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文化祭編
”頭脳”
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優勝を目指すからには全力で行きたいと思う。多分僕はいつもと違う。個人のことは考えられないだろうし、口調も厳しくなると思う。それでも約束しよう。絶対にこのクラスを優勝させてみせる!」
鳥肌がたった。皆もどこかぽかんとしている。それもそのはず、俺を含めたクラスの全員が持っていた孔太の印象。それは、面倒見のいい優しい委員長。いろいろ万能だけど、どこか覇気にかける・・・そんな感じだったのだ。今の孔太はまるで覇気の塊。すごい迫力だった。ようやく彼の言葉の真意を掴みかけたところで皆がその雰囲気に呼応した。
「やるぞーー!」
「絶対皆で優勝しよう!」
男子だけでなく女子も声を出している。文化祭前のものとしては間違いなく最高の雰囲気。
でも、なぜか俺の心をモヤモヤとした得体の知れない何かが占領し始めていた。
霧峰東高校の文化祭は2日に渡って開催される。1日目は学校で、1、3年が教室を使った展示及び模擬店。2日目は2年による劇の上映と有志発表。そしてフィナーレには吹奏楽部と箏曲部による共同演奏会が行われる。我々1年は8クラス対抗で争うわけだ。1、3年は顧客からお金を取ることができる。ここからが面白い制度だ。優勝したクラスは、その学年で得た売上金のすべてを手にすることができる・・・というものだ。立地のおかげもあって、客の数には事欠かない。過去の記録では、10万円以上を稼いだ学年もあるとかないとか。
「それじゃ、文化祭の要綱について説明するよ。一応今から説明はするけど、多分把握は難しいと思うから、後ろの黒板に貼っとく。海にも覚えてもらったから、海にも聞いていいよ。な?」
聞いてないですよ、孔太くん。なんですかその無茶振りは。サポートの意味取り違えていないっすか?
そんなことを考えていると、皆の視線が俺に集中していた。
「あ、あぁ大丈夫。皆が寝てる間に覚えたから!」
「まぁ海の記憶力に期待しよう。多少心配だけどね。」
そう言ってまた教室を沸かせる。
突然孔太の表情が厳しくなる。
「できるだけ短く済ませるから、ここだけは集中して聞いて欲しいと思う。僕は、今回の企画の生命線は、資金の運用と、瞬間的なインパクトの2つだと思っている。知ってる人も多いと思うけど、優勝クラスには報酬がある。それを手に入れるためにも・・・」
そこまで言うと、孔太は1度全体を見回して、異様に冷たい声で呟いた。
「僕らの意見を集約させる頭脳を構築する。」
なぜか、背中に氷を当てられたような感覚に陥る。
黒板へ要点を書きつけていた手を止め、孔太の顔を覗くと、彼の目は光を宿していなかった。
何もかもを吸い込んでしまいそうな深い黒色。無意識に孔太に触れようとしたところで、再び彼は話し始めた。
「僕と海、そこに2人有志を募りたいと思う。正直、楽な仕事ではないと思うけどやれる人がいるならやってほしい。誰もいなければ、僕と海でこなし切る。脳の仕事は判断し、支持することだ。」
そこで、孔太は1度話を止めた。大きな深呼吸をして俺の方を向く。さっきと変わらない表情。それなのに、俺にはなぜか少し悲しそうな顔をしているように感じた。
「2つだけ守ってほしい。
1つ目は、意見があったら必ず我らが頭脳に話してほしい。良いものならば取り入れるだろうし、悪い点があればしっかり一緒に考えて、納得させる。2人だけで完璧にするのは不可能だ。手を貸してほしい。
2つ目は、指示に従ってほしい。脳の言うことが聞けない体が強いわけがない。大丈夫。僕らは絶対に勝てる。」
言葉を切った孔太に続いて、俺も黒板から離れる。教室を見渡すかぎり、皆は真剣に孔太の話を聞いていたようだ。時刻は3時にもなっていない。もちろんどのクラスもまだ終わってないが、孔太は皆を帰らせることを選択した。
「皆、お疲れ。今日はこれで終わりたいと思う。各自、先に話した2つのポイントを考慮した案を考えてきてほしい。僕は皆を信じているよ。解散!」
孔太はそう言って、力なく笑った。
俺はお疲れさん!と声をかけて、孔太の肩をたたく。顔を覗くと、ちょっと疲れた様子のいつもの奴が居た。
「海、無茶振りしてごめんな。これから頼む。我が頭脳として。」
