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新戦力

打席での会話

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「プレイ!」


投球練習を終え、工藤がサインに頷く。


(この人の苦手なコースはほとんど無い…強いて挙げるなら、インコースの真ん中。しかも、ただ漠然と投げては打たれる。難しいな)


工藤が初球を投げた。


145kmの真っ直ぐが外一杯に決まる。


「ストライク!」



(最初から打つ気が無かったのか…)


結城は球筋を見る事無く、構えを解いた。


(狙ってるのはアウトコースでは無いという事か)

リードに苦心するが、外崎は結城と勝負するのが楽しみでもある。


こうやって打席で言葉を交わすだけで、何を狙っているのか読み取る事が外崎にとって非常に有意義な時間とも言える。


(抑えても打たれても、この人と勝負する瞬間がとにかく楽しい…こんな高揚感が味わえるから、キャッチャーというポジションはサイコーだ)


「外崎くん…楽しそうに見えるよ」


マウンドの工藤を見ながら結城は話し掛けた。


「結城さんにはそう見えますか…コッチを見てないのに、様子まで分かってしまうとは」


「うん…実はボクもキミのリードを読み解くのが楽しくてね」


「フフフ…さすが結城さんだ。何もかもお見通しってワケですね」


「…そういうキミこそ、ボクの事もお見通しなんじゃないのかな」


スパイクに付いた土をバットでコンコンと叩いて払うと、力感の無いフォームでバットを構えた。


(脱力…この状態からインパクトの瞬間、一気に力を込める。鋭いラインドライブの打球がこの人の持ち味)


結城のバッティングを分析してリードを考える。


(もう一球アウトコースへ)


工藤がサインに頷く。


スリークォーターから右腕がムチの様にしなる。


再びアウトコースへ投げた。


ズバンっ!というミットの音が響く。


「ボール!」

僅かに外れた。


(ボール球には絶対に手を出さない…)


「際どいコースだったね。狙ったのか、それとも外れてしまったのか」


「結城さんならお分かりでしょう…どっちだったのかって」


「さぁ…ボクには人の心を読む能力なんて無いから」


バットをクルクルと回して構える。


(ここに投げたらどう反応するか)


サインを出した。


工藤が三球目を投げた。


外角のボールゾーンからストライクゾーンに曲がるスライダーだ。


結城はギリギリまで引き付けて最短距離でバットを振り抜く。


スライダーのキレが良かったのか、打球は左に切れた。


「ファール!」


(ツーストライクと追い込んだ…ここからが問題だ)


結城はツーストライクからの打率は396と非常に高い。


(これだ)


サインに頷き、脚をやや高目を上げて四球目を投げた。


今度は緩いボールが真ん中低目へ。


「カーブかな」


余裕を持って見送った。


「ボール!」


ツーナッシングとなった。


「結城さん、今一番怖いと思うバッターは誰ですか?」


唐突だが質問してみた。


「誰かな?…唐澤くんや鬼束くん、畑中さんも怖いけど、一番怖いのはその時に打席を迎えたバッターとでも言っておこうかな」


「つまり、今一番怖いバッターは結城さんという事じゃないですか」


「ボクが一番怖いバッターだって?光栄だね、それは」


「スカイウォーカーズに勝つには、あなたを抑える事!それしかないんです」


「…」


結城は無言だ。


カウントツーナッシングからの五球目を投げた。


球をジックリと見て軌道を予測する。


手元まで目一杯引き付けて、脱力の状態から一気に爆発させる。

凄まじいまでの全身の力でスイングする。


打球はレフトへ。



レフト二宮がライン際で打球を追う。


打球は徐々に失速し、二宮がランニングキャッチ。


「アウト!」


ベース手前でストンと落ちた為、芯で捕らえる事が出来なかった。


「外崎くんには敵わないなぁ」


そう言うと、ベンチに戻った。



これでツーアウト。


続くは4番鬼束。


「珍しいですね、結城さんがミスショットなんて」


「鬼束くん、ミスショットじゃないよ。捕らえた筈なのに鋭く落ちた。外崎くんのリードもそうだが、工藤くんの変化球に要注意だ」


「了解しました」


鬼束と言葉を交わし、ベンチに下がった。

【4番、セカンドベースマン!ナンバー5、マコト オニツカ!】



(イヤなバッターが来た)


結城との勝負は楽しいが、反対に鬼束との勝負はかなりキツい。



ニックス時代の鬼束はヤンキース戦に滅法強い。



「はァ…」


深いため息をついた。


「ん?どうした?」


「いや、何でもない」


首を傾げながら打席に入ると、表情が変わる。

精悍な顔つきでバットを正面に構えた。



(シンドイんだよな、この男との対戦は)


頭の中であれこれと考えていた。
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