上 下
39 / 125
何がなんでも優勝

囁き戦術

しおりを挟む
「おぉ、ユースケ!お前、一軍に昇格したのか!」

東雲が声を掛けた。


「アキラ、久しぶり!今日一軍登録したばかりだよ」


お互いに二軍生活が長かったせいか、二人は仲が良い。


「聞いてくれよ、アキラ!さっき畑中コーチが、オレの事スーパーサブって言うんだけど、何を以てスーパーサブなのか全く説明してくれないんだよ」


「あぁ…またそれかよ。あのなぁ、ユースケ。野球ってのは、理屈でやるもんじゃないだろ?しかも、レギュラーがアクシデントでベンチに引っ込んだ時、いちいち説明してる時間なんて無いんだよ」


「それがおかしいんだよ!オレはもっと明確な理由が聞きたいんだよ!それなのに、皆はオレの事面倒臭いヤツって一言で片付けるし」


面倒臭いうえに、空気も読めない。


東雲ははァ、と深いため息をついた。


「お前さぁ、だったら野球辞めたら?そういう理由付けが必要な職業に就いたらどうだ?」


「何言ってんだよ、オレは野球が大好きなんだよ!」


「だったら、屁理屈言ってないで監督やコーチの言う通りにやれよ!」


「頭ごなしにあれやれ、これやれって言われてハイ、そうですかって言えるかよ!」


この男には何を言ってもムダだと思い、東雲はその場を離れた。


「何だよ、どいつもこいつもハッキリとした理由を言わないで」


一軍に上げたのは失敗だったのでは?





試合開始直前、両チームのスターティングラインナップが発表された。


打順に変更は無い。


今日の先発はドルフィンズは天海という大エースが退団した後、メキメキと頭角を現した右の安川。

対するスカイウォーカーズはエースの中邑。



「プレイボール!」


試合がスタートした。


【1番ショート筧 背番号24】


スカイウォーカーズのリードオフマンとして定着した筧がバッターボックスに立つ。


筧と梁屋はアベレージ用のグリップの太いバットを使用する。


指二本分余して短く持つ。


マウンド上は今やドルフィンズのエースとしてチームを引っ張る安川。


今季は6勝2敗、防御率は2.67と抜群の安定感を誇る。


独特の二段モーションから第一球を投げた。


「ストライク!」


142kmのストレートがコーナーギリギリに決まった。


ストレートの平均速度は143kmと決して速くないが、コーナーを突くピッチングで凡打の山を築く。


安川が二球目を投げた。


102kmのスローカーブがインコース低目に。


「おっと…」


タイミングを崩しながらバットを引いた。


「ボール」



「ヤバい、ヤバい」


思わず手が出るところだった。


「ほぅ、あのスローカーブに手を出さなかったとは、さすがトップバッターやな」


ドルフィンズ扇の要でもある、キャッチャーの矢幡が声を掛けた。


「まぁね」


「いや~、ホンマにスゴいな!ウチにもアンタみたいなトップバッターがいたらええなぁと思ってるんやが、現実は厳しいなぁ」


このキャッチャーはホントによく喋る。


よく囁き戦術という作戦を用いるが、この矢幡はただ単に話好きというだけだ。


しかし、リードに関しては父であるドルフィンズ監督矢幡拓郎譲りの頭脳的な戦術を用いる。



「そういや、アンタこの前まで9番打ってたやろ?何でトップバッターに変わったん?」


「何でって…そりゃ、チーム事情というヤツで」


「ほーほー、なるほどなぁ!」


矢幡は会話をしながらサインを出した。


安川が頷いて三球目を投げた。


今度はインハイへ。


(高いか?)


筧は見送る。


「ストライク!」


「えっ!ウソ、高いでしょ?」


筧は後ろを振り返って主審の顔を見た。


「ストライクだ。ギリギリ入ってる」


「マジかよ…」


カウントはワンボール、ツーストライク。


「まぁまぁ、そう気を落とさんで」


「…何か、調子狂うな…」


挑発するわけでもなく、褒め殺しをするわけでもない。


世間話をするみたいに話しかけるせいか、バッターは集中力を欠いてしまう。



「アンタ、トップバッターでショートやろ?頼むからウチに来てくれんかの?」


「いや、そんな事言われても…」


「いやいや、冗談で言ってるんやないで。ウチに来たら、優遇するでぇ。そやから、来てくれんかの?」


サインを出す。


「それは…だって、オレ一人で決める事じゃないから」


「ほなら、ウチの監督とアンタとこの監督で話し合えばええねん」


「えーっ!」


矢幡のペースに打ち気を削がれる。


安川の四球目、アウトローへのチェンジアップ。


筧がバットを出すが、引っ掛けてサードゴロ。

サードが難なく捌いてアウト。


「あー、クソっ!あのペースに引き込まれてしまう」


ガックリと項垂れてベンチに下がる。


先ずはワンナウト。


スカイウォーカーズのバッターは矢幡のペースに引き込まれてしまうのか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

An endless & sweet dream 醒めない夢 2024年5月見直し完了 5/19

設樂理沙
ライト文芸
息をするように嘘をつき・・って言葉があるけれど 息をするように浮気を繰り返す夫を持つ果歩。 そしてそんな夫なのに、なかなか見限ることが出来ず  グルグル苦しむ妻。 いつか果歩の望むような理想の家庭を作ることが できるでしょうか?! ------------------------------------- 加筆修正版として再up 2022年7月7日より不定期更新していきます。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

愛する人が妊娠させたのは、私の親友だった。

杉本凪咲
恋愛
愛する人が妊娠させたのは、私の親友だった。 驚き悲しみに暮れる……そう演技をした私はこっそりと微笑を浮かべる。

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

結婚して四年、夫は私を裏切った。

杉本凪咲
恋愛
パーティー会場を静かに去った夫。 後をつけてみると、彼は見知らぬ女性と不倫をしていた。

処理中です...