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後半戦

合流

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天海は一軍と合流した。


翌日からは本拠地秋田のマーリンズフィールドで、首位の東京キングダムとの三連戦を控える。

選手達は室内練習場で軽めの調整をしていた。

「あ、天海だ!」


その声で一斉に視線が降り注ぐ。


「来たか…」


主砲の羽田が天海に近寄る。


「ようこそ、これからヨロシクな」

右手を差し出す。


「あ?何や、それ?」


「何って、握手だよ」


羽田は右手を差し出したままだ。


「…止めとくわ」


スっと横切る。


「おい、いつまでボッチでいるつもりだ?少しはチームに溶け込もうとする気持ちはないのか」


「チームに溶け込む?は…アホ言え!オレは投げる、お前は打つ!それだけでええやん。
お互いプロなんだから、その辺はキッチリやるだけでええやろ」


オレはオレ。チームワークだとか、そんなもんは必要無い。
グラウンドに立てばプロとして仕事をするだけ。


誰とも仲良くつもりは無い。


天海はストレッチを始めた。


「まぁ、ムリに仲良くしようと言うつもりは無いが、何か困った事があればオレに言ってくれ」


「おおきに」


素っ気ない返事で前屈をした。




ストレッチの後は軽く球場をランニングして、ブルペンで投球練習をする。


鈴木監督とはまだ会ってない。


「コーチ、監督はどこにおるんや?」


「監督?多分監督室じゃないのか」


「監督室かい…」

タオルで額の汗を拭い、監督室へ向かった。




コンコン


「誰だ?」


「天海っす」


「入れ」


ドアを開けた。


「失礼します」


鈴木監督は窓からグラウンドを眺めていた。


「練習はどうした?」


「今終わらせてきたところや」


監督は後ろを向いたままだ。


「何の用だ?」


「何って、そらご挨拶に伺っただけや」


「フッ、挨拶だと…」


「ええ、それとお願いがあって来ました」


「何だ、お願いってのは?」


天海は頭を下げた。

「監督、明日の試合オレを先発にしてください」


「…」

鈴木監督は無言でグラウンドを眺めたままだ。


「頼んます、監督!明日、オレを先発で使ってください!」

静寂の中、天海の声が部屋に響く。

「天海…」

「はい」


「何故、明日の先発にこだわる?」


「それは…」


鈴木監督がこちらを振り向いた。


「明日はキングダムが翔田の先発だからか?」


「…ええ、そうです。翔田に対抗出来るのはオレしかおらへん。オレが先発やったら、アイツに勝てる!そやから監督、明日オレを先発にしてください!」


再度頭を下げた。


「人に頭を下げるのが大嫌いなお前が、こうやって頭を下げるとはな」


メガネを掛け、神経質そうな顔立ちで天海を見る。


威厳で、かつての同僚であるヤンキース監督の守山とは一味違った、近寄り難い雰囲気を身に纏う。


「優勝する為なら、頭を下げるぐらいどうって事あらへん!せやから監督、どうか明日の先輩はオレに!」


「お前、翔田に勝てる自信はあるのか?」


静かにだが、よく通った声で聞いた。


「勿論や!ダテに二軍で球遊びしてたワケやない!今までとは違って、進化した投球をあのガキに見せつけてやる!」


「お前個人の事などどうでもいい。チームが勝つ。その事を最優先にしているんだ、わたしは」


しかし天海も食い下がる。


「勝つ為なら、オレしかおらへんやないか!他に勝てるピッチャーがいるというんか?」


「そこまで言うなら、明日の先発はお前に変えよう」


「おおきに!」


「だが…」

鈴木監督は一呼吸置いた。

「もし勝てなかった場合、お前は再び二軍だ。それでもいいと言うなら、明日はお前に任そう」


少し躊躇した。

勝つという事は、どんな良いピッチングをしても打線の援護が無いと出来ない事だ。


果たしてマーリンズのバッターは翔田を打ち崩す事が出来るのか、と。


とは言え、翔田と投げ合うなんて機会はこの先無いのかもしれない。


「よし…分かったで。オレが勝てなかったら二軍でも何処でも構わん」


勝つしかない。


「ならば、明日は必ず勝て。いいな!」


「はい!」


こうして、後半の初戦を先発する事となった。

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