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去就

抜け殻

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試合後、99ersの優勝セレモニーが行われた。

チャンピオンフラッグを手にし、選手たちがグラウンドを一周する。


敗れたスカイウォーカーズナインは、その様子を虚ろな表情を眺める。


「さぁ、皆!胸を張って帰ろう!負けたけど、よくやった!来年は必ず雪辱を晴らそう!」


櫻井の声で選手達は帰り支度を始めた。


最後のバッター財前は、決め球のカーブがまだ頭の中に残っていた。


「財前くん…」


櫻井が声を掛ける。


「…」


「さぁ、帰ろう。キミはよくやった…三冠王を獲って、チームもここまで引っ張ってきたんだ。
誰もキミに文句を言う者なんていないよ」


労いの言葉を掛けた。


「カーブとはなぁ…」

うわ言の様に呟いた。





一方榊は、報道陣の前で今シーズン限りでユニフォームを脱ぐ事を発表。

同時に後任はヘッドコーチの櫻井が昇格する事も発表した。


今年は3チームが最後まで熾烈な優勝争いをしたネプチューンリーグ。


来年からは指名打者制が採用され、どのような変化が生まれるのか。


その前に、ドラフト会議やチャンピオンズカップが控えている。


そして、全日程を終えた両リーグは個人タイトルが決定。




ネプチューンリーグ


首位打者 財前(スカイウォーカーズ)0.354

本塁打王 財前(スカイウォーカーズ)50

打点王 財前 (スカイウォーカーズ)129

盗塁王 高野 (マーリンズ)38

最多安打 仙道 (マーリンズ)203

最高出塁率 比嘉 (99ers)0.436



最優秀防御率 天海 (マーリンズ)2.19

最多勝利 天海(マーリンズ)16
                  真咲(スカイウォーカーズ)16

最多奪三振 中澤 (マーリンズ)226

最高勝率 那須川 (99ers)0.692

最多セーブ ジェイク(スカイウォーカーズ)38

最多ホールド アクーニャ(スカイウォーカーズ)34




アポロリーグ

首位打者 斐川 (ドジャース)0.376

本塁打王  ポール(ドジャース)43

打点王 ポール (ドジャース)116

盗塁王 国分 (ヤンキース)53

最多安打 国分 (ヤンキース)213

最高出塁率 斐川 (ドジャース)0.473


最優秀防御率 小橋 (ヤンキース)2.83

最多勝利  西野 (ドルフィンズ)17

最多奪三振 ルーガー(マシンガンズ)208

最高勝率 小橋 (ヤンキース)0.703

最多セーブ  橘(ドジャース)46

最多ホールド 近藤(ドジャース)38


宣言通り、財前が三冠王を獲得。


両リーグ共に上位3チームの選手がタイトルを獲得した。





ペナント最終戦から一夜明け、スカイウォーカーズは球団事務所で榊の監督辞任会見を行った。


珍しくスリーピースのスーツに身を包み、ボサボサだった髪は整髪料でビシッと決めている。



「え~、皆さんご存知かと思いますが…今年限りでユニフォームを脱がせてもらいます。
ちょうど契約が切れる年だったし、潮時かなぁなんて思ったりして…まぁ、そんなとこです」


挨拶の後、報道陣との質疑応答になった。


「監督を退任したのは、優勝を逃した責任をとってという事なんですか?」


榊はガハハハハと笑う。


「責任?イヤイヤ、そんなもんじゃないって!
他にやりたい事が出来たから、バトンを渡したって事かなぁ」


「やりたい事というのは?」


「ん~…一度でいいから、朝から晩までパチンコ打ってみたい!」


一同唖然とする。


「ギャハハハハハ!それもあるんだけど、他にもやりたい事を見つけたからさ」


「それは今ここで言える事ではないんですか?」


「いや、ホントはここで言いたいんだけど、もう少し時間が掛かるかなぁ…うん、そのうち分かると思うけどね」


「高梨GMも退任で、榊さんも監督を退任されると、強くなったスカイウォーカーズが元に戻ってしまうんじゃないかって、ファンは心配しますが」


「強くなる事はあっても、弱くなる事は無いと思うよ。
今いるメンバーは日本を代表するプレイヤーだし、オレがいなくなっても問題ナッシング!」


「では、最後にファンに向けて一言お願いします」


榊はテーブルに置いてあったミネラルウォーターを一気に飲んでからコメントしようと思ったのだが、器官に入ったせいで、「ブホォっ!!」とむせて吹き出す。


「うわっ、汚ねえ!」


「ちょっ、監督!何やってんですか!」


「ゲホッ、ゲホッ、変なところに入った!」


最後まで締まらない会見だった。



後任は榊がコメントした通り、ヘッドコーチの櫻井が就任する。






会見後、武蔵野ボールパークの監督室で高梨と2人きりで話し合った。


「GM辞めて今度は球団社長かよ!スゲーな、おい」


「垣原さんが後を継いでくれって言うもんですから」


垣原は家庭の事情で球団社長の座を退任した。


その垣原から是非やってくれと高梨に頼んだ。


「球団社長って、普段何やってんだ?」


「基本的には営業ですよ」


「営業?」


「親会社やスポンサー相手に資金を提供してもらう為の営業や、チケットの販売…予算を決めるなんて事もあるみたいですけど」


「何だか大変な仕事だな」


「そうなんですよ…でも、球団を経営する側に回ったからには、少しでも利益を上げないと」


高梨の顔は自信に満ち溢れていた。


「利益が上がったら、少しは還元してくれよ」


「それは勿論ですよ」



時を同じくして、都心の高層マンションの一室では財前が抜け殻の様にソファーで寝そべっていた。
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