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中盤

ベテランのピッチング

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スカイウォーカーズの先発はプロ14年目のベテラン溝口。

今シーズン初先発だ。


溝口は主にリリーフ専門で昨年は37試合に出場して2勝4敗12ホールド、防御率は3.47


イニングまたぎも出来て、使い減りしない為に重宝されるピッチャーだ。


146kmのストレートとツーシーム、スライダーと二種類のスプリットを操る。


「さぁて、久々の先発だし…ここはいっちょ、良いピッチングして夜は中洲でパーっと遊ぶかな」


溝口は畑中と気が合うせいか、一緒に夜の繁華街で繰り出す事も多い。


「ユウタのヤツ、頭の中は中洲でどんちゃん騒ぎする事でいっぱいなんだろうな」


畑中の指摘通りだ。


何処と無く、畑中を彷彿させる様な陽気な性格。


「このピッチャーを先発にするとは、随分と思い切った事をしますね、監督」


「ヒロトにはどう映るか分からんけど、コイツは中々の曲者だぜ」


その曲者のピッチングに注目してみよう。


先ずはトップバッターの田島が左打席に入る。


ドジャースのリードオフマンとして、高い出塁率を誇る。

打率は264だが、出塁率となると376とかなり優秀だ。


「プレイ!」


溝口はセットポジションの体勢で動かない。


「ん、何だ?まだ投げないのか」


田島が一瞬構えを解いた。


するとすかさず早いモーションから初球を投げた。


「あ、ちょ…」


「ストライク!」


焦らし戦法で先ずはワンストライク。


「クソっ、まともに投げたら敵わないと思ってあんな投げ方を」


出鼻をくじかれ、田島は苛立つ。


二球目は通常のモーションから投げた。


「ボール」


インコースに外れてカウントはワンボール、ワンストライク。


今度は早いモーションから三球目を投げた。


「わっ…」


先程の降谷よりも更に遅いストレート。

田島はタイミングを崩された。


バットを出していた田島は途中で止める事が出来ず、コツンとボールが当たりボテボテのセカンドゴロ。


鬼束が捕って一塁へ。

「アウト!」


二球でアウトをとった。


「クソっ!」


悔しがり、ヘルメットを叩きつけてベンチに戻る。


2番のセカンド増田が右打席に。


長打は無いものの、昨年は打率331でリーグ二位。

リーグ三位の184安打を放ち、105得点はリーグトップ。


得意の右打ちで繋ぐバッティングをして、クリーンナップに回す。


その増田に対して初球はスライダーを外角に。


これは見送ってワンボール。


二球目、これもスライダー。


増田は見送る。


「ストライク!」


ボール一個分中に入ってる。

溝口はコントロールに優れ、如何なる状況でも狙った場所にボールを投げる事が可能だ。



三球目はツーシームをインコースへ。


「ストライク!」


ツーストライクと追い込んだ。



増田は一度もバットを振っていない。


サインに頷き、四球目を投げた。


真ん中外よりの低目、しかし増田はこれも見送る。


「ボール!」


ベース手前でストンと落ち、ワンバンになった。


スプリットを読んでいたのか、平然と見送る。


「へー、あれに手を出さないとは、こりゃマジでやらないとな」



溝口は気を引き締め直した。


五球目、インコース低目へ再度スプリットを投げた。


増田はバットを当ててファールにした。


「うーん、あれを当てるとは投げる球が無いなぁ」


溝口はお手上げというジェスチャーをした。


(来い!)


増田がグリップを握り直し、肩口でバットを構える。


六球目、今度はアウトコース低めへスプリットを。


それを待ってたとばかりに増田はバットを合わせた。


「ゲッ…落ち…」


手前でストンと落ちたが増田は逆らわず右へおっつけた。

打球は一二塁間に飛んだ。


「えっ…」


しかしこれを読んでいたのか、ファーストの結城が極端なシフトを敷いていた。


真正面のゴロを捕って一塁へ。

ベースカバーの溝口が捕ってアウト。


「クソ~っ!見破られてたか!」


増田は天を仰いでベンチへ。


「おぉー、助かったぜ!さすが結城だ!」


溝口が胸を撫で下ろす。


「昨年まで一緒にプレイしてましたからね。彼が打つなら、ここしか無いと思って守備位置を変えたのが功を奏しました」


「ありがとよー、結城ちゃん!」


結城を肩をポンと叩いた。


これでツーアウト。


続いて3番の中村が右打席に入った。


中村は一昨年のアポロリーグの新人王で、ドジャースは結城の後釜として期待している。


昨年はトリプルスリーを達成した5ツールプレイヤー。


今年も打率307 ホームランは17 打点は67とリーグトップ。

次世代スターの中村をどう抑えるか。



「うーん…困った」


マウンドで溝口が腕組みをしている。


「…よし、アレを使うか!」


溝口がサインを出した。


セットポジションの体勢から初球を投げた。


真ん中やや高目の絶好球。


「よし、もらった」


中村はこれをフルスイング。


「…ヤバっ」


だが、ボールは落ちながら変化した。


豪快なスイングとは裏腹にセカンドへの緩いゴロ。


鬼束が軽快に捌いて一塁へ。


「アウト!」


シンカー気味に落ちるフォークで打ち取った。


1回の裏、ドジャースの攻撃は三者凡退で終了した。
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