上 下
36 / 72
来季へ向けて

ラストゲーム 2

しおりを挟む
中3日の登板ながら、那須川は得意のフロントドア、バックドアを駆使してスカイウォーカーズ打線を打ち取る。

対する中邑も、ペース配分など考えずに初回から160km/h超えのストレートを連発する。



試合は静かな序盤を終えて中盤へ差し掛かる。


5回の表、スカイウォーカーズの攻撃は2番石川が那須川の甘く入ったバックドアを上手くライト線へ運ぶ。


ノーアウトランナー二塁という場面で、迎えるバッターは三冠王をほぼ手中に収めた財前。


「財前くん!」


打席に向かう財前を櫻井が呼び止める。


「ん?なんだ何だ…」


「財前くん、何を狙っているんだ?」


狙い球を聞いてみた。


「何って…そりゃ、ツーシーム狙いでしょ!」


「やっぱりそうか…」


「エッ、 何で?」


「いや、それでいいと思うけど、多分那須川くんは初球からフロントドアを投げると思うんだ…それもアウトローに」


「へぇ~、コーチはそこまで配球を読んでいるのかよ」


櫻井は首を振った。


「違うよ…配球を読んだんじゃなく、気配を感じ取ったんだ」


櫻井は現役時代、相手ピッチャーの投げる球種、コースを瞬時に見分ける事が出来た。


100%ではないが、打席で集中力を高めると自然に投げる球が頭に浮かぶ。


櫻井と同じ能力を持つのが唐澤だ。


唐澤も櫻井程では無いが、相手ピッチャーの球種がフッと頭に浮かぶ。


「スゲーな、それじゃ超能力じゃん!」


「超能力なんかじゃないよ…キミだって、そのぐらいの事は出来るんじゃないかな」


財前は球種を読み取るというより、来た球を類まれなるバットコントロールで打ち返すタイプだ。


「オレは球種なんて読んだ事は無いけど…でも、たまに頭に浮かぶ時はあるかもな」


「それだよ…まぁ、早い話が勘なんだけどね」


その勘が鋭い。


「なるほどね~っ、そんじゃ、初球狙いでやってみるわ」


財前は打席に向かった。


右打席に立ち、大きく息を吐いた。


打率0.353 本塁打49 打点127

開幕戦で宣言した通り、三冠王がほぼ確定している。


シルバーアッシュのヘアーに左右色別のカラコン。

耳にはピアス、首にはチョーカーを付け、手首にはシルバーアクセのブレスレット、指にはワールドチャンピオンのリングをはめている。


およそ野球選手らしからぬ格好だが、文句の付けようの無い成績を残した。



少し前傾に立ち、バットを寝かせる構えはやや変則的だが、これが財前のバッティングフォームだ。


(初球か…んじゃ、ちょっくら狙ってみるかな)


財前の目が鋭くなった。


キャッチャーの外崎がサインを出す。


那須川が頷き、ノーワインドアップから初球を投げた。


(来たっ)


櫻井の読み通り、外角低めの球だ。


財前はボールをギリギリまで引き付け、最短距離でフォロースルーの大きいスイングで捕らえた。


ガゴーン、という音が響き打球はライトへ。


「よっしゃ、行ったぜ!」


財前は確信してゆっくりとベースへ向かう。


ライト城戸は一歩も動かず、頭上の打球を見送った。


「入った~っ!!」


「やった、ホームランだ!」


「2点先制だぜっ!」


財前の第50号ツーランでベンチは狂喜乱舞。


「スゲーな、ホントに読み通りだったぜ!」


ベースを回りながら、財前は櫻井の読みに感服した。


「ヨシ…この試合貰った」


櫻井はベンチで勝利を確信した。


財前は今ホームイン。


スカイウォーカーズが2点を先取。




ベンチでは全員が出迎えた。


「さすが三冠王!やるじゃん!」


榊がヘルメットをバシバシ叩く。


「痛えっつーの!」


「ナイスバッティング!」

「さすが財前さん!」

「財前さん、カッコイイ!」


皆にもみくちゃにされ、ベンチに腰掛けた。


「後は継投策で逃げ切るだけだ!」


次の回はアクーニャが投げる予定だ。


2点を先制された99ersだが、焦りの色は無い。



(財前…やっぱりお前が打ったか。
でも、これは想定内だ!
ホントの勝負はこれからだ!)


センターの守備位置で吉川がほくそ笑む。



那須川に動揺は無く、4番結城、5番鬼束、6番毒島を打ち取りチェンジ。



5回の裏、99ersの攻撃は9番柴崎から。


マウンドには、中邑に代わって左の中継ぎアクーニャが登板。

そしてキャッチャーも七海から正捕手の保坂に代わった。


昨年オフにレッズを解雇されて、テストでスカイウォーカーズに入団した。


開幕から一軍で活躍、4勝1敗、34ホールド 2セーブ 防御率は2.52と中継ぎエースの名に相応しい成績を残した。



【5回の裏、99ersの攻撃は、9番ショート柴崎】


柴崎が右打席に入って素振りを3回する。


これまでの対戦成績は12打数0安打とカンペキに抑えているが、油断は禁物。



保坂は初球にクチージョと呼ばれる、140km/h中盤の高速カットボールのサインを出した。


アクーニャはインコースへサイン通りクチージョを投げた。


柴崎はそれに合わせ、ちょこんとバットを出した。


打球はフラフラっとセカンド後方へポトリと落ちた。


バットを中途半端に出したお陰で、打球は上手く野手のいない場所に落ちた。


これでノーアウトからランナーが出た。


【1番サード比嘉】


トップに返り、比嘉が打席に向かう。


昨年は琉球マシンガンズの初優勝に貢献し、アポロリーグの首位打者並びにMVPを獲得。


今年99ersに移籍して、去年程の成績を残していないが、打率0.312 本塁打15 打点61とトップバッターにしてはまずまずの成績だ。


スコーピオン打法と呼ばれるバットの先端を相手ピッチャーに向ける、独特のフォームから鋭いスイングで打球を飛ばす。

上半身は筋骨隆々で、一見するとパワーヒッターに思われがちだが、打率も残せる中距離ヒッター。


右打席に立ち、スコーピオンの構えで眼光鋭くアクーニャを射る。


(さっきのはマグレだ…もう一度クチージョで詰まらせ、ゲッツーで打ち取ろう)


再度クチージョのサインを出した。


柔らかい上半身を使ったダイナミックなフォームで初球を投げた。


真ん中からインコースへくい込むクチージョ、だが比嘉もこれをちょこんとバットを出す。


弾き返された打球はあっという間に二塁ベースを通過してセンターへ。


柴崎、比嘉の連続安打でノーアウトランナー一塁二塁となった。


保坂がマウンドに駆け寄る。


次は99ersで1番怖いバッター、吉川だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...