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ストーブリーグ
キミはキミの思うがままに
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「とても越えてるなんて思ってません!何故オレがあなたを越えてるんですか?」
「それはキミの才能がボクより上だからだよ」
いつしか唐澤の視界には櫻井しか映らなくなっていた。
「ちょっと…場所を変えよう」
唐澤をファールグラウンドまで連れて行った。
「キミは…何から何までボクに似ている」
「似てるって…どこがですか?」
陽の光を浴びている唐澤はキラキラとして眩しいかぎりだ。
「君とボクの共通点は、外野手で左打ち…それと瞬時にピッチャーの投げる球種を読み当ててしまう能力」
「…それも分かってたんですか?」
全球では無いが、集中力が増すとピッチャーの投げる球種が手に取るように分かってしまう。
櫻井はこの不思議な能力で歴代最多安打を記録している。
「別に驚く事は無いよ…ボク以外にもそんな能力を持った人はいるんだし」
「そうでしょうか?そんな能力が備わったならば、いとも簡単にヒットを打てるじゃないですか」
フッ、と櫻井は笑った。
「キミはいとも簡単にヒットを打てるのかい?」
「い、いえ…」
いくら球種が読めたとしても、簡単には打てない。
「例えばアウトコースにスライダーが来るとしよう。それを読んでいても、的確に芯で捕らえてヒット出来ると思うかい?」
「難しい事だと思います…」
「だろうね。野球もそうだけど、他のスポーツだって生身の人間がやっているんだ。いくら球種が分かってもその時の精神状態でヒットになるか、凡打になるか…」
「仰る通りです」
難しい事を言ってるみたいだが、心·技·体が備わって完璧に芯で捕らえる事が出来るのだろう。
「キミはボクよりも球種を読む能力が長けている。じゃあ、どうすればいいか…この先は言わなくても分かってるよね」
「何となくですが…ハイ…」
天才同士にしか分からない会話なのだろうか。
「それが分かればキミはボクの記録なんか、あっという間に抜いてしまうよ。だからボクが教える事なんて無いんだよ」
少しシワが増えた櫻井の表情は穏やかだ。
「そうですか…」
これ以上は何を聞いてもムダか…そう思い、その場を立ち去ろうとした。
「あぁ、でも一つだけ言うのを忘れてた」
「なんです?」
唐澤が踵を返した。
「キミは左投左打だけど、日常生活では右利きじゃないか?」
「何故、それを…」
唐澤は元来右利きなのだが、野球を始めた頃に父親から買ってもらったグラブが左利き用だった為、それを使っているうちに自然と野球では左で投げるようになった。
「やっぱりそうか…実はボクも本来は右利きでね」
「えっ…そうだったんですか?」
「うん…ボクの場合、父が野球をやるなら左の方が有利だって、無理矢理左利きに矯正されたんだよ」
櫻井も左投左打だったが、実は右利きだった。
高校時代はピッチャーとして甲子園に出場を果たしている。
「初耳でした…まさか、オレと一緒で左利きに替えていたとは」
「ピッチャーをやるからには、左で投げろ!って父に言われて、毎日の様に左で投げる訓練をしてね…結局プロに入ったら野手に転向したけど、もし右利きのままだったらプロに入れたのだろうかって、たまに考える時があるけどね」
話を聞いているうちに、何だか心地よくなってくる。
櫻井の話し方は気持ちを和らげるようだ。
「オレも子供の頃はオヤジが間違って、左利き用のグラブ買ってきたせいでかなり苦労しましたが、右利き用のグラブ買い直してとは言えませんでした…ウチは裕福な家庭じゃなかったもので」
櫻井は柔和な笑みを浮かべた。
「それならば、オヤジさんに感謝しなきゃね。そのお陰でキミはプロ野球選手になれたんだ」
「あ…ありがとうございます」
唐澤は深々と頭を下げた。
「ボクは左腕を器用で力強くする為にあらゆる事をやった…そのお陰で多少は今の選手達にも知られるような存在になっているけど」
「何を言ってるんですか!櫻井コーチを知らないなんて選手はいませんよ!」
「いいよ、ボクの事は…それより、キミはもう少し左手を上手く使った方がいいかもね。技術的な事を言うならばこのぐらいかな…後はもう…何も教える事は無いんだよ」
「左手を器用にですか…」
「まぁ、今までそうやってきたんだろうけど、更に器用に使える左手にしてみるといいよ」
「分かりました…やっぱり櫻井コーチの話を聞いて損は無かったです。ありがとうございます!」
「頑張って…キミはこれからの球界を背負って立つ人物なんだからね」
そう言うと、唐澤の肩をポンと叩いた。
「はい!分かりました!」
