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クライマックス
攻略法その5
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倉澤はアベレージ用のグリップが大きいバットを短く持ち、小さい身体を更に縮こませるようなフォームをとる。
この構えで206本の最多安打を記録する。
彼もリードオフマンの湯原と同じく俊足でベースランニングは一流だが、盗塁数は少ない。
今シーズンは打率281 ホームラン0 打点37 盗塁10
出塁率は湯原より上の384で、得点はリーグトップの97
この1,2番のテーブルセッターが塁に出て3番ロドリゲス、4番翔田の長打でランナーを返す。
(このコンビが厄介なんだよな…)
さて、どうしたものかと配球を組み立てる。
(この人は長打が無いし、非力だからやっぱり球威のある球が有効だよな)
となると、サンピエールの荒れ球でもあるファストボールしかない。
(ここだ、サンちゃん…思っきり暴れてくれ)
サインを見てサンピエールはニヤッと笑う。
青い瞳を光らせ、身体を極限まで捻りしなやかな左腕を高速で振り抜く。
インハイのフォーシーム、だが顔の付近だ。
「危ね…」
俊敏な倉澤は咄嗟に避けた。
「ボール!」
場内が更にどよめく。
球速は161kmをマークした。
サンピエール自身初の160km越えだ。
「おぉ~、とうとう160km出したか」
「いずれ出るだろうとは思ってましたが、ここで出すとは…コントロールは良くないけど、それを差し引いてもこの速球は魅力ですよ」
「スゴーイ、とうとう160km越えたんだ!球が荒れてるから、バッターとしてイヤかもね」
投手コーチの高峰と水卜は満足気だ。
「でも…この調子じゃ、早い段階でスタミナ切れしそうですけどね」
櫻井は冷静に分析する。
「完投させようとは思ってねぇし、行けるところまで行って、バテたら交代すりゃいいんだ」
初回から全力で投げて、疲れが見えたらスパッと替えるつもりでいるらしい。
「おい、保坂!テメー、今のワザとだろ?」
その言葉とは裏腹に、倉澤の表情はにこやかだ。
「ワザとじゃないっすよ、サンちゃんコントロール良くないもんで」
「コントロール悪いピッチャーにインハイなんて要求すんなよ」
「そうっすね…あんなもんが当たったら、シャレになんないっすよね」
「頼むぜ、ホントに」
「了解っす!」
倉澤は温厚な性格で、チームメイトでさえも彼が怒ったのを見た事が無いという。
保坂は、倉澤ならこのコースに投げても怒らないだろうという確信があった。
(この人、良い人なんだけど勝負に徹するには、色々と揺さぶりをかけないとな)
これも勝つ為だ、と割り切る。
一旦は保坂のサインに首を振ったサンピエールだが、二度目のサインに頷いた。
と言っても、首を振るのはフェイクで打ち合わせの際、何度か首を振るよう保坂と作戦を立てた。
ノーワインドアップから上体を捻り、二球目を投げた。
今度は大きく曲がるスライダー。
「おっ…」
倉澤はタイミングを外され、バットが出ない。
「ストライク!」
コースは甘かったが、球速は116km
緩急をつけたピッチングで翻弄する。
(コントロールはイマイチだけど、球のキレは抜群だ…これならイケるかも)
保坂は手応えを感じた。
一度座り直し、サインを出す。
だがサンピエールは首を振り、今度は自らサインを出す。
「何だ、あのヤロー!サイン無視かよ」
怒った口調だが、これもフェイクだ。
トルネードから三球目を投げた。
インコース低目、絶妙なコースに速球が。
「ホップする…」
低いと思ったが、予想以上にボールは伸びた。
「ストライクツー!」
コントロールの良くないサンピエールだが、今のコースは手が出ない絶妙のクロスファイアボールだ。