そう言って教卓から降りる。一段の差があってなお、まだ俺の方が背は低い。
教室に残った俺は1人。心の中の違和感は大きくなっていくばかりだ。
鳥肌がたった。皆もどこかぽかんとしている。それもそのはず、俺を含めたクラスの全員が持っていた孔太の印象。それは、面倒見のいい優しい委員長。いろいろ万能だけど、どこか覇気にかける・・・そんな感じだったのだ。今の孔太はまるで覇気の塊。すごい迫力だった。ようやく彼の言葉の真意を掴みかけたところで皆がその雰囲気に呼応した。
「やるぞーー!」
「絶対皆で優勝しよう!」
男子だけでなく女子も声を出している。文化祭前のものとしては間違いなく最高の雰囲気。
でも、なぜか俺の心をモヤモヤとした得体の知れない何かが占領し始めていた。
霧峰東高校の文化祭は2日に渡って開催される。1日目は学校で、1、3年が教室を使った展示及び模擬店。2日目は2年による劇の上映と有志発表。そしてフィナーレには吹奏楽部と箏曲部による共同演奏会が行われる。我々1年は8クラス対抗で争うわけだ。1、3年は顧客からお金を取ることができる。ここからが面白い制度だ。優勝したクラスは、その学年で得た売上金のすべてを手にすることができる・・・というものだ。立地のおかげもあって、客の数には事欠かない。過去の記録では、10万円以上を稼いだ学年もあるとかないとか。
「それじゃ、文化祭の要綱について説明するよ。一応今から説明はするけど、多分把握は難しいと思うから、後ろの黒板に貼っとく。海にも覚えてもらったから、海にも聞いていいよ。な?」
聞いてないですよ、孔太くん。なんですかその無茶振りは。サポートの意味取り違えていないっすか?
そんなことを考えていると、皆の視線が俺に集中していた。
「あ、あぁ大丈夫。皆が寝てる間に覚えたから!」
「まぁ海の記憶力に期待しよう。多少心配だけどね。」
そう言ってまた教室を沸かせる。
突然孔太の表情が厳しくなる。
「できるだけ短く済ませるから、ここだけは集中して聞いて欲しいと思う。僕は、今回の企画の生命線は、資金の運用と、瞬間的なインパクトの2つだと思っている。知ってる人も多いと思うけど、優勝クラスには報酬がある。それを手に入れるためにも・・・」
そこまで言うと、孔太は1度全体を見回して、異様に冷たい声で呟いた。
「僕らの意見を集約させる頭脳を構築する。」
なぜか、背中に氷を当てられたような感覚に陥る。
黒板へ要点を書きつけていた手を止め、孔太の顔を覗くと、彼の目は光を宿していなかった。
何もかもを吸い込んでしまいそうな深い黒色。無意識に孔太に触れようとしたところで、再び彼は話し始めた。
「僕と海、そこに2人有志を募りたいと思う。正直、楽な仕事ではないと思うけどやれる人がいるならやってほしい。誰もいなければ、僕と海でこなし切る。脳の仕事は判断し、支持することだ。」
そこで、孔太は1度話を止めた。大きな深呼吸をして俺の方を向く。さっきと変わらない表情。それなのに、俺にはなぜか少し悲しそうな顔をしているように感じた。
「2つだけ守ってほしい。
1つ目は、意見があったら必ず我らが頭脳に話してほしい。良いものならば取り入れるだろうし、悪い点があればしっかり一緒に考えて、納得させる。2人だけで完璧にするのは不可能だ。手を貸してほしい。
2つ目は、指示に従ってほしい。脳の言うことが聞けない体が強いわけがない。大丈夫。僕らは絶対に勝てる。」
言葉を切った孔太に続いて、俺も黒板から離れる。教室を見渡すかぎり、皆は真剣に孔太の話を聞いていたようだ。時刻は3時にもなっていない。もちろんどのクラスもまだ終わってないが、孔太は皆を帰らせることを選択した。
「皆、お疲れ。今日はこれで終わりたいと思う。各自、先に話した2つのポイントを考慮した案を考えてきてほしい。僕は皆を信じているよ。解散!」
孔太はそう言って、力なく笑った。
俺はお疲れさん!と声をかけて、孔太の肩をたたく。顔を覗くと、ちょっと疲れた様子のいつもの奴が居た。
「海、無茶振りしてごめんな。これから頼む。我が頭脳として。」
そう言って教卓から降りる。一段の差があってなお、まだ俺の方が背は低い。
教室に残った俺は1人。心の中の違和感は大きくなっていくばかりだ。
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