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何がなんでも優勝

お喋りキャッチャー

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【2番センター唐澤 背番号1】

ネクストバッターズサークルで屈伸をしてからバッターボックスに向かう。

白地にピンストライプのユニフォーム、膝までソックスを上げたオールドスタイルが良く似合う。


「おぉ、出たなスラッガー!お手柔らかに頼むで」


「…相変わらずよく喋りますね」

冷ややかな視線を送った。


「いや~、かなわんなぁ!カンニンしてや!何せ、話好きやさかい、どうしても喋ってしまうねん」


(なるべく無視しよう)


打席で集中力を高める。


「さて、天才バッターにはどんな球を投げたらいいのやら」


サインを出す。


安川が初球を投げた。


インコースやや低目にツーシームが。


「ボール」


これは僅かに外れた。


「ほぅ、よう見たな。さすが天才バッターや」


(うるさいな、ったく)


悪気が無いだけに、余計タチが悪い。


「そやけど、こんなバッター相手に何を投げればいいのか、ホンマに困ってしまうわ」


「…」


相手にしないつもりでいるが、気が散る。


「これやったら打たれるかなぁ」


そう言いつつ、サインを出す。


安川が二球目を投げた。


アウトコース低目のシュート。


「ボール!」


これでツーボール。


「いや、かなわんなぁ!あれを見送られては、もう投げる球がないがな!」


(ウゼェ!)


段々とイライラしてくる。


「さてと…これならどうかな」


サインに頷き、三球目を投げた。


またもやアウトコースへ今度はストレート。


(打ってもファールになる)


唐澤はバットを出さない。


「ストライク!」


「アレを打たないとはさすがやな~」


(何とかならないのか、ホントに)


どう対処するのか。


「何や、オレばっか喋ってるやん!」


(アンタとお喋りするつもりは無いんだよ!)


徐々に表情が険しくなる。


「ほな、行くで」


四球目を投げた。


インコースに食い込むスライダー。


唐澤はバットを合わせた。


ガシッと音がして、三塁側に切れた。


「ファール!」


(キレが良いな)


スライダーに合わせたが、思いのほかキレが良い分打球がファールゾーンへ飛んだ。


「…参ったなぁ、どこ投げればええねん」


(無視だ、無視!)

ダンマリを決め込んだ。


カウントはツーナッシング、五球目を投げた。


(インハイへ直球)


唐澤は見送った。


「ボール!」


「余裕のある見送り方やな。さぁ、どないしようか」


フルカウントからの六球目。


(フォークだ!しかもアウトローへ)


自然に流れるようなスイングでボールを捕らえた。


(クソっ、打ち損じた!)


打球はセンターへ。


しかし定位置でキャッチ。


「アウト!」


フォークの曲がりっぱなを叩いたが、打球は伸びずセンターフライに倒れた。


(…気が散ったせいか、芯で捕える事が出来なかった)



苛立ちを悟られないように、淡々とした表情でベンチに戻った。



「矢幡くんのペースに引き込まれてるな」


バットを両手で持ち、左右に上体を捻った。


【3番ファースト結城 背番号23】


威風堂々と打席に向かう。


「久しぶりだね、矢幡くん」


「ご無沙汰してます。お元気ですか?」


「うん…キミも元気そうだね」


「ええ、元気だけが取り柄ですねん」


「フフフ、相変わらずだね」


余裕の表情で答える。


(うゎ~っ…こりゃまた難儀な相手やな)


矢幡は結城を苦手にしている。


ドジャースとの対戦では、ここぞという場面で結城に打たれているケースが多かった。


(さて、どうするか)


矢幡は過去の対戦データを思い出す。


(よし、先ずはこれでいこう)


サインを出した。


安川が初球を投げた。


フワッとしたスローカーブがインローに。


結城は打つ気配が無い。


「ストライク!」


初球は見送った。


「結城はん、さすがでんなぁ!あの際どいコースを見送るとは」


「フッ…キミも際どいコースへ要求するなんて、さすがだね」


どうやら結城のペースに引き込まれそうな雰囲気だ。


「…参ったな」


いくら何でも、初回でしかもツーアウトという場面で歩かすワケにはいかない。


(これが終盤でランナーがいたら、迷わず歩かせてるわい)


かなり警戒している。

矢幡がサインを出す。


しかし、今度は安川が首を振った。


もう一度サインを出した。


これも首を振る。


(何や、一体)


再度サインを出す。

しかし首を振る。


(何しとんのじゃ、ボケ!ええから、サイン通りに投げんかい!)


またもや首を振る。


(ドアホ!何してんねん、早よ投げんかい!)


これもダメ。


すると今度は安川がサインを出した。


(はぁ?何や、それ!)


サインが決まったらしい。


二球目を投げた。


インサイドに鋭く曲がるスライダー。


やや振り遅れたせいか、打球はフラフラと三塁側ファールゾーンへ。


サードの陣内が懸命に追う。


フェンスギリギリでキャッチした。


「アウト!」



「はぁ、助かったゎ…」


安川が出したサインは矢幡が一番最初に出したサインだった。



「このアホ!何度も首を振るな!」


ベンチに戻る際、安川を叱責した。


「何言うてますねん。アレで相手が迷ったんでっせ」


「今はそれで打ち取ったかもしれへんが、次の打席は通用せんで!」


「その時はまた考えればええやないですか」


飄々とした表情でベンチに座る。



「フフ…やるな、あのピッチャー」


笑みを浮かべ、ファーストミットを手に守備についた。


1回の表、スカイウォーカーズは三者凡退で終了した。
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