再度頭を下げ、グランドに戻った。
その後ろ姿を見て、かつての現役時代の姿を重ね合わせたのだろうか。
「それはキミの才能がボクより上だからだよ」
いつしか唐澤の視界には櫻井しか映らなくなっていた。
「ちょっと…場所を変えよう」
唐澤をファールグラウンドまで連れて行った。
「キミは…何から何までボクに似ている」
「似てるって…どこがですか?」
陽の光を浴びている唐澤はキラキラとして眩しいかぎりだ。
「君とボクの共通点は、外野手で左打ち…それと瞬時にピッチャーの投げる球種を読み当ててしまう能力」
「…それも分かってたんですか?」
全球では無いが、集中力が増すとピッチャーの投げる球種が手に取るように分かってしまう。
櫻井はこの不思議な能力で歴代最多安打を記録している。
「別に驚く事は無いよ…ボク以外にもそんな能力を持った人はいるんだし」
「そうでしょうか?そんな能力が備わったならば、いとも簡単にヒットを打てるじゃないですか」
フッ、と櫻井は笑った。
「キミはいとも簡単にヒットを打てるのかい?」
「い、いえ…」
いくら球種が読めたとしても、簡単には打てない。
「例えばアウトコースにスライダーが来るとしよう。それを読んでいても、的確に芯で捕らえてヒット出来ると思うかい?」
「難しい事だと思います…」
「だろうね。野球もそうだけど、他のスポーツだって生身の人間がやっているんだ。いくら球種が分かってもその時の精神状態でヒットになるか、凡打になるか…」
「仰る通りです」
難しい事を言ってるみたいだが、心·技·体が備わって完璧に芯で捕らえる事が出来るのだろう。
「キミはボクよりも球種を読む能力が長けている。じゃあ、どうすればいいか…この先は言わなくても分かってるよね」
「何となくですが…ハイ…」
天才同士にしか分からない会話なのだろうか。
「それが分かればキミはボクの記録なんか、あっという間に抜いてしまうよ。だからボクが教える事なんて無いんだよ」
少しシワが増えた櫻井の表情は穏やかだ。
「そうですか…」
これ以上は何を聞いてもムダか…そう思い、その場を立ち去ろうとした。
「あぁ、でも一つだけ言うのを忘れてた」
「なんです?」
唐澤が踵を返した。
「キミは左投左打だけど、日常生活では右利きじゃないか?」
「何故、それを…」
唐澤は元来右利きなのだが、野球を始めた頃に父親から買ってもらったグラブが左利き用だった為、それを使っているうちに自然と野球では左で投げるようになった。
「やっぱりそうか…実はボクも本来は右利きでね」
「えっ…そうだったんですか?」
「うん…ボクの場合、父が野球をやるなら左の方が有利だって、無理矢理左利きに矯正されたんだよ」
櫻井も左投左打だったが、実は右利きだった。
高校時代はピッチャーとして甲子園に出場を果たしている。
「初耳でした…まさか、オレと一緒で左利きに替えていたとは」
「ピッチャーをやるからには、左で投げろ!って父に言われて、毎日の様に左で投げる訓練をしてね…結局プロに入ったら野手に転向したけど、もし右利きのままだったらプロに入れたのだろうかって、たまに考える時があるけどね」
話を聞いているうちに、何だか心地よくなってくる。
櫻井の話し方は気持ちを和らげるようだ。
「オレも子供の頃はオヤジが間違って、左利き用のグラブ買ってきたせいでかなり苦労しましたが、右利き用のグラブ買い直してとは言えませんでした…ウチは裕福な家庭じゃなかったもので」
櫻井は柔和な笑みを浮かべた。
「それならば、オヤジさんに感謝しなきゃね。そのお陰でキミはプロ野球選手になれたんだ」
「あ…ありがとうございます」
唐澤は深々と頭を下げた。
「ボクは左腕を器用で力強くする為にあらゆる事をやった…そのお陰で多少は今の選手達にも知られるような存在になっているけど」
「何を言ってるんですか!櫻井コーチを知らないなんて選手はいませんよ!」
「いいよ、ボクの事は…それより、キミはもう少し左手を上手く使った方がいいかもね。技術的な事を言うならばこのぐらいかな…後はもう…何も教える事は無いんだよ」
「左手を器用にですか…」
「まぁ、今までそうやってきたんだろうけど、更に器用に使える左手にしてみるといいよ」
「分かりました…やっぱり櫻井コーチの話を聞いて損は無かったです。ありがとうございます!」
「頑張って…キミはこれからの球界を背負って立つ人物なんだからね」
そう言うと、唐澤の肩をポンと叩いた。
「はい!分かりました!」
再度頭を下げ、グランドに戻った。
その後ろ姿を見て、かつての現役時代の姿を重ね合わせたのだろうか。
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