Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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弱小だった頃

僅か一年で辞任

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当時高梨はスポーツニュースのキャスターをしていた。

慣れないながらも爽やかな笑顔でしかも、丁寧で分かりやすい解説は概ね好評だった。

キャスターが板に付いてきた3年目に転機が訪れた。

古巣の静岡ピストルズが東京の吉祥寺に本拠地を移転して、武蔵野スカイウォーカーズという球団名に変更してからというもの、かつての黄金時代の面影は無く、最下位という定位置をキープしていた。

チームを再建する為に球団は高梨に白羽の矢を立てる。

高梨は迷った。

キャスターとして第2の人生は順風満帆だが、指導者として球界に復帰してみたいという希望もある。

高梨は恩師に相談した。

恩師とは、静岡ピストルズ時代の監督、ナダウ・ヤマオカこと宇棚珍太郎。

珍太郎は「何事もチャレンジだ。少しでもやってみたいという気があるなら、チャレンジしてみろ」
と言われ、高梨はGMを引き受けた。

かつての黄金時代を取り戻す為に、高梨はピストルズ時代のチームメイトでもあり、先輩でもある垣原延昭（かきはらのぶあき）を監督に招聘。

垣原は現役時代ピストルズの一塁手として高梨の後の5番を打っていた。

ピストルズではキャプテンという立場だった高梨だが、垣原は高梨をフォローする形でチームのまとめ役として他の選手からも慕われていた。

ちなみに垣原は榊の高校時代の先輩でもあり、東京キングダムでは投打の主力として活躍。

暴君と呼ばれていた榊ですら、一目置く存在でもある。

「オレに監督なんて務まるワケ無いだろ」

当初、垣原は監督の要請を断っていた。

「垣原さん。スカイウォーカーズの監督は垣原さんしかいません。どうか、スカイウォーカーズ再建に力を貸してください！」

「いや、でもそうは言ってもなぁ」

「お願いします！私もできる限りの事は致します！ですから、何卒力を貸してください！」

何度も垣原の下を訪れ、必死に頼み込む姿に熱意を感じ、監督を引き受けた。

これでチームは変わるだろうと。

しかし、いざペナントがスタートするとスカイウォーカーズは例年通り最下位という定位置。

垣原は新たな戦力を発掘する為にトレードを積極的に行い、ファームで有望な選手を一軍に上げて試合で使う。

垣原が見出した選手は、ピッチャーでは真咲。バッターでは中山だった。

真咲は奈良ドルフィンズを戦力外通告され、合同トライアウトで武蔵野スカイウォーカーズに入団。

120kmそこそこのストレートとスローカーブで緩急を付け、遅い球を如何にして速く見せるというピッチングに垣原は注目した。

（このピッチャーの球速は遅いが、腕の振りが全く一緒で見分けがつかない。しかも、制球が良くストレートのキレは球速以上に速く感じる）

垣原は迷わず真咲を一軍に上げた。

その後、中継ぎのエースとしてスカイウォーカーズに無くてはならない人物となった。

対する打の要でもある中山は当時入団六年目の23才。

一軍昇格は二年目に数試合だけ守備固めや代走として出場したのみで、その後は長い二軍生活を送っていた。

垣原は中山の身体能力の高さに注目した。

チーム一の俊足で、守備範囲が広く肩も強い。

肝心のバッティングは、典型的な中距離ヒッターだがその気になれば長打も打てる。

（何でこんな三拍子揃った外野手を二軍に置いてるんだ？
コイツはいずれチームを代表する選手になるのに）

垣原は迷わず中山を一軍に上げた。

積極的にスタメンで起用し、経験を積ませた。

そのお陰で中山はスカイウォーカーズの主力にまで成長した。

垣原の采配は奇を衒うような戦法は用いらず、正攻法で戦うが如何せん、チームの負け犬根性は簡単に拭い去る事は出来ない。

すぐに諦めてしまう選手達を何とか奮起させようと、あらゆる手を尽すが、どれも失敗に終わる。

高梨と何度も意見を交わし、戦力補強をしてみるが裏目に出てしまう。

「高梨…やっぱりオレは監督には向いてないんだ。悪いけど、ここで降りるよ」

「待ってください！まだ一年しかやってないじゃないですか？一年じゃ結果なんて出ませんよ！もう少しやってみましょうよ」

高梨は懸命に引き留めるが、垣原の意志は固かった。

「もう疲れたんだよ…色んな事を試したけど、無理だった。選手が悪いんじゃない、オレの采配が悪かっただけだ」

たった一年という短い期間で垣原は監督を辞任した。

その一年で体重は10kg以上減って眠れない日々を何度も過ごした。

「垣原さん、申し訳ありません…エラそうな事を言っておきながら、何もフォロー出来ずに」

「何言ってんだ、悪いのは全てこのオレだ。お前は何も悪くない。オレが全部責任を負ってチームを去る。
今度はまともな監督を探してくれよな」

一切の愚痴を言わず、垣原はチームを去った。

「あんなボロボロになっても、何一つ文句も言わずにチームの為に…」

高梨は酷く落ち込んだ。

垣原さんに申し訳ない事をした。

だが、垣原の功績は真咲と中山を一軍に上げてチームを代表する選手にまで育て上げた事だ。

高梨は再び新たな監督を探した。

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