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新戦力

スプリンターの如く

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「あの当たりをスリーベースヒットにしてしまうって…」


「どんなに脚の速い選手だって、せいぜいツーベース止まりだろ…それをスリーベースヒットにするなんて」

ベンチではラファエルの走塁を見て感嘆の声上げている。


「何だ、あの速さは…」

チーム1俊足の中山ですら、驚きの声を上げる。


ライトフェンス直撃の当たりを三塁打にしてしまう程の脚力。


ノーアウトランナー三塁という、絶好のチャンス。

打順はトップに返って筧。


「監督…筧くんも脚が速いですが、ラファエルの速さは次元が違いすぎます。
おまけに選球眼も優秀です。ラファエルをトップに置きましょう」


「ちょっと待てよ、ヒロト!まだ1打席しか見てないだろ?それなのに、1番に置くって…もう少し様子を見てみようぜ」



「監督は優勝したくないんですか?ラファエルは下位なんかじゃ勿体無い、トップバッターにするべきです」


櫻井は譲らない。


「だって、お前が筧の方がトップバッターに向いてるって言うから、ワタルを9番にしてトップに変えたじゃん!それなのに、ラファエルが来たからまた9番に戻すっていうのかよ?」


「ボクはチームの事を最優先に考えます。確かに筧くんはトップバッター向きだと言いましたが、筧くん以上のトップバッターがチームに加入したんです。
ラファエルがトップバッターになるのは当然じゃないですか」


「でも、まだ1打席しか見てないのに決めるのが早過ぎないか?」


櫻井がそこまでこだわるのは、何かあるはずだ。


「1打席見れば十分です。あのスイングといい、走塁といい、トップバッターに相応しい逸材です。
監督。優勝する為には、時として非情にならないといけないんです」


真剣な顔で言われると、榊も首を縦に振るしかない。


「じゃあ、お試し期間という事でアイツをトップバッターにするけど、もし結果が出なければ筧をトップに戻すぞ」


「ええ、それは勿論」


櫻井は笑みを浮かべた。




マウンドではヤンキース内野陣が集まる。


「ノーアウト三塁…ここで点を取られたら3点差になってしまう」


「歩かすのかよ?」


「まだ3回だろ。逆転する可能性だってあるだろ」


外崎は冷静に分析する。


「今のチーム状態で逆転なんて出来るか?最善策をとるしかない」


「じゃあ、お前は勝負を避けるというのかよ」


外崎は首を振った。


「筧を歩かせたら、次は唐澤だぞ。勝負するなら、筧と勝負だ」



「外崎、お前の言う通りにするけど、勝算はあるのか?」


ファーストの上田が問い掛ける。


「あくまでも確率の問題だが、唐澤よりも筧の方がアウトを取りやすい。筧を打ち取ったら、唐澤は歩かす。いいな?」


「そこまでお前が言うなら、オレたちはそれに従うしかない」


「よし、先ずはアウト一つを取ろう」


サード若菜の声で内野陣が守備についた。



筧はバットを短く持ち、ややオープンスタンス気味に構える。


(この構えだとインコース狙い…しかも、筧は初球を見送る)


外崎は筧のフォームを観察してサインを出した。


工藤が初球を投げた。


アウトコースボール一個分外れたストレート。


(これは手を出さないだろう…)


だが、筧は右足の位置をベース寄りに変えてバットを出した。



「ウソだろ、あの球を打つのかよ!」


逆らわず左におっつけたスイングで打球はレフトへ。


レフト二宮が定位置よりやや前進の位置で捕球の体勢をしている。


「よし、打ち取った」


三塁ランナーのラファエルは前傾姿勢だ。


「あの当たりでタッチアップなんて有り得ない」


先ずはワンナウト。外崎は打ち取ったと確信する。



しかし、ラファエルは二宮が捕球したと同時に、スタートを切った。


「バカな!」


物凄いスピードで本塁へ駆け抜ける。


「ウソだろっ!」


二宮が慌ててバックホーム。


送球はダイレクトに外崎の構えるミットへ。


ラファエルが低空のヘッドスライディング、外崎は素早く回り込んでタッチした。


「セーフ!」


ラファエルが僅かに早くベースをタッチした。


「スゲーっ!あのフライでタッチアップするとは」


滅多な事では驚かないクールな唐澤ですら、驚きの声を上げた。



「監督…どうです、ラファエルは?」


「アイツの身体には加速装置でも装備されてるのか?」


開いた口が塞がらない。


新外国人ラファエルの驚異的なタッチアップでスカイウォーカーズが3点目をもぎ取った。
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