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来季へ向けて

ラストゲーム 4

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スコアは2対3で99ersが1点リード。


だが、回はまだ5回。


反撃するチャンスは十分にあった…ハズだった。


吉川の1発で流れを引き寄せた99ersは、那須川を下げて6回に中継ぎエースの藤本を投入。


逆転されて焦りが見えるスカイウォーカーズは、何とか突破口を切り開こうとするが、藤本の変化球にタイミングを狂わされる。


7回には左の中継ぎ小暮が、8回にはエスコバルがマウンドに上がり、3人で片付ける。


スカイウォーカーズはアクーニャから梁屋、流川、東雲と継投策で99ersを無得点に抑える。


そして9回の表、マウンドには99ersの守護神霧島が登場。


今シーズン抑えに回り、34セーブポイントはジェイクに次いでリーグ2位。


左腕から繰り出す154km/hのストレートとスライダー、特に縦のスライダーは変化量が大きく、打者の視界から消えると言われる程の落差を誇る。


球場内が一段と騒がしくなる。

観客の誰もが99ersの勝利を確信している。


最終回、スカイウォーカーズの攻撃は8番東雲の打席で代打筧を送る。


三塁側スカイウォーカーズベンチ前では、財前が腕を組んだまま立って霧島のピッチングをジーッと観察している。


「…」


何を見ているのか。


筧はファールで粘ってフルカウントまで追い込むが、6球目のスライダーを引っ掛け、ショートゴロでワンナウト。


続く9番保坂はカウント1-2から、縦のスライダーを空振り三振でツーアウト。


球場内は更にボルテージが上がる。


場内からは【あと一人】コールが連呼される。

異様な歓声の中、トップの唐澤がネクストバッターズサークルから打席に向かう。


「おい、トーマ!ちょっと待った」


「エッ」


振り向くと、財前が手招きしている。


「な、何すか?」


財前は唐澤の肩に手をかけ、ボソッとアドバイスした。


「いいか、アイツのストレートを狙え」


「ストレートっすか?」


「そうだ、ストレートだ。
いいか、よく聞け…アイツはストレートを投げる際、グラブが上向きになるんだ。
そこを狙って、思いっきり引っぱたいてこい!」


「ホ、ホントっすか?」


財前は霧島のクセを見破った。


「騙されたと思ってやってみろ…球種さえ分かれば、お前ならいとも簡単に打てるだろ?」


「ハイ…分かりました」


「ヨシ、行ってこい!」


唐澤の腰をバシッと叩いた。


財前の言う通り、霧島は投げる際にグラブを上向きにするとストレートなのか。


(初球は様子を見ていこう)


自然体の構えで迎え打つ。


霧島はあと一人という場面でやや緊張の面持ちだ。


先程まで外崎がマウンドに駆け寄り、霧島を落ち着かせる場面があった。


(向こうも緊張してるのか…)


そう思ったら、打席で幾分リラックスが出来た。


外崎がサインを出す。


ゆっくりと頷き、ノーワインドアップからのスリークォーターで初球を投げた。


(グラブは水平…変化球か?)


外へのスライダーが僅かに外れた。


「ボール!」


(クラブが水平だとスライダーか…)


財前の言った通りだった。


(勝てる…まだ勝てる可能性がある!)


打席で集中力を高めた。


神経が研ぎ澄まされ、雑音がシャットアウトされた。


唐澤の視線には霧島しか見えない。


しかもグラブを凝視している。



サインが決まり、2球目を投げた。

(上向き…ストレートだ!)


案の定ストレートがアウトローへ。

難しいコースだが、唐澤はムダのないスイングで弾き返す。


鋭い打球はライナーでセンター前に飛んだ。


「ヨシ、ランナー出たぞ!」


ツーアウトから唐澤のヒットで出塁。



唐澤は三塁側ベンチにサインを送った。


財前はチャンスとばかりに、次のバッター石川にもアドバイスした。


「いいか、アイツはツーアウトでヒットを打たれた…後アウト一つ取れば勝ちなのに、焦ってる状態だ。
お前はスライダーに絶対手を出すな!
とにかく球を見て、塁に出る事だけを考えろ、いいな?」


「ハイ!」


「ヨシ、頑張れっ!」


石川を元気よく送り出す。

右打席に入り、霧島のクラブを注意深く見る。


(水平なら変化球、上向きならストレートか…)


マスクを被る外崎が落ち着けとジェスチャーする。


霧島は大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


外崎がサインを出し、霧島は頷く。


セットポジションから初球を投げた。


(グラブが水平…スライダーだ)


石川は見送る。


「ボール!」


(ホントだ…財前さんの読み通りだ!)


クセが分かったせいか、石川も落ち着きを取り戻す。


(塁に出ろって、財前さんは言った…という事は、ヒットじゃなくてもいい、フォアボールでも何でもいいから塁に出ればいいんだ…その次は財前さんが決めてくれる)


外崎は石川の様子を見ている。


(こんな状況で落ち着いてボールをよく見るなんて、コイツはレギュラーでもないのに、何故だ?)


外崎は守備位置を変えるよう、サインを出した。


内野陣が後退する。


(もしかしたら、長打コースもありえる。念には念を入れておかないと)


外崎は変化球中心の組み立てに変更した。



これが功を奏したのか、石川は3-1からの縦のスライダーを見送り、フォアボールで出塁。


ツーアウトランナー一塁二塁という場面、ここで財前が登場する。


マウンドには内野陣が集まり、霧島に檄を飛ばす。





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