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弱小だった頃

5年前

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圧勝だった。


ラファエルのタッチアップで3点目を取ると、次の唐澤はセンターオーバーのツーベース。

3番結城はフォアボールで出塁し、4番鬼束が2本目となる21号スリーランで更に3点追加。


尚も攻撃は続き、5番毒島がレフト前ヒットで出塁すると、6番中山がセンターに弾き返し、三塁一塁という場面で7番畑中が右中間を深々と破るツーベースで2者生還。


結局打者一巡の猛攻で一挙8点を奪い、試合を決めた。


投げては、先発の真咲がキレのあるストレートと2種類のカーブ、フォークを操り12奪三振の完封勝利。

8勝を挙げ、防御率2.27に加え、115奪三振でリーグトップの成績。


まさか、球界一の遅球が並み居る強打者を牛耳って投手部門の成績を総ナメにするとは誰が予想しただろうか。


翌日の試合、ヤンキースはエースの小橋、スカイウォーカーズは左の片山という先発でスタート。


打順は新外国人ラファエルかトップで筧が9番というオーダー。


そのラファエルは攻守に大活躍。

第一打席、意表を突く初球セーフティバントで出塁すると、二盗三盗を楽々決めて唐澤のセカンドゴロの間に一気に本塁へ突入。


あっという間に1点を先制。


その後は静かな投手戦となったが、8回に先頭のラファエルが二番手山下のストレートをライトスタンドへ運ぶ来日初アーチ。


守備では6回の裏、ワンナウトランナー二塁の場面、4番外崎の当たりをスライディングキャッチすると三塁へ矢のような送球。

二塁ランナーの李はタイミング良くスタートしたが、ラファエルのレーザービームでタッチアウト。


最終回はジェイク・キムラが三人で抑え連勝。




スカイウォーカーズはこの時点でインターカンファレンス単独首位に躍り出た。



「いや~、去年に続いて今年も交流戦首位に立つとは…今まで万年最下位だったのがウソのようだな」


「私もGMを5年やってますが、最強と言っても過言では無いでしょう」


高梨は万年最下位だったスカイウォーカーズを建て直す為にゼネラルマネージャーとして招聘された。


しかし、当時は最下位をキープする弱小チームだった。




5年前



「武蔵野スカイウォーカーズ、これで開幕から何と10連敗!今年も最下位まっしぐらなのか!」


「ったく、コイツら勝とうという気が無いのかね。
リードされると、すぐに諦めちまう悪いクセを直せばいいんだが」


「解説の不栗さんの指摘通り、スカイウォーカーズはリードされると諦めムードが漂います!」


「こんなチームじゃ、誰が監督やっても同じだな、ウワハハハハハハ!」




「お前ら、何ですぐに諦めるんだ?」


「いや~、何でって…オレはあの場面でヒット打ったのに、コイツがゲッツーにするからダメなんすよ」


「オレのせいだって言うのかよ?お前だって、昨日チャンスでゲッツーになったじゃねえかよ」


「ふざけんな、あれはたまたまだろ!お前はしょっちゅうだろうが」


「ふざけんな、お前の方がゲッツー多いだろうが!」


「何だと、コノヤロー!」


ベンチで選手達が責任のなすりつけあいをしている。



「止めろ、そんな事でケンカするな!」


コーチ達が間に入る。


「ケッ、こんなチームじゃヤル気が起きねえよ」


「ホント、ホント。いっそ、トレードにでも出してくれないかなぁ」




「お前ら、いつまでそうやってるつもりだ、ああ?」


「何怒ってんすか、カントク?オレたちゃ、フツーにプレーしてるんすよ。チームが弱いのは采配のせいなんじゃないすか?」


「そうだよな、オレたちは悪くない!むしろ、采配が悪いんだ!」


「そうだそうだ!オレなんか今日ホームラン打ったのに、チームは敗けたんだ!これは采配ミスだろ」


「オレだって1点に抑えたのに、後の連中がバカスカ打たれて敗けたんだ!あんな采配するからダメなんだろ!」


「そうだそうだ!」


「これは、カントクやコーチのせいだ!」


首脳陣を批判する。


「お前ら、いい加減にしろ!敗けた原因をコッチのせいにするんじゃない!」



「だってそうだろうよ!あんなヘボ采配してりゃ、敗けるっつーの!」



「何だと!」


「何だ、やるのか?やるんなら、いつでも相手になるぞ、コラ!かかって来いよ、おい!」


「やってやろうじゃないか!文句のあるヤツはかかって来い!相手になってやる!」


監督がキレた。


「よし、やっちまおう!皆、やってやろうぜ!」


「おぉ!ボコボコにしてやろう!」


「いや…ちょ、待て!待て待て、話せば分かる!な、話し合おう!いや、ちょっと…痛い、何すんだ!止めろ、止めろ~っ!」


監督は選手達からパワーボムやバックドロップ、ブレーンバスター等を次々と食らい、全治2ヶ月という重傷を負った。


監督は入院と同時に辞任。


ヘッドコーチが代理として采配を振るが、チームが浮上する事無く最下位でシーズンを終えた。
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