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コーチを求めて全国行脚

自信が無い

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「はぁ…まさか、連敗の原因は練習のし過ぎとは」


高梨は頭を抱えた。 


「何でだよ!むしろ足りないぐらいだろ!」


試合前に10キロのランニングに加え、ヒンズースクワット500回なんて、どのチームもやってない。



「選手はバテバテじゃないですか!おまけに、敗けるとパワーボムをかけるんだから、これでよくケガ人が出ないもんだ…」


多分、榊のパワーボムが一番の原因だと思う。







車は首都高から外環に入る。



「あ、また追加点ですよ」


「ウソっ!追加点なんて、今までなかったぞ!」


やっぱり、榊が原因だ…


「七回の表に2点追加しました」


「マジかよ~…これで勝ったら、オレが脳なし監督と呼ばれるじゃないかよ!」


「だから、練習方法に問題があったんですよ」


いっその事、このまま榊を解任させようかと思った。





外環の草加出口で車は降りた。




「何だ、随分近い場所にいるんだな」


「えぇ、彼は草加の出身ですから」



東京都の足立区に隣接する地域で、比較的交通の便も良い。





「着きましたよ、榊さん」


「ここに圭右はいるのか」


車から降りると、三階建ての工場が目の前に。


看板には【KC高峰工業】と書いてある。


「KC高峰?何だかコメディアンみたいな名前の会社名だな」


それは、作者も感じた(汗)




シャッターが開いていて、中には数人の従業員がアーク溶接をしている。


光を見ると目をやられるので、2人は目を伏せた。




「ここに圭右がいるのかよ」


「えぇ。実家の家業を継いでいるみたいです」



「圭右はどこだ?」



「上の階にいるんじゃないでしょうか?」


脇の階段を上る。


2階が事務所になっている。


「ごめんください。社長はおりますか?」


ドアを開けると、中年の女性がこちらを見た。

事務員だろう。



「えーっと、おりますがどちら様でしょうか?」


「あぁ、申し遅れました。私、高梨と申します。
社長さんはどちらへ?」


「少々お待ち下さい。えっと、たか…すみません、もう一度お名前をよろしいですか?」


「たかなしです」


「高梨さんですね、今呼びますので」


事務員は電話をかけた。



「出掛けてるんじゃないのか」


「そうかもしれませんね」


すると、上の階から社長らしき人物が下りてきた。


「あっ、高梨さん!」


作業着を身を包んだ高峰が驚きの声を上げた。


「おいっす、久しぶりだな圭右!」


「えっと…どちら様でしょうか?」


「オレだよ、オレ!」


前回と同じくサングラスを外した。


「あ、榊さん?でも、榊さん確か監督じゃ…」


「今は休養中だよ!何だよ、大和の時と同じパターンじゃないかよ」


プロ野球の監督が日中アロハシャツを着て工場に来るなんて、まず有り得ない。


「でも、どうしたんですか突然?まぁ、こんな所じゃなんですから、どうぞ中に入ってください」



高峰は2人を応接室へ案内した。



「いやぁ~、まさかこんな場所にお2人が来るなんて」


高峰はテーブルの上にお茶菓子を出した。



「あぁ、ありがとう。どうだ圭右、景気の方は?」


「うーん、あんまり良くないですね~」


現役の頃と変わらない体型をしている。



「圭右、お前に頼みがあるんだよ」


榊が話を切り出した。


「頼みって、何でしょうか?」


「実は、来季のコーチをお前にやってもらおうと思ってここへ来たんだ」



「コーチ…ですか」


高峰の表情が曇った。



「家業を継いでいるのに申し訳ないが、是非ともお前の力を貸して欲しいんだ」



「圭右、やろうぜ!金の事なら心配するな!何なら、年棒1億でもいいぞ」


「1億っ?」


「榊さん、いくら何でもコーチに1億の年棒は」


高梨が慌てる。


「いいだろ、そのぐらい!なぁ、圭右?」



「申し訳ありませんが、コーチなんてとてもムリです…」


高峰は頭を下げた。



「何でだよ、こんな場所であくせく働くより、コーチやって毎晩銀座で豪遊しようぜ!」


「榊さん!こんな場所は失礼でしょう!」


高梨が窘めた。



「何だよ、ホントの事じゃないかよ!おい、圭右!つべこべ言わずにコーチをやれ!」


強引過ぎる…


「一度、コーチをやったのですが…どうも自分には向いてないんじゃないかと思って…」


高峰は過去に他チームの投手コーチをしていた。
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