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クライマックス
攻略法その2
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ラファエルは思い出していた。
(何で、あの時の事を思い出さなかったのだろう…危うく退場食らいそうになったせ)
あの時とは今から半月程前、フリーバッティングで新たに左キラーとして一軍に昇格した寶井が投げていた。
寶井は左のアンダースローで、ワンポイントリリーフとして左の強打者相手に投げる。
ラファエルはフリーバッティングで寶井の球に手こずった。
「Not yet! One more ball!(まだだっ、もう一球!)」
「えぇ、もう30球も投げてるのに…」
ラファエルは一度も打球を飛ばす事が出来ない。
せめて、一球だけでもいいからヒット性の当たりが欲しい!
ラファエルに付き合わされた寶井は結局、シート打撃で50球以上投げた。
最後に根負けした寶井が打ちやすいボールを投げて、ラファエルはスタンドに打ち込んだ。
「Okay, that's how it feels!(よし、この感覚だ!)」
とても攻略したとは思えないが、アンダースローの球筋は把握したハズ。
(オレはバカだ…何故、この時の事を思い出さなかったんだ!)
右と左との違いはあれど、下手投げ特有の浮き上がるボールは分かっていたつもりだった。
来季メジャーに復帰する事ばかり考えていたラファエルは、この時の練習をウッカリ忘れていた。
(何がメジャーだ!アンダースローのピッチャーもロクに打てないクセに、メジャーなんて夢のまた夢だ!)
「fu~っ」
大きく息を吐き、脱力の状態でバットを構える。
力むとスイングに影響が出る。
柔の構えでインパクトの瞬間、剛のスイングで打球を飛ばす。
キャッチャーの丸藤は一球外すサインを出す。
(いらねぇよ、そんなムダな球は!この球で仕留める)
井上は首を振り、自らサインを出す。
(そうか…ならば好きなように投げればいい)
丸藤は井上のサインに従った。
見下すかのような笑みをたたえ、井上が四球目を投げた。
アウトコース低目の直球だ。
「…ゲッ、ヤバい」
丸藤が思わず声を上げた。
流れるような動作でラファエルはスムーズにバットを出す。
長いリーチで外角低めの球を捕らえると、インパクトの瞬間に力を込め、身体の中心を軸にして鋭く回転した。
ガツーン!という音がして、打球は左中間へ上がった。
レフトスナイダー、センター篠田がボールを追う。
だが打球は嘲笑うかの様に、その頭上を越えスタンドに入った。
「入った…」
ネクストバッターズサークルでは、唐澤が立ち上がり打球の行方を追っていた。
ウォーっ!という場内のどよめきが響く。
ラファエルの第14号先頭打者本塁打で、スカイウォーカーズが早くも1点を先制した。
「さすが、現役メジャーリーガー…」
ベンチでは結城が微笑を浮かべる。
打ったラファエルは表情を変えず、淡々とベースを回る。
メジャーリーガーはホームランを打ってもガッツポーズはしない。
メジャーの不文律として、ガッツポーズをすると次の打席で報復に遭うからだ。
ラファエルがホームを踏んだ。
「スゲー、ラファエル!」
唐澤がホームで出迎え、ハイタッチを交わす。
ベンチに戻ると、真っ先に結城の下に駆け付けた。
「Chisato, thanks to your advice!(チサト、君のアドバイスのお陰だ!)」
「As expected of a major leaguer!(さすが、現役メジャーリーガー!)」
結城と抱擁を交わし、喜びを爆発させる。
ラファエルは選手達に手洗い祝福を受け、上機嫌でヘルメットを脱いだ。
「付け入るスキはまだまだありますよ」
戦況を見つめ、櫻井はボソッと呟く。
「ん、付け入るスキってのは?」
榊には何の事だか理解出来ない。
「フフっ、簡単ですよ。今までピッチャーが投げる際、サインは全て翔田くんが出していた…
だが、今はサインを出していない。
ファーストを守っている翔田くんがあからさまにサインを出せば、どんな配球をするのかすぐにバレてしまいます。
だから、翔田くんはサインを出せない。
出せないとなると、バッテリー間でサインを出さなきゃなりません…
こう言っては何ですが、丸藤くんはキャッチャーとしてのリード面はかなり劣る。
井上くんがサインを出しましたが、あの場面は丸藤くんのサインに従うべきです。
それなのに、丸藤くんは井上くんに任せてしまった…
ピッチャー任せのキャッチャーなんて、壁と一緒です」
櫻井はキングダムのバッテリーをも分析していた。
「て事は、翔田を出す前に打ちまくって勝ちゃいいって事だな!」
「いえ、それでは真の攻略法とは言えません」
櫻井は首を振った。
「えっ…じゃあ、どうするって言うんだ?」
「ワンサイドゲームにならないよう、極力打つのを控えるんです」
「控えるって…それじゃ、終盤に翔田が出てくるじゃねえか!」
櫻井は不敵な笑みを浮かべる。
「翔田くんを打ち崩して本当の攻略法になるんです…
でも、今日の試合は彼の出番は無さそうですね」
「オレには何が何だか…攻略法って言うけど、実際に見た事無いから何とも言えないし…」
「この三連戦の最後の試合に彼を引きずり出しましょう…
そして、翔田くんは今シーズン終了です」
シーズン終盤を迎え、冷酷に変わった櫻井が翔田に引導を渡す。
(何で、あの時の事を思い出さなかったのだろう…危うく退場食らいそうになったせ)
あの時とは今から半月程前、フリーバッティングで新たに左キラーとして一軍に昇格した寶井が投げていた。
寶井は左のアンダースローで、ワンポイントリリーフとして左の強打者相手に投げる。
ラファエルはフリーバッティングで寶井の球に手こずった。
「Not yet! One more ball!(まだだっ、もう一球!)」
「えぇ、もう30球も投げてるのに…」
ラファエルは一度も打球を飛ばす事が出来ない。
せめて、一球だけでもいいからヒット性の当たりが欲しい!
