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弱小だった頃

一切口出ししないのが条件

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「高梨くん、何とかして榊くんを監督に引っ張ってきてくれんかぬ?
これはオーナーとしての命令でもあるし、スカイウォーカーズを変えるには彼しかいないんだぬーーん!」


「オーナーの考えは分かりました。ただ、いくら榊さんとは言え、そう簡単にチームを変えることは容易ではないですよ。
時間を掛けて徐々に変えていく事なら可能だとは思いますが」


「時間掛かってもいいんだぬ!スカイウォーカーズを立て直すには、榊くんの監督が絶対条件なんだぬ!」


阿佐は子供の頃、父親の阿佐太智雄(あさたちお)がオーナーをしていた静岡ピストルズのエースだった榊のファンでもある。


傍若無人に振る舞うが、野球に対する情熱とファンを大切にしていた榊は憧れの人物だった。

闘志溢れるプレーでピストルズを牽引した大エースを監督として迎えるのが夢でもあった。


「分かりました…榊さんに打診してみますが、良い返事を貰えるかどうか」


「ミーは榊くんの条件は全て飲むから、是非とも監督になってくれと伝えてくれぬ!」


「分かりました。早速交渉してみます」


かくして、高梨は榊にスカイウォーカーズの監督を要請する段取りを進めた。


後日、高梨は榊と都内の料亭で会談した。



「高梨ぃ、オレはどうもこういう雰囲気が苦手なんだよなぁ」


ここは財政界の有名人がお忍びで訪れる高級料亭。


広々とした座敷で高梨と向かい合わせで上座で落ち着かない様子だ。


「私もこういう場は苦手ですが、まさか大事な話を居酒屋の一室でするワケにもいかないでしょう」


「んで、大事な話ってなんだよ?」

杯を貰い、グイッと飲み干す。


高梨は姿勢を正した。


「榊さん…来季のスカイウォーカーズの監督をやっていただけないでしょうか?」


そう言うと、深々と頭を下げた。


「あー…やっぱ、そういう事だったか」


驚いた様子はない。


「ていう事は…薄々感づいてたというワケでしょうか」


「だってお前、この前酔っ払ってた時にオレに監督になってくれって、何度も言ってたんだぜ」


「いや、その…その節は大変ご迷惑をおかけしました」


泥酔したせいか、高梨は記憶に無いらしい。


「監督ったって、オレはお前も知っての通り、これと言った野球理論も無いし、人脈だってほとんど無いんだぜ?そんなヤツが監督になったって、チームは良くならないぜ」


一応、身の程は弁えているらしい。


「榊さんに野球理論とか、そういうのは求めてません。求めるのは、スカイウォーカーズを変えて欲しい事です」


「変えるねぇ…どうやってあのチームを変えればいいのやら」


さすがの榊でも、そう簡単には変えられないと思っているようだ。


「時間は掛かってもいいんです。とにかくあの負け犬根性を変えて欲しいんです」


榊は無言で杯を傾けた。


「オーナーは、榊さんの出す条件を全て飲むと言っています。そして何より、オーナー自身が榊さんに監督になって欲しいと願っています」


「へぇー、あのバカ息子がね」


「今は立派なオーナーに成長しましたよ。ですから、榊さん…何卒、監督を引き受けてもらえないでしょうか?」

高梨は再度頭を下げた。


「条件はただ一つ。オレのやる事にありがとう一切の口出しは無用。これはオーナーだけじゃなく、お前もオレのやる事には口出しをしない。それでいいと言うなら、監督を引き受けてもいいぜ」


「口出し無用ですか…」


嫌な予感がする。


「おぅ、契約年数とか年俸に関してはそっちの出す条件で構わない。どうだ、これで?」


「ありがとうございます。これでオーナーも喜びますよ」


少しホッとした気分だ。


「チームを変えるってなると、トレードとかFAで補強しなきゃならないだろ?後は助っ人外国人を獲るとか、色々と忙しいな」


「えぇ、まぁそうなんですが…変えるとなると、どのようなお考えがあるんですか?」


「うーん…何せ、今この話を受けたばっかだし、まだ分からんけど、まぁ何とかなるだろ」


(ホントに大丈夫かな…)


そんなワケで、榊は監督就任となった。
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