までは2割前半の打率だったが、後半戦から調子を取り戻し打率は283まで上昇。


本塁打の数は5と少ないが、チャンスに強く得点圏打率は3割5分を越える。


マウンド上のサンピエールはここまで86球を投げて被安打4、2四球、7奪三振。


序盤飛ばし過ぎたせいか、球速は150km前後まで落ちた。


「監督、どうします?」


櫻井は続投か否かを聞く。

まだ100球を越えてないが、そろそろ交代時だ。


「ケースケ、どうだアイツ?」

榊は高峰に委ねる。


「ウーン…まだピンチになってないですし、これから下位打線だからもう少し様子を見たいですね」


左のエースとして、ここを乗り越えて欲しいと願う。


高峰はブルペンに電話を繋いだ。


「そっちはどうなってる?」


「今ね、加勢くんと山本くんが急ピッチで肩を作ってる最中だから、もう少し時間をくれる?」


水卜はブルペンでリリーフ陣の様子を伝える。


「カントク、まだ肩が出来上がってないみたいです」


「そうか…仕方ない、この回は何がなんでも乗り越えてもらわないと」


「いいえ、もう交代です」


櫻井は交代するべきだと言う。


「ヒロト、まだ肩が出来上がってないんだぞ!それを交代だなんて、ムリだ」


高峰は首を振る。


「高峰さん…ペナントはもう大詰めなんですよ?私情を挟む余地は無いんです。
いいですか、今日はどんな事があっても勝つんです!
そして、翔田というピッチャーに引導を渡すんですっ!」


冷静沈着な櫻井が声を張り上げ、交代を主張する。


ここまで執拗にこだわるのは全て翔田という、日本球界が誇る二刀流を完膚なきまでに打ちのめす為だ。


「ふざけるなっ!いくらヘッドコーチと言えど、投手交代の権限はオレにあるんだ!勝手な事するな!」


高峰も負けじと応戦する。


「甘いですよ、高峰さん!アナタ、本気で優勝するつもりあるんですか?」


櫻井も一歩も引かない。


「Stop fighting, both of you!(二人ともケンカは止めろ!)」

トーマスが間に割って入る。


「ケースケ、ヒロト!こんな時に言い争いしてる場合じゃないだろ!」

大和守備走塁コーチも二人をなだめる。


榊はその様子を腕組みしながら見ている。


「ヨシっ、ピッチャー交代だ!」


榊は交代する事に決めた。


「カントク、何いってんですか!もう少しだけ待って下さい!」


「ケースケ、ここはオレに任せろ!いいな」


高峰の肩をポンと叩き、榊はベンチを出た。

主審に交代を告げると、マウンドに向かった。


【スカイウォーカーズ選手の交代をお知らせします。ピッチャー サンピエールに代わって東山。ピッチャー サンピエールに代わって東山。背番号11】


ルーキー東山がリリーフに回った。


「カントクっ…東山は今度の登板予定なのにっ!」


これじゃローテーションがおかしくなる!高峰は怒りに任せ、ベンチの椅子を蹴り上げ、スポーツドリンクの入ったサーバーをバットで叩きつけて壊し、床にスポーツドリンクが溢れてユニフォームが濡れてしまう選手も。


「冗談じゃない!これじゃ、オレがいる意味が無いだろ!」


吐き捨てる様にしてベンチの奥へ消えていった。


この交代でコーチ同士が衝突したスカイウォーカーズベンチ。

それでも櫻井は勝利の為に非情になる。
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