ラファエルに付き合わされた寶井は結局、シート打撃で50球以上投げた。
最後に根負けした寶井が打ちやすいボールを投げて、ラファエルはスタンドに打ち込んだ。
「Okay, that's how it feels!(よし、この感覚だ!)」
とても攻略したとは思えないが、アンダースローの球筋は把握したハズ。
(オレはバカだ…何故、この時の事を思い出さなかったんだ!)
右と左との違いはあれど、下手投げ特有の浮き上がるボールは分かっていたつもりだった。
来季メジャーに復帰する事ばかり考えていたラファエルは、この時の練習をウッカリ忘れていた。
(何がメジャーだ!アンダースローのピッチャーもロクに打てないクセに、メジャーなんて夢のまた夢だ!)
「fu~っ」
大きく息を吐き、脱力の状態でバットを構える。
力むとスイングに影響が出る。
柔の構えでインパクトの瞬間、剛のスイングで打球を飛ばす。
キャッチャーの丸藤は一球外すサインを出す。
(いらねぇよ、そんなムダな球は!この球で仕留める)
井上は首を振り、自らサインを出す。
(そうか…ならば好きなように投げればいい)
丸藤は井上のサインに従った。
見下すかのような笑みをたたえ、井上が四球目を投げた。
アウトコース低目の直球だ。
「…ゲッ、ヤバい」
丸藤が思わず声を上げた。
流れるような動作でラファエルはスムーズにバットを出す。
長いリーチで外角低めの球を捕らえると、インパクトの瞬間に力を込め、身体の中心を軸にして鋭く回転した。
ガツーン!という音がして、打球は左中間へ上がった。
レフトスナイダー、センター篠田がボールを追う。
だが打球は嘲笑うかの様に、その頭上を越えスタンドに入った。
「入った…」
ネクストバッターズサークルでは、唐澤が立ち上がり打球の行方を追っていた。
ウォーっ!という場内のどよめきが響く。
ラファエルの第14号先頭打者本塁打で、スカイウォーカーズが早くも1点を先制した。
「さすが、現役メジャーリーガー…」
ベンチでは結城が微笑を浮かべる。
打ったラファエルは表情を変えず、淡々とベースを回る。
メジャーリーガーはホームランを打ってもガッツポーズはしない。
メジャーの不文律として、ガッツポーズをすると次の打席で報復に遭うからだ。
ラファエルがホームを踏んだ。
「スゲー、ラファエル!」
唐澤がホームで出迎え、ハイタッチを交わす。
ベンチに戻ると、真っ先に結城の下に駆け付けた。
「Chisato, thanks to your advice!(チサト、君のアドバイスのお陰だ!)」
「As expected of a major leaguer!(さすが、現役メジャーリーガー!)」
結城と抱擁を交わし、喜びを爆発させる。
ラファエルは選手達に手洗い祝福を受け、上機嫌でヘルメットを脱いだ。
「付け入るスキはまだまだありますよ」
戦況を見つめ、櫻井はボソッと呟く。
「ん、付け入るスキってのは?」
榊には何の事だか理解出来ない。
「フフっ、簡単ですよ。今までピッチャーが投げる際、サインは全て翔田くんが出していた…
だが、今はサインを出していない。
ファーストを守っている翔田くんがあからさまにサインを出せば、どんな配球をするのかすぐにバレてしまいます。
だから、翔田くんはサインを出せない。
出せないとなると、バッテリー間でサインを出さなきゃなりません…
こう言っては何ですが、丸藤くんはキャッチャーとしてのリード面はかなり劣る。
井上くんがサインを出しましたが、あの場面は丸藤くんのサインに従うべきです。
それなのに、丸藤くんは井上くんに任せてしまった…
ピッチャー任せのキャッチャーなんて、壁と一緒です」
櫻井はキングダムのバッテリーをも分析していた。
「て事は、翔田を出す前に打ちまくって勝ちゃいいって事だな!」
「いえ、それでは真の攻略法とは言えません」
櫻井は首を振った。
「えっ…じゃあ、どうするって言うんだ?」
「ワンサイドゲームにならないよう、極力打つのを控えるんです」
「控えるって…それじゃ、終盤に翔田が出てくるじゃねえか!」
櫻井は不敵な笑みを浮かべる。
「翔田くんを打ち崩して本当の攻略法になるんです…
でも、今日の試合は彼の出番は無さそうですね」
「オレには何が何だか…攻略法って言うけど、実際に見た事無いから何とも言えないし…」
「この三連戦の最後の試合に彼を引きずり出しましょう…
そして、翔田くんは今シーズン終了です」
シーズン終盤を迎え、冷酷に変わった櫻井が翔田に引導を渡す。
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