The Baseball 主砲の一振り続編3

sky-high

文字の大きさ

大中小

23 / 72

シーズン終盤

助っ人外国人選手の調査

しおりを挟む

ドラフトの候補選手をリストアップした後は助っ人外国人の調査だ。

高梨は誰を獲得するのか、その事について榊と話し合っている。

「獲るならば、投手よりも野手の方が良いかと思うんですよね」

「ピッチャーだと、どうしても先発となるよな？
向こうのピッチャーはスピードはあるけど、コントロールはイマイチなのがなぁ」

メジャーのピッチャーはスピードはあるがコントロールに難があるという先入観を持ってしまうが、それは今まで日本に来ていたピッチャーがそういうタイプだっただけで、実際はそうでもない。

ただ一流どころのピッチャーは日本に来るよりも、メジャーの球団で獲得するケースが多く、どうしてもレベルの落ちるタイプを獲得せざるを得ない。

そんな中、榊の目を引いたのは白人のピッチャーだが、パワータイプではなく、コントロール重視の日本向けのタイプだった。

「コイツ良いんじゃないのか？スピードはそれ程無いけど、コーナーに変化球を上手く投げるじゃん」

在駐スカウトから送られてきたビデオでは、左ピッチャーが変化球を上手く使ってゴロを打たせている、所謂グラウンドボーラータイプのピッチャーだ。

「左腕でスピードは140そこそこ…でも、スリーボールからギリギリのコースに変化球を投げるとは上手いな」

「チェンジアップですかね…決め球なのかな」

そのピッチャーはフワッと手元で大きく沈む球を操る。

その変化は一種類のみではなく、シンカー気味に利き手側に落ちたり、フォークの様にストーンと落差の大きい変化、カーブの様に縦に大きく落ちる変化とバリエーション豊富だ。

「コイツ、どんな握り方してるんだ？」

リリースの瞬間、再生を停止した。

「あぁ、OKボールですね」

「サークルチェンジか！でも、サークルチェンジってフツーはシンカーっぽく変化しないか？」

サークルチェンジはOKのマークの様に親指と人差し指で円（サークル）を作り、速球と同じ腕の振りで投げる為、速球と比べて15～20km／h遅い速度で変化する。

かつては榊もサークルチェンジを投げていたが、落差の大きいカーブをマスターすると同時に封印した。

「榊さんも現役時代投げてましたよね？」

「ん～、投げてたけどさ…佐久間のオヤジから教わったカーブをマスターしたら、どういうワケか変化があまりしなくなって打たれて、投げるのを止めたんだよ」

「このピッチャーはサークルチェンジの握りで何種類もの変化を操るんですかね？」

もう一度ビデオを再生してみる。

「ここだ！」

一時停止のボタンを押す。

「ちょっと見にくいけど…少し握りを変えてるような」

「分かりにくいな…チェンジアップって言っても、何種類の握り方があるし、状況に応じて使い分けてるんだろ」

とにかくチェンジアップだけでも数種類の変化があるという事らしい。

「このピッチャー、中々やるじゃん！何ていう名前だ？」

チェンジアップばかりに気を取られ、肝心の名前を忘れていた。

「この資料によると、クレイグ・マクダウェル。
現在33才で、ボストン・ビーンズ所属。
23才でメジャーに昇格して、3年目には2.16という防御率でタイトルを獲得してます。
球速はMAXで90㍄（約145km／h）ですが、先程ビデオで観たように、80～87マイル（約129～140km／h）のチェンジアップの他にツーシームやスライダー、カーブを投げ分け、三振よりもゴロを打たせるピッチングを得意としてます。
彼は肩は消耗品という持論で、1試合平均92.4球。
最も少ない時で82球。
100球未満で完封した試合は11、完投勝利だと24試合ありますね」

「スゲーな！少ない球数で相手を抑えるピッチングか…でも、そんだけ良いピッチャーだと、日本に来る可能性はまず無いんじゃないのか？」

「それがですね…このマクダウェルってピッチャーは、フィールディングは一流なんですが、牽制やクイックがヘタ…いや…ヘタと言うか、無関心と言った方がいいのか…とにかく、ランナーを全く警戒してないんですよ」

「なんだ、そりゃ？」

フツー、ランナーが出ると牽制やクイックモーションで盗塁するのを防ぐのだが、マクダウェルは盗塁したけりゃ、どうぞと言わんばかりに無警戒だ。

「何でも本人が言うには、【盗塁を許しても、点に結びつくケースは17%に過ぎない】という事らしいんです。統計学的事実に基づいたというんですが、具体的な根拠は話してないみたいなんですよ」

「へぇ～、盗塁を許しても得点に結びつく確率は17%ねぇ…当たらずとも雖も（いえども）遠からずって感じだな。17%かどうかは知らないけど、決して高い確率で点を取られる事は無いと思うんだよな…
今も昔もそうだけど、盗塁すれば必ず点に結びつくなんて事は無いんだよ。
現にドジャースなんか、アウトになる確率が高いから、盗塁をあまりやらないじゃん」

セイバーメトリクスに基づく野球を展開する北九州ドジャースは盗塁数が少ない。

「でも、終盤に足の速い選手が塁に出たら…」

「自信があるんだろうよ。省エネ投法で完封するんだぜ。そんな展開にはさせないって自信が」

榊はクレイグ・マクダウェルというピッチャーに興味を持った。

しおりを挟む