球速は159km
球威もあって、小柄で非力な倉澤が打ってもヒットにするのは難しいだろう。
打席を外し、素振りをして脳裏に焼き付いたボールをイメージする。
「フゥー」と息を吐き、再び打席に入った。
マウンドではサンピエールがロージンバッグを手にしてる。
今度は一度目のサインに頷いた。
身体をひねり、四球目を投げた。
アウトコース低目、コースは十分。
倉澤がバットを合わせるが、鋭く縦に変化した。
「あっ…」
ボールの上っ面を叩き、打球はファースト正面のゴロ。
結城が捕って自らベースを踏む。
「アウト!」
縦のスライダーで打ち取りツーアウト。
ストレートと変わらない軌道で鋭く変化する。
球のキレはチームでも1,2を争う。
【3番ライト ロドリゲス 背番号44】
来日6年目、ドミニカの主砲カルロス・ロドリゲスがノッシノッシと巨体を揺すらせ、豪快にバットをブンブン振って右打席に入る。
褐色の肌に193cm98kgという巨体。
口ひげをたくわえ、強面の顔だがひょうきんな一面を持ち、カメラの前でユーモラスな仕草をして翔田と共にキングダムの顔として知名度も高い。
ファンサービスも良く、気さくにサインや写真撮影に応じる。
一度打席に入れば、猛獣の様な鋭い目付きで相手ピッチャーをも飲み込んでしまう程の迫力だが、普段は笑顔を絶やさない陽気なドミニカン。
本職はファーストだが、翔田が守備に負担が掛からないようにとファーストを守る為、ライトにコンバートされた。
初来日から常に3割をキープし、本塁打も30本をクリア、打点は100を越える。
今シーズンは打率304 ホームラン21 打点63 盗塁1
出塁率352 長打率524 OPS0.876
翔田という絶対的主砲の影に隠れがちだが、本塁打率は圧倒的にロドリゲスの方が上だ。
バットをトップの位置で垂直に持ち、オープンスタンスで打席の後ろに立つ。
スピードとパワーを兼ね備えたスイングは、ピンポン玉の様に軽々とスタンドへ運んでしまう。
保坂は丸太ん棒の様な上腕二頭筋を見てサインを出した。
この構えで206本の最多安打を記録する。
彼もリードオフマンの湯原と同じく俊足でベースランニングは一流だが、盗塁数は少ない。
今シーズンは打率281 ホームラン0 打点37 盗塁10
出塁率は湯原より上の384で、得点はリーグトップの97
この1,2番のテーブルセッターが塁に出て3番ロドリゲス、4番翔田の長打でランナーを返す。
(このコンビが厄介なんだよな…)
さて、どうしたものかと配球を組み立てる。
(この人は長打が無いし、非力だからやっぱり球威のある球が有効だよな)
となると、サンピエールの荒れ球でもあるファストボールしかない。
(ここだ、サンちゃん…思っきり暴れてくれ)
サインを見てサンピエールはニヤッと笑う。
青い瞳を光らせ、身体を極限まで捻りしなやかな左腕を高速で振り抜く。
インハイのフォーシーム、だが顔の付近だ。
「危ね…」
俊敏な倉澤は咄嗟に避けた。
「ボール!」
場内が更にどよめく。
球速は161kmをマークした。
サンピエール自身初の160km越えだ。
「おぉ~、とうとう160km出したか」
「いずれ出るだろうとは思ってましたが、ここで出すとは…コントロールは良くないけど、それを差し引いてもこの速球は魅力ですよ」
「スゴーイ、とうとう160km越えたんだ!球が荒れてるから、バッターとしてイヤかもね」
投手コーチの高峰と水卜は満足気だ。
「でも…この調子じゃ、早い段階でスタミナ切れしそうですけどね」
櫻井は冷静に分析する。
「完投させようとは思ってねぇし、行けるところまで行って、バテたら交代すりゃいいんだ」
初回から全力で投げて、疲れが見えたらスパッと替えるつもりでいるらしい。
「おい、保坂!テメー、今のワザとだろ?」
その言葉とは裏腹に、倉澤の表情はにこやかだ。
