The Baseball 主砲の一振り 続編3

来季へ向けて

コンバート案

ベンチでは櫻井と中田が何やらヒソヒソと話し合っている。

「…どうでしょうかね？」


「ウーン…そうだなぁ、オレもそう思ったんだよ実は」


「あぁ、やっぱり中田さんもそう思いましたか」


どうやら誰かをコンバートさせようというつもりらしい。


「とは言え、ぶっつけ本番というワケにはいきませんし、チームも優勝争いしてる状況ですしね」


「試してみるのは、シーズンが終わってからじゃないと難しいな」


外野手が内野に、もしくは内野手が外野手にコンバートされるのか、それはまだ不明だ。



試合は投手戦のまま、6回の裏まで進む。


バッターボックスは6番の毒島。


第1打席はショートゴロ。


マウンド上では先発の那須川がいつものようにボールに向かって呟く。


「さぁ、この打席は打ち取る事が出来るか…
うん、大丈夫だ！」


那須川はこうやって精神統一をしている。



外崎がサインを出す。


サインに頷き、初球を投げた。


インハイへストレートがスバっと決まる。


「ストライクっ！」


「エッ、ウソ…今の高いでしょ？」


毒島は主審にクレームを付けた。


際どいコースだったが、ギリギリストライクゾーンに入っている。


「今のはストライクだ！」


主審は毅然とした態度で跳ねのける。


「…っかしいなぁ、今の入ってるのかよ」


釈然としないが、これ以上クレームを付けると退場になりかねないので控えた。


（高目の球についていけないのか…いや、待てよ…もしかしたらブラフかも）


マスク越しから毒島の構えをジーッと見る。


（随分と大きな構えだな…これじゃ低目は打てても、高目は打ちづらいだろ）


低目狙いかもしれない、そう思い外崎はもう一度高目の球を要求する。


サインに頷き、2球目を投げた。


今度も高目だが、外に逃げるツーシームだ。


「ヨシ、貰った！」


毒島は踏み込んで外の球を捕えた。


カコーン、と乾いた音が響き、ライナーで左中間フェンスを直撃。


毒島は一塁を蹴って二塁へ。


レフトギャレットがボールに追いつき二塁へ送球するも、毒島は楽々セーフ。


毒島の二塁打でノーアウトからのチャンスを作った。


（打つ瞬間にグリップの位置を変えやがった…高目を待っていたのか）


外崎の読みが外れた。


【7番レフト森高】


第1打席にレフト前ヒットを打ってる森高が打席に入った。


ルーキーながら、打率0.289 本塁打21 打点76とかなり上出来な成績を挙げる。


ネプチューンリーグの新人王最有力候補でもある。



外崎がマウンドに向かった。



「那須川、勝負したいか？」


「相手はルーキーですよ？
ルーキー相手に歩かせるなんて、この先何度も勝負するのに、逃げたと思われるじゃないすか」


那須川は強気だ。


外崎がベンチを見た。


ベンチでは動く気配が無い。


センターの守備位置では、吉川が勝負だというジェスチャーをしている。



「ヨシ、勝負しよう」

那須川にボールを渡し、マウンドを下りた。



（勝負をするけど、クサイところを投げて決め球はズバっとインコース低目のクロスファイヤーボールだ）


外崎の組み立ては決まった。



初球のサインを出す。


那須川は首を振る。


もう一度サインを出した。


力強く頷き、初球を投げた。

アウトコースからギリギリストライクゾーンに入るカットボールだ。


（狙い通りだ！）


森高はこれをフルスイング。


ジャストミートした打球はグーン、とレフトへ高々と飛ぶ。


ギャレットは一歩も動かず、打球を見上げる。


その放物線は弧を描いてスタンド中段に突き刺さった。


「あのフロントドアをホームランにするとは…」


外崎は唖然とした。


森高の先制22号ツーランでスカイウォーカーズが2点を先制した。


「あの球をレフトに運ぶなんて…ホントにルーキーなのか、アイツは」


打たれた那須川も唖然としている。



このホームランが決勝点となり、スカイウォーカーズは7回から流川、8回はアクーニャ、最終回はジェイクと継投リレーで完封勝ちを収めた。


勝った降谷はこれで8勝2敗、防御率は2.83

ドジャースにいた頃の成績を加算すると、13勝6敗、防御率は1.98と両リーグ通じてダントツのトップとなる。


「これで今年の契約更改はかなり貰えそうだな」


降谷は満足気な表情で来年の年俸を計算していた。



これで99ersとの対戦成績は12勝9敗。


ゲーム差は2と縮まった。


これで2位のマーリンズが敗れるとゲーム差は僅か1となる。



「ヒロト、やってみる価値はありそうだな」


「えぇ、ボクが監督ならば、優勝争いから脱落してもやってみたいんですが…榊さんが難色を示すでしょうね」


櫻井のコンバートとは、一体。