上 下
49 / 125
新戦力

漆黒の弾丸

しおりを挟む
真咲はスイスイとヤンキースのバッターを嘲笑うかの様なピッチングで、2番若菜、3番李を簡単に打ち取り、1回の裏は三者凡退で終了した。


しかも僅か六球という、省エネピッチング。


「スゲーな、光寿!お前、いつの間に140kmなんて出せるようになったんだよ!」


興奮気味に榊が聞いた。


「まぁ、企業秘密というヤツで…」


真咲ははぐらかす。


「下半身の強化だよね?見た目には分からないけど、足腰はかなり強靭になって、おまけに柔軟性も増している。自主トレの期間に相当鍛えたんだよね」


櫻井が一目で見抜いた。


「さぁ…どうでしょうかね?何せ自分、練習嫌いですから」


飄々とした表情でベンチの中央に腰を下ろした。


(ソッコーで見破るとは、さすが伝説のスラッガー)


どうやら図星のようだ。




2回の表は三者凡退で終了し、その裏ヤンキースの攻撃も三者凡退で終了。


3回の表、打順は9番のラファエルから。


【9番 ライトフィルダー!ナンバー9、ラファエル・バティストゥータ!】


新外国人ラファエル・バティストゥータがゆっくりと左打席に入った。


長い手足にしなやかな身体付き。

全身是バネという、黒人特有の身体能力の高さがうかがえる。


「ヒロト、コイツホントに使えそうなのかよ?」


獲得したにも関わらず、榊は未だ半信半疑だ。


「スイッチヒッターですけど、特筆すべき点は左打席で276に対し、右打席では283
出塁率だと、左打席で367なんですが右打席だと406
これはスゴいですよ。左投げのスイッチヒッターなのに、右打席の成績はかなり優秀です」


櫻井のメモ帳にはラファエルのデータが記載されている。


「それはメジャーでの成績だろ?日本でも同じような成績を残せるとは限らないだろ」


「多分日本では、メジャーみたいな成績を挙げる事は出来ないでしょう」


アッサリと認めてしまった。


「じ、じゃあ獲ったの失敗なんじゃないか?」


「まぁまぁ、この打席を見てみましょうよ」



ラファエルはややバットを寝かせ、トップの位置で構え、左脇を大きく開けている。


「オイオイ、あんなに脇を大きく開けたらスイング出来ないだろ」


「いえ、あれでいいんです」


櫻井は事も無げに言い切る。


「いや、ダメだろ!フツー、バッティングフォームってのは脇を閉めてガッ!て打つもんだろ」


「メジャーではほとんどのバッターは後ろの脇を開けてます。スイングの際、脇を閉めて回転するから反動で鋭いスイングが出来るんです」


その初球はインコースへツーシーム。


「ボール!」


これは見送った。


「見ましたか、今の。全く頭がブレてない…日本のバッターは初動の際、動きすぎるせいか頭が前後に動いてしまう。それだとボールを捕らえるのが難しいんですが、彼は頭が全く動いてない。これだとボールをよく見る事が出来るから、出塁率も高くなるんです」


「ほー、そんなもんなんだ」


二球目はアウトコースへツーシーム。


ラファエルはバットを出した。


「ファール!」


打球は三塁側スタンドに入った。


「それと、今のバッティングフォームですが、肩が動いてない。全く動かないというワケでは無いですが、ほとんど動かないというのはかなり理想的です。
おまけにトップの位置からコンパクトにスイングしている。
ムダな動きが無く、シンプルなフォームで素晴らしいです」


櫻井は珍しく力説する。


「でもよぉ、コッチと向こうはストライクゾーンが違うだろ?それはどう対応するんだ?慣れた頃には契約が終わって、アメリカに帰ったら意味無いじゃん」


「23才にして、メジャーでシーズンを通してプレーしたんです。
それなりの対応力が備わってますし、問題ありません」


技術的には問題無い。


後はラファエルが日本の野球にどう対応出来るかだ。


工藤が三球目を投げた。


インコースへのスライダー。


ラファエルはトップで構えたバットをそのまま反動もつけず、身体の中心を軸にして素早く回転した。

頭も肩も動かさず、シンプルかつコンパクトなスイングでボールを捕らえた。


「打った!」


打球はライトへグーンと伸びた。


ラファエルは全速力で駆け回る。


「速っ!」


一気にトップスピードで一塁を蹴って二塁へ。


打球はライトライン際のフェンスに当たって跳ね返った。


ラファエルは打球の行方を見ずに二塁を蹴って三塁へ。


走り出して僅か三歩目からトップスピードを出せる脚力。


ライトから矢のような返球がサードへ。


「アウトになるぞ!」


ラファエルはダイナミックなヘッドスライディング。


188cmの長身が飛んだ。


サード若菜がタッチする。

ズサーっ!と砂煙が巻き上がった。


「セーフ!」


間一髪でセーフ。


初打席は三塁打という華々しいデビューを飾った。


「はぁ…スゲーな、あのバッティングフォームといい、走塁といい」



「はい…これで梁屋くんの穴は埋まりますよ」


ノーアウト三塁という、追加点のチャンス。


ラファエル・バティストゥータの能力はそんなもんじゃない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

結婚して四年、夫は私を裏切った。

杉本凪咲
恋愛
パーティー会場を静かに去った夫。 後をつけてみると、彼は見知らぬ女性と不倫をしていた。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...