「ワザとじゃないっすよ、サンちゃんコントロール良くないもんで」
「コントロール悪いピッチャーにインハイなんて要求すんなよ」
「そうっすね…あんなもんが当たったら、シャレになんないっすよね」
「頼むぜ、ホントに」
「了解っす!」
倉澤は温厚な性格で、チームメイトでさえも彼が怒ったのを見た事が無いという。
保坂は、倉澤ならこのコースに投げても怒らないだろうという確信があった。
(この人、良い人なんだけど勝負に徹するには、色々と揺さぶりをかけないとな)
これも勝つ為だ、と割り切る。
一旦は保坂のサインに首を振ったサンピエールだが、二度目のサインに頷いた。
と言っても、首を振るのはフェイクで打ち合わせの際、何度か首を振るよう保坂と作戦を立てた。
ノーワインドアップから上体を捻り、二球目を投げた。
今度は大きく曲がるスライダー。
「おっ…」
倉澤はタイミングを外され、バットが出ない。
「ストライク!」
コースは甘かったが、球速は116km
緩急をつけたピッチングで翻弄する。
(コントロールはイマイチだけど、球のキレは抜群だ…これならイケるかも)
保坂は手応えを感じた。
一度座り直し、サインを出す。
だがサンピエールは首を振り、今度は自らサインを出す。
「何だ、あのヤロー!サイン無視かよ」
怒った口調だが、これもフェイクだ。
トルネードから三球目を投げた。
インコース低目、絶妙なコースに速球が。
「ホップする…」
低いと思ったが、予想以上にボールは伸びた。
「ストライクツー!」
コントロールの良くないサンピエールだが、今のコースは手が出ない絶妙のクロスファイアボールだ。
球速は159km
球威もあって、小柄で非力な倉澤が打ってもヒットにするのは難しいだろう。
打席を外し、素振りをして脳裏に焼き付いたボールをイメージする。
「フゥー」と息を吐き、再び打席に入った。
マウンドではサンピエールがロージンバッグを手にしてる。
今度は一度目のサインに頷いた。
身体をひねり、四球目を投げた。
アウトコース低目、コースは十分。
倉澤がバットを合わせるが、鋭く縦に変化した。
「あっ…」
ボールの上っ面を叩き、打球はファースト正面のゴロ。
結城が捕って自らベースを踏む。
「アウト!」
縦のスライダーで打ち取りツーアウト。
ストレートと変わらない軌道で鋭く変化する。
球のキレはチームでも1,2を争う。
【3番ライト ロドリゲス 背番号44】
来日6年目、ドミニカの主砲カルロス・ロドリゲスがノッシノッシと巨体を揺すらせ、豪快にバットをブンブン振って右打席に入る。
褐色の肌に193cm98kgという巨体。
口ひげをたくわえ、強面の顔だがひょうきんな一面を持ち、カメラの前でユーモラスな仕草をして翔田と共にキングダムの顔として知名度も高い。
ファンサービスも良く、気さくにサインや写真撮影に応じる。
一度打席に入れば、猛獣の様な鋭い目付きで相手ピッチャーをも飲み込んでしまう程の迫力だが、普段は笑顔を絶やさない陽気なドミニカン。
本職はファーストだが、翔田が守備に負担が掛からないようにとファーストを守る為、ライトにコンバートされた。
初来日から常に3割をキープし、本塁打も30本をクリア、打点は100を越える。
今シーズンは打率304 ホームラン21 打点63 盗塁1
出塁率352 長打率524 OPS0.876
翔田という絶対的主砲の影に隠れがちだが、本塁打率は圧倒的にロドリゲスの方が上だ。
バットをトップの位置で垂直に持ち、オープンスタンスで打席の後ろに立つ。
スピードとパワーを兼ね備えたスイングは、ピンポン玉の様に軽々とスタンドへ運んでしまう。
保坂は丸太ん棒の様な上腕二頭筋を見てサインを出した。
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